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貯蓄投資バランス分析による過剰貯蓄・過少投資の解決策 (Ⅲ)

2025年7月10日

社会資本研究所
新経済研究チーム

今田 元喜

非金融法人セクターのマクロバランスシートはトヨタと同等の超優良な財務評価

金融以外の様々な一般法人の集合体である日本の非金融法人セクターのマクロバランスシートを分析すると金融資産が1600兆円(1582兆円)、 非金融資産、大方は工場や事務所、土地などへの実物投資の固定資産などが1400兆円(1413兆円)あり、両方を足した総資産は3000兆円(2995兆円)となり、GDP6百兆円の5倍の資産規模となります。  一方、金融負債は800兆円(839兆円)、他人資本を加えた自己資本は2200兆円(2156兆円)であり、自己資本比率は7割強、負債比率は3割弱であり、非金融法人セクターの財務評価はAクラスの健全な状態と言えます。  非金融法人は、製造業と非製造業にわかれますが、日本一の製造業であるトヨタ自動車のバランスシートを分析すると金融資産は16兆円(15.7兆円)、非金融資産は13兆円(13.3兆円)であり、総資産が29兆円となり、 日本の非金融法人全ての資産は、トヨタ規模の会社が百社集まったものと同等となります。 トヨタは金融負債とその比率が7.5兆円・25%、自己資本とその比率が21.5兆円・75%で、上場企業の中でも超優良な企業に位置付けられます。  このバランスシートを日本の非金融法人が目指すべき目標基準(メルクマール)とすると日本の非金融法人セクターの自己資本の比率は7割強であり、すでに日本の非金融法人セクターはトヨタ並みの健全な財務構造となっています。  つまり、日本の非金融法人セクターは優良なマクロバランシートを形成していると評価できます。

〔非金融法人セクターのマクロバランスシート構造〕

〔トヨタ自動車のバランスシート構造〕

非金融法人セクターの課題は製品サービスや事業の開発投資をいかに促進すべきか

非金融法人セクターの自己資本の比率が7割、金融資産と非金融資産が各々総資産の5割、金融負債が全資産の4分の1ということは、新たな開発に投入できる潤沢な投資資金がありながら、 それを活用しない過剰貯蓄で過少投資の財政状態の会社が多いという見方になります。 日本経済が成熟し、自動車や精密機械など実績のある様々な伝統産業が好調で、過度な投資をしなくても、潤沢な事業収入を稼ぎ続ける良好な経済状態が続いているともいえます。  別の角度から、成熟産業は順調に伸びているが、有望な新産業への投資が少ないため、GDPは成長せず、法人業績は伸び悩み傾向ではないかと分析しています。  非金融法人セクターの財務内容は優良ですが、投資意欲が減退し続け、次々と新しい事業にチャレンジ、未来に飛躍する新産業を興す会社が減っているとも考えられます。

国内の事業法人数は、減り続けており、農林業を除く会社数は、製造業で従業員3百人以上、サービス業で従業員百人以上を大企業とするとその数は1万社であり、中小企業は50万社、小規模事業者は280万社の330万社強となります。  事業承継による合併などで法人数が減り、法人当たりの規模拡大もあり、一概に法人数の減少が事業衰退につながるとは言えませんが、倒産件数でみると2024年の1年間で1万件、 2025年の上半期で5千件、そのうち8割が販売不振、残り2割は人手不足、後継者難、物価高が原因となっています。 近年、企業は負債を嫌う傾向が強まっており、事業会社の数の減少は、事業の将来の方向性を見極め、存続する場合は合併、 廃止する場合は清算や廃業などで早めに経営的な対策を講じる会社が増え、その結果、 財務内容が改善しているのではないかと分析しています。 1990年代以降、GDPの伸びが低迷する緊縮財政の政治環境において、 多くの企業が生き残りのため良好な財務内容を目指してきました。 逆に言えば、新しい製品サービスを開発する意欲、新たな事業に挑戦する活力が弱まったと言えます。  経営者が、新産業を創出するために事業投資を増やそうとしても、個々の企業にとって新製品や新事業を開発する投資負担は重く、開発過程で失敗や挫折を経験する覚悟も必要であり、事業開発に消極的にならざるを得なかったと分析しています。

実際、数年以上、新事業で鳴かず飛ばずの赤字が続き、肩身の狭い思いをする苦労話を聞くと新事業開発の投資に意欲のある会社を増やすことは並大抵のことではないことがわかります。  そこで新事業の開発を促すためには、政府が音頭をとり、投資資金の支援や新たな開発を促す仕組み、制度の導入が欠かせません。 例えば、財政投融資を活用した融資ではなく、投資を促す新制度を導入する考え方も必要になります。  新産業創出では、読めない未来に対し、必ず失敗や試行錯誤はつきものです。 新産業の開発には莫大な資金がかかる場合もあると腹をくくる必要もでてきます。  計画通りにいかない失敗や試行錯誤の連続の中にこそ、それを克服するための課題解決策がみつかるものであり、知恵を使って何度も工夫し続けることで、真に価値のある新しい製品サービスやノウハウが生まれる素地、フィールドが形成されます。  人は失敗し頭を打って初めて本当のこと、真実を知るのであり、常に論理的な正論を主張し続けるAIとそこが決定的に違います。 人が人らしく失敗を続け、そこから新たな教訓を得ることができる限り、機械的な処理しかできないAIとは異なり、 人は独自の進化を続けるので、AIが人の能力を超えるというシンギュラリティの議論はナンセンスです。  経営者は事業開発で最初から失敗に挑み続ける覚悟が必要であり、新たな教訓、ノウハウを学べる修業の場と割り切るぐらいの胆力が求められます。

非金融法人セクターに共通する課題とは、新たな製品サービスや新事業の開発の投資をうまく促進できないことであり、投資を促進できないとGDPを飛躍的に拡大し続けることは難しいといえます。  今までGDPの拡大ができなかったのは、政府の責任だと主張する専門家も多いと思います。 確かに積極財政で経済を健全な2%前後のインフレ基調で推移できるように舵取りができなかった責任は政権与党にあります。  しかし、一方で会社内に潤沢な金融資産がありながら、それを有効活用して新たな製品、新事業の開発に積極投資をしてこなかった責任は企業の経営者にあると言えます。  政府の積極財政と企業経営者による積極投資という両輪がうまく作用しないとGDPは拡大できず、日本はこれから積極投資を推進する有能な経営者を育成していく必要があります。

非金融法人セクターの積極投資を促すためにどのような制度設計を進めるべきか

社会資本は、日本や日本人を豊かに強くする国の富み、国富の源泉となる産業資本や金融資本、情報資本などを複合的に融合させた新たな社会的価値を提供できる事業サービスを意味します。  日本経済を大きくするためには、この社会資本の拡充が何より必要となります。 明治維新から令和の現在に至るまで、鉄鋼や工作機械、自動車、携帯通信などの巨額投資が必要な「産業資本」の分野や銀行、証券などの巨額資金が動く 「金融資本」の分野が国家繁栄に貢献してきました。 水道、ガス、電気、高速道路、鉄道といったライフラインの「インフラ資本」、農林水産業、飲食業、流通業などの「生活資本」、防衛、防災産業などの 「安全資本」、医療、福祉、教育などの「人材資本」の分野も日本を豊かに強くするためにさらなる発展が望まれています。 従来、社会資本は、狭義では道路、電気などの社会インフラや人間関係のつながりを意味し、 広義の概念として、産業資本や金融資本、情報資本、インフラ資本、生活資本、安全資本、人材資本が互いに有機的に連携、融合し合って社会的価値のある新たな事業サービスを生み出す資本を意味するようになりました。  この社会資本が充実すると経済が発展、社会が繁栄するので、結果として日本は豊かに強くなると考えられています。  国レベルで社会資本が充実すると国が富み、国富が拡大、GDPは急速に増加します。  GDPが拡大すれば、国民所得が増え、裕福な男女も多くなり、婚姻数も増加、生まれる赤ちゃんも増えて少子化問題も一気に解決します。 社会資本の充実、国富拡大こそが、政治家が取り組むべき最優先の課題となってきます。  そこで非金融法人セクターの積極投資を促しGDPを拡大させるためには、まず企業がこの社会資本の拡充を目指すべきであり、国はその拡充のための新たな制度設計をおこなう必要があります。

社会資本を企業経営の財務内容で考えると社会の公器として、働く従業員や取引先などのステークホルダー、利害関係者や企業が所在する地域社会に広く貢献するために投入される出資金や資本金がこの社会資本に相当します。  従来の特定の株主が所有する資本金と異なり、会社の利害関係者や地域、あるいは社会へいかに貢献したかが問われる資本金、出資金を意味します。  これを社会資本金、証券として流通されるものを社会資本証券と呼べば、その出資元は取引先企業だけでなく、国や地方自治体、公共団体、医療法人、農業法人、 社会福祉法人、財団法人、篤志家(とくしか)など広く公的な機関や法人、個人となり、株式の配当還元より社会還元、社会貢献が問われる新しいタイプの出資金となります。  政府主導でこうした新産業分野の投資を拡大するためには、財務省の理財局や主計局が母体となって、省庁横断的に新産業を推進する部署を統合した国富省創設の必要性を説明しましたが、まさに社会資本の出資金こそ、 国富省主導で企業へ投入される財政投融資そのものとなります。 国富省ができると次世代航空旅客機、核融合発電、空飛ぶ自動車、人型ヒューマノイドロボット、量子コンピュータ、天然ガスや石油、希少金属などの鉱物資源の海底発掘、 大規模な穀物野菜工場、宇宙ステーションや火星探索ロケットといった宇宙産業などの様々な新産業へ莫大な資金が投入されるようになります。

それら新産業の開発に関与する企業群に対し、国富省から莫大な社会資本の出資金が投入され、新産業育成が推進されます。 さらに社会資本の出資対象でない企業に対しても新たに投資保証協会という組織をつくり、 国が金融機関の出資を保証する新たな制度を導入、企業の新産業への参入を容易にする制度を導入します。 また、財政投融資の仕組みの中で、全額損失のリスクのある開発プロジェクトを推進するための投資証券、 これを社会資本証券と命名して、日本の金融機関や篤志家に購入してもらう新しい方法も考えられます。 さらにこうした社会資本証券が流通できる新しい社会資本市場を創設する考え方もでてきます。  例えば、ハイリスクでだれも購入しない、かといって元本保証だと財政規律は保てない新プロジェクトが存在すると仮定します。 そこで10年と言った投資期間をもうけ、新事業会社が破産し全損の時は、 その時点で元本の2割を保証協会が負担、残り8割を出資者へ返済、清算時に少しでも部分回収ができた時は、元本の1割を負担して9割を出資者へ返済、事業会社として10年間生き残った時は、元本保証と年利1%の金利を10年後に一括で支払い、 10年以内に上場などの投資利益が得られた場合は、その時点で元本と元本の3割の還元を約束する社会資本証券を発行するスキームなども考えられます。 当然、金融機関は、社会資本証券の対象となる開発プロジェクトの中身をわかりやすく解説し、 自分たちのマージンを上乗せ、預金者がリスク負担する社会資本証券を担保にした金融商品を開発します。  こうしてハイリスクな開発プロジェクトでも、潤沢な投資資金が集まり、会社が余裕をもって開発を推進できる工夫ができるようになります。

また、既存の企業で新事業として思い切った投資をおこなうところへは一期で全額を償却できる投資減税を導入する考え方もあります。  さらに新製品や新事業を円滑に推進するためにその開発を軌道に乗せるための仕事の発注は欠かせないものであり、新たに国富省管轄の国富開発センターなるものを創設、 そこで新製品を購入、あるいは新事業のサービスを受けたいお客様との橋渡しを行い、お客様の発注資金の一部を補助する制度も導入して、新製品や新サービスが普及するように支援すれば事業の立ち上げも円滑にいきます。  要はあらゆる手段を使って、企業の新製品や新事業の開発を促す制度を設計することが国富省などに求められます。

以 上

〔注〕本記事の著作権は非営利運営の(社)社会資本研究所に帰属します。 本記事の引用、転 載、転記などは自由にご利用いただいて大丈夫です。 複写は、本データのままであれ ば、大丈夫ですが、別データなどへ加工しての複写はご遠慮願います。

〔編集後記〕

分析して非金融法人セクターがトヨタ並みの優良企業の財務構造であるとは驚きでした。  日本人は性格的に悲観論者が多すぎるので、外国人が増えて日本が日本でなくなるとか、米国に見放され日米同盟が破綻、近隣の大国に占領されるといった様々な架空の心配事を公言する人が増えています。  確かに日本国内には外国人が増えていますが、日本法人の財務構造を分析するとすでに日本は世界トップクラスの優良な国家財政を確立しており、一般に人は貧しい国より豊かな金持ちの国へ集まる習性があるので、 円安効果もあり、マグネットにひきつけられるように海外の人たちが日本に集まるのは仕方がないといえます。  日本が金持ちになったため、世界の人たちがどんどん寄ってくるのです

日本を訪(おとずれ)れた海外の人たちより、街中やトイレがきれい、親切な人が多いという評価をいただきますが、生活レベルが上がった日本人からすれば、当然の話であり、何も驚くことではないのです。  逆に外国人が増えすぎて困ったと感じる日本人が増えており、日本人には豊かな金持ちもいれば、貧しい人もいるので、生活が苦しい人たちが、そうした社会格差をまねいた政権与党の政治家たちを恨(うら)み、怒りの感情をもつのは仕方が無いといえます。  参院選で「日本人ファースト」を標榜する政党が躍進(やくしん)していますが、もっと日本人を大事にして政治をおこなって欲しいというのが大方の日本人の国民感情なのです。  今の世相から判断すると参院選で日本の政治に日本回帰、保守大変革の嵐が巻き起こる予感がしますが、個人的にはそれでも日本に移住する外国人を拒(こば)み続けることは難しく、 国際結婚も増え、2050年ごろには、目の色や顔立ち、肌の色、体格の違うハーフやクオーターも多くなり、徐々に日本人の顔立ちや体形も変わっていくような気がします。  国家は保守的な自国ファースト、国民は日本と言う共通のアイデンティティをもったグローバルな人種融合による新日本人で構成される社会へ徐々に変化していく予感がしています。

以 上

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