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森羅万象全ての責任は我にありの覚悟がなければリーダー失格

2024年1月7日

社会資本研究所

南 洋史郎

関西の経営者から教わった事業失敗の時の心構えについてのエピソードを思い出す

25年以上前に関西でお世話になった経営者の言葉を思い出す。 当時、金融系のシンクタンクから独立した駆け出しの経営者で 何から何までゼロから一(イチ)へ事業を立ち上げ、生み出すことに奔走していた。 その時に苦労を重ね事業経営を発展させた先輩の経営者のアドバイスを 今でも忘れない。 経済や経営などの研究機関という世俗から離れた世界で生き、 これから経営者としてスタートする世間知らずの人間の苦労が予見できたのであろう。 変わった励ましの助言が多かったことを思い出す。

ある経営者は「あなたは俗世間と違った浮世離れの世界で生きてきたんやから、社会見学のために大阪の下町のジャンジャン横丁へ行ってみたらどうやろう。 事実は小説より奇なりで勉強になるのとちゃうか」と笑っていた。 だが目は真剣であった。  40歳過ぎまで動物園前という地下鉄の駅前にある西成のジャンジャン横丁の商店街の存在を知らなかった。  そこで実際に恐る恐る歩いてみて驚いた。 当時、橋本政権で消費税5%へ増税を断行、阪神大震災の復興特需は少しあったが、 バブル崩壊過程で不安な世の中であった。

商店街の端(はし)の道路上に不動産バブル崩壊後の不況から土木建設の現場仕事にあぶれた労働者らしき人たちが数十人も白昼堂々と横たわり寝ていた。  商店街には飲み屋が多く、クーラーが無いのか、扉や窓を開けっぱなしで昼間から中高年の男たちが、おかみさんと一緒にカラオケで歌っていた。  1か月1万数千円、日当たり数百円の格安の宿泊料金をアピールする看板を掲げた簡易宿泊所が幾つもあり、入居者を募(つの)っていた。  梅田や御堂筋のビジネス街と全く違うその異世界の雰囲気に驚いた記憶がある。  後日、その話をすると「昼間から酒を飲み、歌っている男たちの中に事業で失敗、破産して家族と別れ、 地位も金も全て失った生活保護の元経営者も多いという噂(うわさ)だ。中には刑務所のお世話になった元経営者もいるそうだ。 でもみんな楽しそうに生きていただろう。腹さえくくれば、人生どん底でも何とかなるし、中には再起したものもいるそうだ」と苦笑いしていた。

要は、経営者は失敗すると破産し何もかも失うリスクを背負(しょ)い込むかも知れないが、どん底でも命を奪われることはなく、 何とか食えるし、やる気さえあれば、這(は)い上がることもできるから、失敗を恐れるな、思い切ってやれという励ましのエールであったことを後で知った。  ありがたいお言葉ではあったが、当時、本音としてはそんな励ましを受けるほど経営者に向いていない人間と思われていたとは意外な気がした。  ところが、その後、事業で何度も失敗して様々な挫折を味わった時にこの時の助言は身に染みて思い起こされたものである。  やはり苦労人の経営者の人を見る眼(め)、鑑識眼(かんしきがん)は一流であったとも感心した。

別の関西の経営者から聞かされた災難へのリーダーの心構えの話も思い起こされる

また、別のある経営者から風変わりな助言を受けたこともある。  曰(いわ)く、「事業を長くやっていたら、本当に想像できないくらい想定外のいろんなことに出くわす。業績が順調に伸びる上り坂、業績が落ち込む下り坂、 さらに全く予期せぬマサカという坂もある。リーダーの真価が問われるのは、そのマサカの時や。貧乏神か疫病神かは知らぬが、 とんでもない災難をもたらす神様が来ることもある。でもなあ、悲しいけどリーダーだけは、この災(わざわ)いの神様を避けることができず、 真正面から受け入れるしかないのや」と酔った勢いで切り出した。

「このまさかの災難の時に初めて気づく。リーダーの心構えが何より大事ということ。大方のマサカの原因は、 自分と無関係な不可抗力的な原因であることが多い。ただ、その時にリーダーがその不幸を他人事(ひとごと)の逃げの姿勢、 気持ちで取り組んだら、さらに神様の怒りを買い、その不幸が長引くんや」と話は続く。  「災難をまねいた不幸を恨み、くよくよ考えても物事は一切前に進まないということもわかる。 逃げずに災難をどう乗り切るかを考え、全知全能を傾けて取り組むこと。それをバネに組織を良い方向へ引っ張っていくこと。 それがリーダーの責務ということを覚悟し腹をくくらんとあかん」という助言であった。  言葉の最後に「災難を吹き飛ばして会社を良い方向へ立て直したリーダーはどうなると思う」と聞いて 「社員や取引先など周囲から打ち出の小槌(こづち)で貧乏神を福の神に変えた神様のような扱いを受けるのや」と締めくくった。

つまり、自分が関係する組織に起こること全て、森羅万象について責任を感じて、何が起こっても、 責任転嫁せず、逃げずに良い方向へ組織を引っ張っていくのがリーダーの責務であり、それができなければ、 リーダー失格ということを言いたかったのであろう。  このリーダーのあるべき姿の考え方は、あらゆる組織で共通の教科書的な話だと思うが、 実際に災難や不幸な出来事の困難に遭遇するとこの正論で取り組むことがいかに難しいかということを教えられる。  特に日本国全体のリーダーである首相ともなるとその行動すべてが衆人環視(Public View)となり、 日本で起こる全ての森羅万象に責任を感じて、どんなに不幸なことが起こっても、国全体を良い方向へ持っていく責務があるという覚悟と自覚が必要になってくる。  岸田首相には、日本のリーダーとしてどんな災難が起こっても日本を良い方向へ導いて欲しいと願っている。

森羅万象全ての岸田首相の責任のとり方に庶民感覚から首を傾げることが多すぎる

政治のトップリーダーが、森羅万象全ての責任のとり方が、一般庶民の感覚と大きく乖離(かいり)し不可解な話が続けば、 この先、このトップに国政を任せて大丈夫だろうかと不安になるものだ。  正月1日に能登半島で予期せぬ大地震が起こったが、その日に台湾より救助のための精鋭部隊の派遣の申し出があったが、お断わりになられたらしい。  人命救助の限界ラインは、地震発生から72時間、3日以内といわれる。  救出の初動が遅れれば遅れるほど犠牲者が増えると言われる。 その3日間が過ぎてから米軍に救助支援を頼んだらしい。  どうしてそのような判断になるのか理解不能である。 断られた理由や事情はあったかも知れないが、人命救助が優先される大事な時期である。  日本の駐留米軍やその他の近隣国の救助の申し出も期待したが、流石に想定外の元旦の大地震に対しては無理も言えない。  台湾には感謝の気持ちで一杯である。

また、岸田首相は、1月4日に恒例の伊勢神宮の年頭挨拶を地震対策のため官邸でおこなったと説明された。  さらにその挨拶の中で、党内の政治とカネの問題を起こさない新たな組織体制の話をされていた。  ただ、国民の多くは、能登半島の皆さんの安否を心配して、年頭の挨拶より地震に関する詳しい政府の説明を期待していたのではないだろうか。  政府関係者も正月元旦の大地震、二日の救援に向かっていた海保の羽田での事故と続き、大変だったと思うので、 無理は言えないが、願わくは年頭の挨拶をキャンセルしてでも、首相自らが現地へ赴(おもむ)き、被災者を励まし、被災現場を視察し、 その時に感じた状況把握から、今後の復旧対策をどうすべきか、国としての具体的な救済方針や対策を聞きたかったのではないかと推察している。  SNS投稿を見ると陸の孤島となった能登半島の先の珠洲(すず)市や輪島市、 七尾市などの住民の方々に一刻も早く食料や水などの供給をして欲しいと願わざるを得ない。

国民の関心事は能登の元旦大地震で180度変わったと感じている。 政治とカネの問題より、大災害への対策、 自分たちの生活防衛が何より第一という意識にかわったのではないだろうか。  南海トラフや富士山爆発などこれから次々とやってくるかも知れない大災害にどう対処すべきか、身構える気持ちも強くなっている。  そんな危機意識の中、関心が低くなった政治とカネの問題を語るとき、国民の多くは、岸田首相自らの立ち位置はどうなっているのかと疑問に感じるのである。  検察が党内の派閥責任者も含めた捜査に着手したと聞けば、派閥の長であった首相ご自身も調査対象の一人と思うのが普通の感覚である。

だから、検察の調査結果がでるまで、調査対象になっている当事者や関係者自らが不正を正す組織「政治刷新(さっしん)本部」を自民党内につくること、 それ自体、変だなと素朴な疑問をもつのである。 庶民感覚では、不正事件が発生しそれを正す組織をつくるためには、 全員が外部の第三者の中立な専門家の調査や対策が必要と感じるのではないだろうか。  金権政治に染まった自民党内の政治家の人たちが、派閥解消や政治資金の不正を正すことなど無理と考えるのが普通の一般国民の受け取り方であろう。

その他にも岸田首相の森羅万象全ての責任のとり方、政治判断に2年3ヶ月前の秋の就任以降、庶民感覚から首を傾(かし)げることが多すぎた。  ここ半年間を振り返っても、昨年6月にLGBT法案を強引に通過させたあたりから「なにこれ?大丈夫?」の連発であったと思う。  昨年7月に尖閣諸島周辺の日本の排他的経済水域(EEZ)で発見された中国の海上ブイはいまだに撤去されず、放置されたままである。  増税メガネのあだ名を気にされた岸田首相の減税の話も昨年10月に一人4万円の所得税と住民税の減税につながり、今年6月実施と言われるが、 国民の金銭感覚からすれば「たったそれだけ?」という厳しい意見も多い。  それどころか、昨年12月のG7蔵相総裁会議で鈴木財務相が、突然、ウクライナへ総額45億ドル(約6500億円) の追加支援を行う用意があると表明された。  そんな巨額資金を気前よく支援できるなら、所得の半分が税金という国民負担をなんとかしてくれと叫びたい心境になるのはなぜだろうか。

いろいろ裏事情があったかも知れないが、岸田首相のやることなすこと国民目線から理解不能なことが多く、全く評価されないのである。  それどころか支持率は落ち続け、ついに10%台にまで突入している。  政敵の清和会だけを狙い撃ちにしたような政治とカネの問題への対応に自民党内でも「泥船内閣」という陰口とともに政変への露骨な動きがあるとも聞く。  周囲の知人へ聞くと「次の選挙では自民党や公明党の与党だけは絶対に投票しない」となぜかものすごく怒っている。  類推すると岸田首相がこのまま政権を維持すればするほど、次の選挙で自民党や公明党の与党が大敗する確率は高くなっていく気もする。  これから日本の政治、政局がどう変化するのか、リーダーが変わるなら良い方向へ国を導いて欲しいと祈るばかりである。

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