お問合わせ
06-4708-8655

財務官僚主導の岸田内閣は国難を乗り越えられるか

令和3年10月5日

社会資本研究所

南 洋史郎

財務官僚主導の岸田政権で果たしてうまくいくだろうか

大方の保守層の高市総裁への期待を自民党議員は見事に裏切り、岸田首相の新内閣が発 足した。4日の初入閣の閣僚13人、19日の選挙公示日と31日の選挙日は仏滅、31 日はハロウィンでイタリアのG20と重なる。皮肉を言えば、わざわざ縁起の悪い数字や 日を選び、迷信を気にせず、事務的に粛々とスケジュールをこなしていく様子は、エリー ト官僚が裏でうまく仕切って、筋書きができているからとみられている。

岸田首相は、人の話をよく聞くといわれる。しかし、一般の国民が首相に提言できる機 会はほとんど皆無だ。意見箱はある。だが、秘書官が勝手に選別、多忙な首相へ意見が届 くことは稀で、単なるガス抜きのツールとなっている。それでは誰の意見をよく聞くのだ ろうか。それは言わずと知れた優秀な官僚の方のご意見にひたすら拝聴し続けるのである。 総裁選で手書きのノートをアピールしていた。しかし、岸田氏に近づいて意見が言えるご く一部の選ばれた人の意見を一所懸命に聞いている、ただそれだけのことである。

今回の組閣は、新人の大臣が多い。逆に言えば、政務に詳しくないので、官僚主導で仕 切るということを世間に堂々と公表しているようなものである。甘利幹事長の手腕とも聞 くが、新人の素人が「あまり」に多すぎるのではないだろうか。官僚主導で政務が行われ るということは、可もなく不可もなく、淡々と政務運営がこなされていくことを意味する。 もし、決まった方向性や政策が間違ったら、国難の危機リスクをさらに高めることになる。

逆に国難に対処できる正しい政策が決まったら、それをきちっと官僚主導で無駄なく実 行できる優秀な内閣になる可能性は残っている。ただ、その時でも、官僚は、決まりかけ ている法律の文言を一言一句、加筆、削除、修正をおこない、ピンセットで魚の骨を抜く ような知恵をつかって「法律を骨抜きにする」魔術を持っている。果たして、新人大臣が、 そこまでチェックできるかどうかははなはだ疑問である。

元財務官僚が活躍する宏池会の岸田首相に対する期待と不安

岸田派は、所得倍増政策を提唱、実現させた池田勇人を源流として、大平、宮澤と財務 官僚出身の首相を輩出してきた名門中の名門の宏池会である。今回の政権を担う出身者に、 麻生派からの抜擢もあるので、大宏池会の再編の可能性もささやかれている。岸田首相の 誕生は、宮澤喜一首相誕生以来30年ぶりのことで、岸田家と宮澤家は親戚関係にある。 国民にとって、古くさい派閥の論理なんてどうでも良い話だが、岸田首相の出自や横顔と いったプロフィールを知っておくことは大事である。

岸田政権への期待と不安は、まさにその横顔の部分である。敢えて宏池会で縁起を担ぐ とすれば、「『新たな資本主義』の成長と分配により、令和の池田勇人になって所得倍増が 実現できる」ことを期待したい。一方、考えたくもないが、過去の悪い記憶から、「コロ ナでの経済損害による不景気から脱却できず、さらに景気が悪化、政権を明け渡す令和の 宮澤喜一になる」という不安もでてくるのである。

岸田首相は、宏池会や財務官僚の影響が強い政権であり、それが意味することを正しく 理解する必要がある。財務官僚は、その華麗な人脈で今でも霞が関の省庁や官僚への影響 が大きく、官僚ピラミッドの頂点に君臨している。池田勇人時代の優秀な元大蔵官僚の下 村治先生立案による所得倍増計画は、当時としては画期的なものであった。その功績によ り「大蔵官僚=社会に尽くす立派な優秀な人たち」という社会的な高い評価も勝ち得るこ とができたのである。

ところがその後が悪かった。大平首相は、赤字国債はだめで、消費税を導入したいと主 張し猛反発を受け、断念したが、1989年に竹下首相となり3%の消費税が導入された。 消費税は、世間から「悪魔の税金」、「不吉な税金」と言われている。文字通り1989年 に大蔵省主導で銀行融資の総量規制が実施され、それが引き金になって、徐々に土地の取 引価格が下がっていき、後の本格的なバブル崩壊を招く契機となったのである。

1991年に首相に就任された宮澤喜一首相は、1993年に自民党の徳川慶喜と揶揄 され、政権を日本新党へ明け渡したが、その間、有効な打開策が取れず、景気低迷が続い た。また、1992年10月に中国への天皇陛下訪問を実現させ、天安門事件後に欧米の 制裁を受けてきた中国共産党をものすごく喜ばせた経緯がある。

まさかと思うが、歴史は繰り返すで、岸田政権が、令和に憑依する宮澤政権となって、 習近平主席来日を実現させ、中国共産党を喜ばす判断をするかも知れないという悪夢が脳 裏をかすめるのである。また、令和に憑依する大平政権になって、増税への強い思いが伝 播し、総選挙後に新しい資本主義を主張しながら、一方で、目に見えない。気づかない増 税をつぎつぎと行い、コロナ不況を深刻化させないかと心配しているのである。

岸田首相には、ぜひ池田首相や下村博士に憑依して頂けるように神社、できれば、靖国 神社へ参拝して欲しいと願っている。表向きの選挙前の顔は日本を守る保守路線を歩むふ りをしながら、選挙後に大変身、中国共産党に配慮しまくる弱腰政権になりはしないかと 心配しているのである。何しろ財務官僚は、中国共産党とズブズブの人間関係があると噂 されている。選挙前にその噂をかき消すためにも、中国へは強い姿勢が望まれるのである。

岸田内閣にはまず国難対策が求められ、第一に国防強化が優先される

いろいろ宏池会をネタに心配事をまとめたが、今のところ、岸田首相は、育ちが良く、 温和な性格も作用していると思うが、今後、様々な国難が降りかかってくることは間違い ない。まず、中国共産党の脅威への予防処置を迅速に講じる体制づくりが必要となる。次 に今後、起こりうる可能性が高い第六波、第七派のコロナ感染流行への有効な対策を早め に講じることである。また、成長と分配の観点から、勤労層の給与を短期間で劇的に増や す仕組み、政策を導入することである。最後に真水で30兆円から50兆円の経済対策を 講じることで、景気を大きく成長、物価も徐々に上がっていく政策を講じないといけない。

これら4つに絞った政策を推進するだけで、政権への評価は急速に高まる。そのカギは、 宏池会が得意とする財務省コネクションをうまく活用することである。1990年代のバ ブル崩壊からノーパンシャブシャブ事件、5%、8%、10%の消費税増税で、国民の財 務省官僚に対するイメージ、印象は中国共産党並みに最悪である。嘘だと思うなら、「財 務官僚主導」という言葉の印象を周囲の人たちに聞いてみれば良い。増税含め、何らかの 悪い印象を持っている人が多いのである。

まず、財務省パワーを使った中国共産党への対抗処置について、もっとも有効な手段は、 防衛省の来年度予算を一気に倍の10兆円にすることである。その財源は、財政投融資の 建設国債から充当すればよい。少なくとも完璧なミサイル防衛システムの構築のために3 年間15兆円の増額予算をつけるようにすればよい。その中には、米国の古くなった原子 力潜水艦数隻の購入費用も盛り込めば、中国の人民解放軍への大きな抑止力になる。スク リュウーや推進駆動装置、超音波追跡装置などを日本の最新鋭のものに取り換えれば、見 違えるような最新の原子力潜水艦へ変身させることも可能となるだろう。

次に反論があるかもしれないが、中国へ進出した企業から得られる中国事業セグメント の利潤への国内課税を10%前後引き上げることである。理由は、中国への防衛投資・費 用への充当であり、日本が反日の中国共産党の軍拡に対抗するコストの一部をそれでも敵 対する国で事業をすることに対して、応分の負担をしてもらうことを理由にすれば良い。 また、中国へ進出している日本企業へは、万一のリスク負担はその企業の経営者が10 0%負うべきことを何度も念押しする必要がある。要は万一の武力衝突の有事に中国国内 の日本人の救出には努力するが、それでも、生命と財産は守れず、その場合のリスクは企 業が100%負担すべきことを十分に認識してもらう必要がある。

さらに日本国内の土地を所有する裕福な中国の方に、固定資産税を数倍以上負担しても らうことである。日本人は中国の土地所有ができず、中国人は日本で土地所有が可能であ る。この不公平を固定資産税で調整する考え方が必要となってくる。要は「税金徴収によ る経済安全保障を推進する考え方」が必要となる。

超限戦のプロの中国共産党は流石である。岸田総裁誕生から、台湾の防衛識別圏の中で 50機を超える戦闘機を飛ばし、台湾を通じて岸田政権へ威嚇、挑発を始めている。今後、 尖閣への威嚇、挑発もあるかも知れない。要は、中国の国内は、大水害や大停電などで厳 しい状況にあり、国民の目を海外へそらすために、人民解放軍が、いつ尖閣や台湾へ侵攻 して、戦闘状態になっても、おかしくない危機的な状況となっている。岸田政権なら、弱 腰でうろたえる駄目な政権と思えば、中国からの軍事的な威嚇は、さらにエスカレートす ることを覚悟しないといけない。

岸田政権の中国への弱腰姿勢の証拠に、親中派の公明党の幹部が今回も国交省という重 要ポストに就任した。そのため、国有の尖閣諸島へ誰も近づけず、石垣市が尖閣諸島に 「登野城尖閣」を示す行政標識の設置を申請したが、9月にその申請は却下された。 しかし、今後は従来のような中国への弱腰姿勢は許されない。公明党は、その親中ぶりに 宗教法人からも愛想を尽かされ始めている。6月のウイグル人権決議反対を撤回、14日 の解散前に公明党自ら決議を可決させないと駄目な政党のままで終わるであろう。

コロナ対策と所得向上は簡単な政策を実行できるかどうかが勝負である

次にコロナ感染流行への有効な対策として、早急に感染症2類から5類へ変更するため の手続きを始めることである。今度の厚労省の大臣は、財務官僚出身である。2類のまま で、特別な収容施設やワクチン証明、抗体検査などの巨額費用を投入するより、有効な経 口治療薬も認可が近く、5類へ転換する経費の方が圧倒的に安くつく。国民も、インフル エンザのような扱いとなり、近くの診療所を利用でき、過度な行動制限も必要なくなり、 歓迎するであろう。早急に5類への変更を推進する手続きをとらないといけない。

今までの安倍政権や菅政権は、コロナ対策で医者の既得権益を優先するわがままも聞い てきた。ところが、どこかの分科会の会長が所属する医療組織が、300億円の補助金を 受けても、コロナ患者を基準以上に受け入れず、その補助金を株式投資で運用し130億 円以上も稼ぐという信じられない不正も発覚して大問題となっている。この会長は、オリ パラ開催にも反対し、無観客を主張するなど政治的な発言が多く、6月ごろより問題とな っていた。この際、医者の倫理に反するおかしな既得権益にあぐらをかく医療組織やその 長に対して、大胆な財務的なメスを入れ、現場で本当に頑張っている医者や看護師が報わ れる報酬体系に切り替えないと国民の怒りは収まらないであろう。

新しい資本主義による成長と分配、中間所得層の給与を大きく引き上げる、宏池会出身 の岸田首相らしく、会見でも抽象的な美辞麗句がならんでいた。ただ、国民は、そんな抽 象的な耳障りがいい言葉をいくら聞かされても、いつまでにどのように実現するのか、そ の具体策が一切無いので、疑心暗鬼なのである。そこで、財務省パワーを使って、即効力 があり、経営者自らが、一所懸命に勤労者の所得を引き上げる努力をする有効な政策が残 されている。それは、すべての企業の人件費に消費税控除を認める政策である。

消費税増税をしてから、企業は人件費を上げなくなった。理由は簡単である。自社で雇 用した社員の人件費に消費税控除が一切認められないからである。例えば、売上110億 円、総経費80億円の会社が支払うべき消費税は、売上で取得した10億円の仮受け消費 税から経費の仮払い消費税8億円を差し引き2億円だけとなる。ところが、総経費80億 円のうち30億円が人件費だと仮払い消費税は残り50億円の10%の5億円だけとなり、 5億円もの消費税を支払わないといけない。企業にしてみれば、人件費30憶円の中に企 業負担の社会保険料を15%弱、4億円を負担し、さらに消費税負担も3億円増え、7億 円も余分に負担する。それなら消費税控除が全額認められる派遣会社の社員を一所懸命に 雇おうとするのである。

自社で雇用する人件費を増やすほど、消費税負担が恐ろしく増える。どんな企業でも、 あほらしくて、人件費を上げるといった発想はできないのである。これが、日本人の人件 費が低いまま抑制され続けてきた諸悪の根源なのである。この諸悪の根源をつくった財務 官僚が主導する岸田政権が、勤労者の所得を増やすと主張している。そこで、経営者が考 えることは、ただ一つ、やっと財務省も気づいて、自社雇用の人件費へも消費税控除を認 めるようになったかということなのである。

仮に社会保険の企業負担も含めた人件費の総額に10%のみなし消費税の控除を認める ことになれば、数兆円の消費税の収入減少にはなるが、その分を企業側が勤労者の所得へ 還元できるような仕組み、制度を導入すれば良いのである。これは実に簡単な政策である。 つまり、前年度より給与総額を5%以上(中小企業は3%以上)引き上げた企業のみ消費 税のみなし控除を認めれば、それでも企業にとっては、5%から7%の節税になるので、 給与を一所懸命に引き上げる努力をし続けるであろう。

こんな簡単なことで、年々給与が上がるのかと思うかもしれないが、これほど確実に読 めて、企業も社員も喜ぶ給与引き上げ策は存在しない。逆に言えば、高学歴な財務官僚が、 いつまでもエリートBAKAと陰口を叩かれる理由は、上記のような簡単な給与浮揚策も 気づかないところにある。やはりエリートは目のつけどころが違う、頭が良いと思われな いといつまでも「悪徳官僚」イメージは払しょくできないであろう。

経済対策は財政投融資を活用することで真水30兆円以上の投入が可能

宏池会が頼みの綱にすべき財務パワーの切り札は「財政投融資」である。宮澤政権が日 本新党に政権を引き渡して以降、なぜか財政投融資が悪者になってきた。一時は6百兆円 を超える残高があったが、その後、削りに削られ、今では百兆円余りに急減している。特 に小泉政権の時、塩川財務大臣が「母屋でおかゆを食べ、離れですき焼きを食っている」 という間違った認識で、財政投融資を悪ものと決めつけ、残高を減らし続けてきた。どん なに財政力のある国でも、国が国民やインフラに投じるべき資金を5百兆円以上も減らし ていけば、経済が低迷するのは当たり前である。庶民の味方の大事な金融機関であった国民金融公庫も日本政策金融公庫として吸収合併され、融資も審査が厳しくなり、簡単に借 り入れができなくなった。インフラ投資、特に建設国債を使った土木工事も抑制気味で、 国土交通省自らその存在意義を否定する緊縮財政路線を推進してきたのである。

逆に言えば、建設国債を使った財政投融資の経済対策資金はかなりの余力があり、すべ て真水なので、発行された国債を全額、様々な景気浮揚策に活用できるのである。 “GO TO”トラベルやイートもどんどん推進すれば良いが、それより最も効果がある投融 資は、銀行や信用金庫と一体となった産業振興のための投資融資制度の強化である。 いわゆる、投資や融資が受けやすい環境を整備するのである。そのためには、各都道府県 で一つしかない独占的な信用保証協会ではなく、新たな投資融資のための保証機構を設立 して、互いに知恵を絞って、競争しながら、企業へ一所懸命に投資や融資を促す環境を整 備すれば良いのである。

例えば、現在の金融機関の貸出金利は、1~3%台のローリスクと12%以上のハイリ スクの両極端な領域で設定されている。信用保証協会の保証付き融資の貸出金利は、大方 は1~3%台であり、消費者金融の融資は、大方は銀行から相手にされないハイリスクな 与信案件で、百万円以下は年利18%、百万円を超えると15%の高利となっている。つ まり、今の財務内容が悪い中小企業の資金調達環境は地獄そのものであり、借金が膨らみ、 財務内容が悪くなると経営者が融資を申し込み、金融機関へ「愛はあるのか」といくら叫 んでも、そこには愛はなく、冷たく融資のシャッターを閉められるだけなのである。

そこで、なかなか従来の信用保証協会から相手にされず、高利の消費者金融に頼らざる を得ない財務内容の厳しい中小企業のために4~8%、9%以内の範囲の金利で審査して 貸し出す新たなミドルリスク対応の保証機構を設立すれば、従来の保証機構で融資を断れ ても、そこが受け皿となり、返済できないような高利の消費者金融へ頼る必要もなくなる。 こうした新しい保証機関の設立に10兆円ほどの保証枠を供与すれば、市中銀行や信用金 庫の新たな貸出先の発掘にもつながり、経済が底辺から良くなっていくであろう。

以上の4つの政策、1防衛予算倍増、2コロナの感染症5類区分、3人件費の条件付き 消費税減税、4ミドルリスク対応の新たな保証機関の設立 は財務官僚主導で、簡単に実 現可能な政策であり、これらを推進するだけでも国難を乗り越えることができるのである。

※上記文章、PDFファイル、入手、ご希望の方はこちらをクリックしてください!

ページトップへ戻る