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SBIの銀行買収やRCEPの元の取引拡大で日本の金融安全保障に大きな影響はでないか

令和3年11月30日

社会資本研究所

南 洋史郎

新生銀行のSBIの買収防衛策の撤回は正しい判断だったのか

11月24日に新生銀行がSBIホールディングス(以下SBIという)からのTOBへの買収防衛策の撤回を決め、事実上、SBIが新生銀行の48%までの株式を保有する予定であり、同社の傘下に入る見込みである。SBIの創業者で現在も実権を握る北尾会長は優秀な金融マンであり、ソフトバンク・インベストメントと違った路線をとり、別会社となり、別々の道を進み、SBIの意味もStrategic Business Innovator、戦略的なビジネス革新事業者と読み替え、ソフトバンクと全く無関係な金融機関として成長させてきた。

SBIの過去の華々しいベンチャーファンドの投資実績や2019年から新たに掲げた地方銀行を束ねた第4のメガバンク構想は、ブロックチェーンの金融技術やネット銀行・証券などとの事業連携も含め、これからのデジタル通貨構想にもつながる可能性がある。 ただ、SBIがソフトバンクと無関係と言っても、様々な人的なつながりは残っている。

ソフトバンクは、習近平主席の独裁政策で中国共産党に国営化される懸念がでているアリババの主要株主であり、現在、数兆円以上の巨額の株式資産を保有している。今後の中国共産党の国営化の動きの中で、万一でもその株式価値が大きく棄損すると、単に一企業の業績悪化では済まされず、日本の金融界全体に波及する大問題も心配されている。その時にソフトバンクとSBIの人的関係から、SBIが救済のために巨額資金を供給する可能性も無いとは断言できない。

SBIの優秀な経営者である北尾会長は、新生銀行の経営陣へ「公的資金3500億円を10年、20年という単位でカネを返さないのは泥棒と一緒」と痛烈に批判した。確かに9000億円の純資産があり、新生銀行が返済しようと思えば、仮に優先株から普通株へ転換されて株価が低すぎるという問題があっても、その他のいろいろな手を使って公的資金の満額返済はできたと思う。そのあたりの新生銀行の過去の経営陣の甘えも指摘されて仕方のない面もあったと思う。

従って、SBIから送り込まれる金融庁の元長官が新生銀行の会長になって采配を振るうことで、果たして本当に事業再生ができるのか、そこに、財務省、金融庁がいろいろと関与する中、官僚特有の利権も絡んで、本当に新生銀行をSBI傘下にして良かったのかという疑問が残るのである。

3大メガバンクのうちみずほ銀行は金融システムのトラブルで元気がなく、金融庁が異例の介入に踏み切ったことも記憶に新しい。SBIにより4番目のメガバンクが台頭し、硬直的な金融業界へ新風を吹き込むことを期待したい。ただ、一方で、SBIには、いくつか心配な憶測も流れている。事実関係は不明だが、万一、その憶測が事実とすれば、日本の第4のメガバンクから、大量の日本人の預金資金が海外、特に中国のファンドへ流出しないか、あるいは、ブロックチェーン技術により日本で発行されるデジタル通貨とデジタル人民元が連動して、目立たない方法で日本と中国の通貨取引の融合がおこなわれ、中国にごっそりと日本の資金がとられないかなど日本の金融安全保障を脅かす問題も懸念されている。実際、SBIは一時、中国投資を促進する第二本社と言える組織を香港に置き、2014年に撤退したものの今でも中国へのファンド投資の事業は継続している。

そうした危惧を打ち消すため、SBIには、金融庁の元長官や金融庁、財務省のOBが多数在籍している。ただ、彼らはあくまで天下り先に雇われた経営者や管理者であり、国家間のグローバルな金融システムの安全保障についての見識が高いとは思えない。もし、金融安全保障が脅かされた時に、深刻な取り返しがつかない政治問題にまで発展しないかと心配されているのである。そのあたりの認識が、政権与党自民党の政治家の方にあるのかは甚だ疑問である。すなわち、すでに政治が介入すべき重要案件なのに、少なくとも政権与党の自民党が関与すらおこなう気配もない。金融庁や財務省のOBがいるから安心と放置されたまま、大丈夫かという懸念が残っているのである。彼らが日本で一番怪しげな官僚利権集団ではないかとみているが、それを指摘する声もない。

SBIは銀行買収の資産運用と中国投資との関係を遮断できるのか

SBIの北尾会長の経営手腕は優れており、立派な経営者のお一人であるが、その経営手法について、日本の金融安全保障の面から不安が残っている。中国からの資金流入や中国企業の株主としての経営介入、日本の多額の資金の中国への流出など、様々な懸念を払拭する双方向の中国投資を遮断するセーフティネットの説明も含め、第4のメガバンク構想と絡め、SBIトップ自らが資産運用の安全性を公表しコミットして欲しいのである。

すでに、毛沢東の共産党に回帰し、習近平主席により様々な企業の国営化が独断で進められている。その国営路線が今後、日本の金融界へどのような悪影響を及ぼすかについて、大きな懸念材料もでている。上場して公的な存在のSBIの経営トップなら、銀行に資金を預けている預金者や投資家に金融安全保障をこれからどうするのか安心できる具体的な明確な説明が欲しいのである。

中国は、国営化を推進する中、資本や土地の自由取引が許されず、国が独占的に管理、発行できる通貨の元に対して、その信認が著しく落ち込んでいる。その中で、銀行の金融資産が、中国のファンド資金など高利回りのハイリスクな金融運用商品とどうかかわるかについて、大きなリスクも感じているのである。

香港での元と香港ドルとの為替交換ができなくなったら、紙くず同然になるとも言われている。そんなとても危険な通貨である元をデジタル化し、日本の円が万一でも連動したら、日本の国家の通貨システムそのものが崩壊する懸念もでているのである。それどころか、国際金融での日本の円の信用が大きく棄損し、米国や欧州から相手にされず、ハードカレンシー、国際通貨から外される最悪の事態も想定しないといけない。すなわち、日本経済の信用の基盤である「円」が全く信用できない「元」と融合する取引の仕組みは絶対に構築してはいけないという結論となる。

また、新生銀行買収後のその他の地銀も巻き込んだ再生戦略について、どのようにして地方の経済を活性化させるのか、その際に不良債権の対策はどうするのか、金利をどのレベルに設定して企業への貸出を促進させるのか、フィンテックとはデリバティブ活用による金融工学の資産運用も含まれる。ブラックボックス化されやすい中で、人材が限られる地方銀行で安全な資産運用は可能なのか、まさか高利回りの金融商品の中に、中国投資を促す怖い金融商品は含まれていないだろうか。中国との金融取引の安全対策をどのようにとっていくのか、SBIの経営幹部から安心できる明解な説明が今まであったとは言えず、失礼ながらどうしても疑心暗鬼にならざるを得ないのである。そのSBIが日本の銀行を買収していく話が推進されている。買収される銀行の金融資産は、本当に安全が担保されているのかといった心配も強くなっているのである。

岸田首相はあの危険なRCEPを予定通りスタートさせる気なのか

残り1か月となったが、2022年1月1日よりRCEPで中国や東南アジアの中華経済圏との自由貿易が始まる予定である。経済産業省が中心となって、RCEPは推進されたが、金融安全保障の面からかなり不安が残る自由貿易協定となっている。例えば、カンボジアやラオスなどの親中の国で、自国で流通する元の通貨を貿易取引で使って欲しいと要請されたらどうするのであろうか。日本との取引でドルや円の決済でなく、元の直接決済を強く要求され、日本はあくまでドル決済や円決済の取引のみと突っぱねることができるのかと言えば、答えはNOである。

RCEPが発効された後、至るところで、元の通貨で日本の貿易決済がおこなわれ、その結果、次第に日本の企業が中国の政治の影響を直接受けるようになってくる。RCEPの貿易取引には、中国の通貨の元での双方取引を規制する条項は規定されていない。必ず国際流通通貨のドルか円での為替取引が介在しなければ、貿易の成立はないという規制があれば、そうした懸念も払拭できるであろう。しかし、金融取引に関して規制条項はなく、その結果、日本企業を巻き込んだ危険な元の通貨圏が形成されていくのである。

常識で考えて、仮にそうした金融的な取引規制があっても、カンボジアやラオスに信頼できる為替取引を含めた貿易の信用取引ができるとはとても思えない。さらにRCEPは一帯一路に組み込まれた国も多く含まれる。現地の政府へ高金利の元の通貨で貸し出された資金取引まで考えると流通通貨の元の直接取引を規制するのは実質的に困難ではないかと考えている。つまり、RCEPに加入し自由に貿易取引を日本企業が始めるという意味は、最初から元を貿易取引の流通通貨として認めることを意味し、それはとりもなおさず、日本の経済活動が元の通貨圏でおこなわれることを意味している。

そうなると元の通貨の為替リスクをどこが背負い込むかといえば、結果的に日本の金融機関が大量の元通貨の為替リスクを引き受けることになる。米中貿易戦争はまだ続いている。その軋轢はますます激しくなる一方である。万一でも台湾にて武力衝突が起これば、元の通貨の信認が無くなり、紙くず同然となる可能性もでている。そのような危険な状況が続く中、RCEPに加入し、元通貨での貿易取引の自由化に加担することは、有事の時に、日本や日本人への国家背任になるという認識が、経済産業省や財務省の官僚や日本企業の経営者、政権与党の自民党の政治家にあるのかと問えば、大変疑問なのである。

その時の全責任は、官僚や経営者でなく、政治家トップの岸田首相にしっかりととってもらうしかない。つまり、台湾有事には数十兆円規模で日本の円の金融債権が吹っ飛び、大量の焦げ付いた元の債権を日本企業が負うという最悪の金融リスクまで政府が覚悟し、その時の万一の場合の対策シミュレーションまでしっかりできているのかを問い正したいのである。そうした準備ができていないならRCEPの発効を一旦は棚上げ、留保するのが妥当だと思うのだが、現段階では、そのような兆しは一切見えてこない。万一の時のリスク対策もなく、中国を含む中華経済圏との貿易の自由化を促進させることほど無謀な政治決断はないのではないだろうか。政治家として、国際経済への見識や采配の力量が問われ、国際的な金融課題を克服しないといけないもの、それがRCEPであると考えている。

中国は国家破綻回避のため日本の血液の円の取り込みに飢えている

すでに中国の不動産バブル崩壊から、国際金融の世界では、中国マネーの動きを極度に警戒する声が高まっている。欧米の金融機関の中国への巨額投資の焦げ付きについて、不動産大手の恒大だけでもどう返済されて、債権が回収できるのか、その道筋は全く見えてこない。あれだけの数千万戸以上の膨大な誰も住まない「鬼城」と称される空き家マンションが乱立した場合、資本主義の論理では、国家財政も含め、天文学的な膨大な債務を抱え、国家経済は再起不能なほどに完全に破綻する。

中国の場合、ブラジルやアルゼンチンの債務不履行による国債のデフォルトや通貨暴落の程度ではすまない。おそらく、国家規模で大規模に統計を粉飾し、巨額資金があるように見せかけても、貿易取引に関連して、元の為替取引だけを考えても、中国に信頼できるドルやユーロ、円などの外貨が急激に減少、枯渇し始めているとみている。中国は今、常に自転車操業の外貨の資金繰りに陥らざるを得なくなっているのではないだろうか。

昨年6月の香港を実質的に併合したのも、香港にある外貨資金40~50兆円を取り込むのが主目的ではないかという憶測もされている。ドル経済圏で円滑に商取引をするためには、為替取引をする人たちに安心材料を提供する見せ金が必要である。その安心材料となる100兆円の米国債保有も密かに取り崩し始めている。既に20兆円を現金へ転換済みとも聞く。噂では、残りの80兆円の大部分を裏担保にしている可能性もあるそうだ。結果として、自由になるドル資金は不足状態にあり、中国が外貨不足に陥っている可能性が強くなるとみている。

要は国際金融、国際経済の定石どおり、中国と言えども、例外ではなく、世界的に流通しているハードカーレンシーの信用通貨が不足し始め、いろいろな方法で、あらゆる手段を使って、ドルやユーロ、円の外貨資金をかき集めているのではないかと推察している。その中で、中国にとって最も狙いやすい外貨通貨が円である。中国人からすれば、ちょっと脅かして恫喝すれば、怖がって言うことを聞く、日本の大企業の経営者や自民党の親中政治家は格好のカモであり、カツアゲにはもってこいの人たちなのである。だからいろいろな仕掛けをつかって、日本の円の通貨を巻き上げることを考えるのである。

中国人にとって、2千兆円を超える個人の金融資産のうち、1千兆円の現金を預金している日本の銀行は、路上の自動販売機と一緒で、そんなところにお金を預けておくのが悪いのであり、それをがっぽりと抜き取っても、叱られないと考える習癖がある。合法的に頂戴する一番良い方法、それは元本保証のない高利回りの金融投資商品であり、もし銀行経営に関与できれば、その銀行の金融資産の運用において、高利回りの中国ファンドを組み合わせた新しい金融商品を開発、提供できれば、莫大な銀行資金、それはもとをただせば、コツコツと貯めてきた預金者の貯金なのだが、そのお金がいつの間にか中国の元に転換され、預金資金が次々と合法的に抜き取られ、中国で元として流通し始めるのである。

その責任は、預金保険機構が負うのであり、その不良債権の資金の穴埋めは、財務省、すなわち日本政府が対応することになる。ちょうど、血に飢えたバンパイアが日本の円という通貨血液で丸々と太った地方の銀行からその円の血液を吸い尽くす姿が想像できるのである。まさかSBIの第4のメガバンクが、そのバンパイアにある日突然、変身するとは思わないが、そうでないことを投資家へ経営者自らが説明する責任はある。むしろ、SBIは、金融の法規制を守って取引するので、中国には一切投資しない、安心して欲しいと説明できる真摯な姿勢が、幹部に求められているのではないだろうか。

バンパイア撃退の聖水である法規制による円の防衛は可能か

バンパイアが狙う相手、それは資金運用できずに過剰貯蓄、すなわち過剰な円の預金の運用で苦しむ日本の丸々と円で太った銀行であり、時には欧米の金融機関に化けて、いかに日本の金融機関の円資金を狙うかが最重要な金融戦略となっている可能性が高い。そのバンパイアを撃退するためのニンニクや聖水にあたるのが、金融安全保障の要(かなめ)となる金融法規制である。この法規制があれば、SBIの幹部の説明を信用することはできるし、RCEPにもある程度警戒しながらも、条件付きで加入することは可能である。

それでは、果たして現在の外国為替及び外国貿易法が、改正されたと言っても、銀行の金融資産を中国の元のような実質破綻している国の不安定な外国通貨で運用することから守ることが可能か、規制できるのかと言えば、答えはNOである。そこで、仮に銀行の子会社規制が厳しい50%以上ではなく、それ未満の48%の株式保有でマジョリティをとった銀行の経営陣が、勝手に変な金融商品で運用しないように厳しい規制の網をかけておく法規制も必要になってくるのである。

また、バンパイアの怖いところは、ある日突然、その姿が全く違ったものになって、日本だけでなく、国際金融の世界を大きくかく乱する可能性もある点である。例えば、中国共産党が、ある日、突然、中国の不動産会社の全ての外国債務に対してドル資金での返済を一切しない、全て固定レートでの元の通貨で換算して、外国からの借金を返済すると発表したと仮定する。欧州の金融機関などは、その時点で、全く使えない毛沢東が印刷された膨大な元紙幣、あるいはデジタル元を大量に抱え込むことになる。

そのような通貨転換などは、借款にドル返済が明記されているなら、日本や欧米では絶対に起こりえない珍事である。しかし、中国は何でもありの国である。自分たちが勝手に元をハードカレンシーの国際通貨と認定し、元の通貨での返済を進めるという滅茶苦茶なケースも可能性として想定しておかないといけない。当然ながら、国際金融市場は、大混乱となり、元の為替レートが大暴落する可能性も高い。そんなことはお構いなしで、金融市場の大かく乱が始まるのである。

すなわち、超限戦争の一つの形として、国際金融ルールそのものの遵守を拒否し、国際金融市場をかく乱、その結果、日米欧の経済を混乱、疲弊させ、場合によって、経済恐慌の引き金すらひく立場になることも想定されるのである。この段階になったら、次は台湾攻撃などの武力衝突しか残された道は無くなるが、武力衝突の前は、こうした無茶ぶりの国際金融市場のかく乱も考えておかないといけないところに中国という国との超限的な戦いが、常識では計り知れないものであることを我々に再認識させるのであろう。

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