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露のウクライナ侵略はゲリラ戦と金融核爆弾が選択肢

令和4年2月24日

社会資本研究所

南 洋史郎

北京冬季オリンピック後にロシアがウクライナの2回目の侵略を始めた

ウクライナ東部の親ロの武力勢力がドネツク州とルガンスク州の東部半分を不法占拠、実効支配するドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国をプーチン大統領は、北京冬季オリンピックが終わった翌日の2月21日にテレビ演説で一方的に独立国家として承認すると宣言した。さらに独立支援のためのロシア軍派兵も言及した。

つまり、ロシアは勝手にウクライナ領土の一部をロシア連邦へ組み入れたのである。これで2014年9月5日に欧州安全保障協力機構(OSCE)とウクライナ、ロシアと独立を主張する2つの共和国との間で取り交わされた停戦合意、ミンスク合意はロシアによって一方的に破棄されることになった。

プーチン大統領の一方的な通告によるウクライナ領土の一部併合の主張は、今回で2回目であり、その手口はよく似ている。2014年2月23日、ソチ冬季オリンピック終了後まもない3月18日に、ウクライナ領土の一部のクリミア半島で、クリミア共和国という親ロ勢力が、ロシアへの編入を勝手に主張、結果的にクリミア半島を併合している。当時、オバマ大統領とバイデン副大統領の時代であり、クリミアへの経済制裁を講じたが、その効果は疑問視され、8年後の北京冬季オリンピック終了後に再び同じ手口でウクライナ領土の侵略を実施した。

ロシアはウクライナのNATO加盟による連邦分裂を恐れている

   

ロシアは、もともと連邦国家として21の自治共和国から構成され、欧米から認知されてないが、このウクライナの領土の一部のクリミア共和国が、22番目の共和国として、ロシア連邦に属することになった。もともとあった21の共和国は、アジア系ヤクート人によるサハ共和国やイスラム教スンニ派のチェチェン人のチェチェン共和国、バシキール人のバシコルトスタン共和国、タタール人のタタールスタン共和国などロシア系住民以外の民族が、基幹民族として、独自の国語教育や国土保有が許されている自治国であり、世界一の広大な国土のロシア連邦を形成してきた。

ところが、ソ連崩壊後に旧共産圏の東欧諸国がNATOやEU、OECDに加盟、さらに元ソ連に属したバルト海三国のエストニア、ラトビア、リトアニアが、同じくNATOやEU、OECDに加盟し独自の経済発展を遂げてきた。豊かな穀物資源や潜在的な工業力がありながら、自国通貨フリヴニャ(UAH)の評価が低すぎ、ウクライナの現在の一人当たりGDPは3400ドルしかなく、欧州で二番目に貧しい国家となっている。もし、NATO加盟後、EUの経済圏へ入れば、一人当たりGDPは1.3万ドルぐらいに再評価されると言われている。ウクライナが、東欧やバルト三国の成功に触発され、ロシアとの関係を見直し、NATO加盟、さらに将来はEU加盟を目指すのは、当然と言える。

マスコミは、ロシア連邦寄りの報道が多く、プーチン大統領がウクライナまでNATOに加盟するとバファーの緩衝地帯が無くなって、許せないという偏った報道をしている。しかし、ウクライナに住む国民の目線で分析すれば、ロシア連邦とずっと付き合ってきたが、豊かになるどころか、いつまでも経済発展せず、貧しいままで我慢させられてきた。 もう、ロシアとは付き合いたくない、「辛抱たまらん」ということなのであろう。

丁度、うだつが上がらない暴力的な彼氏と怖くて嫌々付き合ってきたが、つくづく愛想を尽かし、三下り半を突き付け、優秀で優しく紳士的で、民主的な金持ちの男性へ逃げる女性の心境と似ているのではないだろうか。この駄目な彼氏は、ストーカーの暴力的な人物で、女性が持っているものを次々とはぎ取り、恐喝的な暴行シーンも想起させる悪漢、悪党なのである。女性心理として、そんな気持ち悪いサイコ野郎と、前近代的な無意味な戦いはしたくないし、一切関わりたくなく、早く関係を遮断し、NATOと言われる駆け込み寺へ逃げ込みたいのであろう。

そして、ウクライナがNATO、さらにEU加盟により、民主的で人道的な社会でどんどん豊かになって、経済発展をし始めたら、ロシア連邦に組み入れられ、プーチンの独裁的な政治でさんざん辛酸をなめ、苦労してきた21の共和国やウクライナの3つの擬似独立国は、脱ロシア路線、反プーチンを鮮明にし、ロシア連邦の解体、崩壊に一気に向かっていくと分析している。つまり、ウクライナのNATO加盟でロシア連邦は、さらに共和国や地域ごとに細分化されて分裂し、終焉を迎えていくのではないだろうか。その危険性をもっとも敏感に感じているのが、プーチン大統領であり、その流れを前近代的な武力侵攻という禁じ手を使ってまで全力で阻止しようとしているのであろう。

シリアの悲劇を防ぐロシア軍への武力対抗策、それはゲリラ戦、テロ戦

ただ、21世紀の急速な情報社会の発展で、動画報道サイトやネット検索情報で、真実、真理はどこにあるのかを数百万人以上の紛争当事者が瞬時に理解できる時代となっている。そのお陰で、シリアやサラエボの紛争による国家や国土の荒廃をみて、多くの人たちが、自国内での武力紛争は、もっとも割が合わない、国民が不幸になる方法であることがわかってきた。そこでベトナムやアフガン、中近東での戦いのように軍隊同士の戦いを極力最小限に抑制し、ウクライナの国内の守りに適した安全退避できる場所を避難地域として特定、そこに国民を避難させ、後は、侵入してきたロシア軍へゲリラ戦を仕掛け、部分的な損害を与え続ける戦い方が侵略軍に対して有効であるということがわかってきた。

ウクライナの広大な国土を占領するためには、ロシア軍の数十万の兵力では少なすぎ、特定の有力な拠点以外での国土掌握は難しい。つまり、仮に数十万人で戦車、装甲車で進行しても、多くて数千人、大方は数百人のレベルで一時的な拠点の掌握しかできない。逆に言えば、NATOのゲリラ戦のプロの百戦錬磨の指揮官の命令のもとで、分散したロシア軍をゲリラ戦法で極秘裏に次々と粛清していく戦い方が主流になるとみている。

また、早期に相手側の政治家、軍事のトップに照準を合わせ、壊滅していく目標攻略型の戦いに集中することで、相手側を短期に屈服させる戦いも有効となってくる。その最優先目標は、プーチン大統領自身であり、軍事侵攻が過激になれば、NATOや西欧側は、あらゆる手段を使って、トップとその取り巻きの軍隊を粉砕することで、戦いを早期に終息させることを強力に推進せざるを得ないであろう。

当然、そうした目標攻略型の攻撃に対するロシア側の防衛は完ぺきに近く、簡単には実現しないし、本格的な核戦争につながりかねない話で、理想論の夢物語の出来事に聞こえるかもしれない。ただ、多くの工作員を動員し、テロ的な活動の中で、様々な政治、軍事のトップを狙うテロの戦いは、過去、活発に展開されてきたし、戦争当事国では、今後も強化されると予測している。すなわち、ウクライナ侵攻後にモスクワ市内で国籍不明の様々な反ロシア勢力によるテロ活動が活発になるのではないかと分析している。

米国はルーブルSWIFT交換停止という金融核爆弾のボタンを押すか

 

2月21日、ロシア通貨のルーブル(RUB)は、1ドル70RUBから80RUBへ10RUBも急落した。すでにG7主要国は、プーチンのウクライナ侵攻の発表を受け、ロシア国債の購入を停止した。さらなる金融制裁として、一部の金融関係者から金融核爆弾(Financial Nuclear Bomb)と噂されるドル、ユーロ、円、ポンドなどの主要な基軸通貨とロシア・ルーブルとのSWIFTの通貨交換の全面停止へ踏み切れるかどうかという議論が次に来ると読んでいる。

SWIFTとは、国際銀行間通信協会というベルギーの組合組織を意味しており、世界中の銀行間の金融取引の仲介の役割を担っている。金融制裁として、このSWIFTのルーブルとドルなどの基軸通貨との交換を全面禁止した場合、それは、ロシアがあらゆる貿易決済ができず、自給自足か、ルーブルでの直取引の決済でも問題ないという国以外の貿易取引や金融取引が一切できなくなることを意味する。事実上の輸出入貿易の完全封鎖となり、北朝鮮のような自給自足でしか生き残れなくなり、体力がない国家では、経済が瞬時に破綻する。あらゆる輸出入品やサービスの取引が止まり、社会経済が大混乱となり、その様はまさに核爆弾の破壊に相当する損害イメージを与えるので、金融核爆弾と形容されるのであろう。

通常、世界中の国々へも深刻な経済ダメージは波及するので、SWIFTの通貨交換を止めるといった金融核爆弾のボタンを押す選択肢は常識では考えられず、起こりえないこととみられている。ところが、ロシアのような食料もエネルギーも自給自足できる国においては、このSWIFTでの通貨交換停止をおこなっても、数か月間以上、いや場合によって数年以上は自給自足でも、経済を回して持続できるのではないかと言われている。また、中国などのロシアとの取引を継続する大国も存在すると思われるので、その効果は限定的で金融核爆弾のような経済を破壊することは無いという見方もある。

要は実際に金融核爆弾が破裂してみないとそのダメージ効果はわからない。ただ、一つ言えることは、ロシア国民の生活はさらに窮乏し、貧困化することは間違いなく、国内の様々な経済活動が大混乱に陥るとみている。今でも、ウォッカのやけ酒の飲み過ぎで体を壊し早死にする中高年が多い国柄だが、そのやけ酒の量が急増するのであろう。また、ロシアから天然ガスのエネルギーの供給を受けてきた欧州、特にドイツのエネルギー政策への影響も深刻となる。従来のような天然ガスと自然エネルギーから、化石エネルギーの石炭火力発電や小型原子力発電への大転換が進むのであろう。

ロシアのウクライナ紛争の出口戦略は見えず、長期化する可能性がある

     

すでにロシアのプーチン大統領は、ウクライナ侵攻によるNATOへの加盟阻止とそれによるその他の共和国の連邦独立や国家分裂を阻止しようと躍起になっている。一方、人権外交を錦の旗にしてきた米民主党のバイデン大統領とその政権チームは、ウクライナ国民のロシアを毛嫌いする悲痛な思いを理解し、なかなか米ロ間で勝手にウクライナのNATO加盟を認めないといった人権無視の発言はできない。

それほどウクライナは積年の恨みも重なり、ロシア嫌いになっていると分析している。ソ連時代には、スターリンの悪政で数百万人以上の餓死者を出し、キエフに近いチェルノブイリは、福島と比較にならないほど、厳しく、つらい放射能汚染で苦しめられてきた。ロシア時代になって、国民は豊かになるどころか、オリガルヒというごく少数の一部の財閥に経済を牛耳られ、いまや欧州のどの国と比べても、最貧に近い生活を強いられているのである。国民感情として、ロシアを憎む気持ちは、相当に大きなうねりになっていると容易に推察できる。

一方、プーチンのロシアも数年以上前から、西側との長期的な戦いを想定し、用意周到に持久戦に耐えられる自給自足体制を強化してきたのではないかとみている。鍵は、エネルギーと食料であるが、食料については、10年前は、ロシアは小麦などの穀物と水産物を輸出、野菜や果物を輸入するアンバランスな状態であったが、最近は、野菜や果物も自給自足できる体制となっている。ただ、経済制裁が厳しすぎると日用品や家電製品など様々なその他の生活物資は不足する。国民は今よりさらに窮乏を強いられるので、中国との貿易取引を強化して、そうした足らない日用品を充足していく考えなのであろう。

おそらく、2020年の米国の大統領選挙で、ディール上手なトランプが大統領なら、プーチンもその威圧感や行動力に圧倒され、ウクライナもロシアも納得できる妥協案で交渉できたとみている。残念だが、バイデン大統領となり、息子を通じてウクライナとは私的な個人的なつながりがあったのではないか疑われている。そのため、プーチンは米国を全く信頼しておらず、バイデンチームもプーチン大統領を信用せず、ウクライナ紛争問題は出口戦略がみえず、膠着状態が数か月以上続き、長期化する様相となっている。

最悪、ロシア軍によるキエフまでの武力侵攻の可能性は残っている。その時は熾烈なゲリラ戦が展開され、血で血を洗うサラエボのような悲劇、呪いのような市街戦が長期に継続すると分析している。2014年に冬季オリンピックが開催されたソチは、ウクライナの南側の黒海沿岸のすぐ近くに位置する小都市の保養地である。準備周到なウクライナ侵攻とは言え、プーチンも政権がひっくり返り、ロシア連邦の崩壊につながりかねない更なる武力侵攻だけは避けたいとみている。

今回のウクライナ侵攻で、プーチンのロシアは、国家存亡をかけ、話し合いで妥協する気は少ないとみている。ただ、一方でロシア国民も、すでにプーチンの独裁的な政治手法にはうんざりしている面も強いと分析している。プーチンによるウクライナ侵攻が、長期化すればするほど、今度はロシア連邦内で第二、第三のウクライナのような反抗する共和国がでてきて、ロシア連邦そのものが、とめどもなく、次々と崩壊していくのではないかと予測している。

21世紀の情報化社会の進展で、あらゆる国のあらゆる地域で、スマホで簡単に世界中のニュース報道が手軽に見られるようになり、独裁的な政治手法は、いまや過去の遺物のような存在となってきた。政治が大衆化し、だれでも一般民衆が政治を動かすトップの政策や動向、言動の良し悪しを簡単に評価できる時代になってきたのである。ロシア人や中国人の一般民衆も馬鹿ではない。独裁的な政治手法には、すでに辟易(へきえき)としているのであり、その動きは津波のような大きなうねりとなって、大国のロシアや中国の政治まで動かすのであろう。後世の歴史家が、プーチンと習近平を最後の独裁者の名残(なごり)として銘記する日も近いのではないかとさえ思える今日この頃である。

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