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ロシアのウクライナ侵略に日米欧はどう対峙すべきか

令和4年2月27日

社会資本研究所

南 洋史郎

国際法違反のウクライナ侵攻でのSWIFT停止後に国連関与は可能か

ロシアのウクライナ侵攻の今後の動向を予測するのは難しい。驚いたことに2月24日の早朝に最悪のケースで起こりえないと思っていた首都キエフや第二都市ハリコフへプーチンの指示でロシア軍が一方的に侵攻を始めた。これは明確な国際法違反である。さらに同日、プーチンはウクライナ侵攻への欧米介入に核戦力行使もありうると演説した。   

ロシア連邦のトップ、プーチン自身が国際法を無視し、侵略戦争と核兵器使用の威嚇を始めたことになる。この代償は想像を絶するほど大きい。すでに24日時点でプーチンは、国際法違反の戦争犯罪人の扱いとなった。従って、大統領等の敬称は一切使わず、戦犯呼び捨てにせざるを得ない。今後、ロシアは国際舞台でその侵略戦争の正当性を主張するであろう。しかし、プーチン自身が国際法違反の侵攻を明言、大量の動画で侵略行為が記録として残っている。要はプーチンの国際法違反は明白であり、それをロシアが国として認め、支援を続けるかどうか、独裁者個人と国との関係が問われることになった。

25日に国連安全保障理事会(安保理)はウクライナ侵攻への非難決議を採択したが、15の理事国のうち11が賛成、インド、UAE、中国が棄権、ロシアのみ反対となり、拒否権の発動で不採択となった。つまり、ロシアも国として独裁者プーチンの侵略行為を認めたことになる。そこで、その決定を受け、国家ぐるみの戦犯が明白となり、26日に欧米各国は、金融核爆弾と恐れられてきた国際決済網SWIFTからのロシアの大手銀行の排除を決定、日本も27日に追随することとなった。

2月28日以降に国連総会の緊急特別会合にて安保理で不採択となったウクライナ侵攻の非難決議が再審議され、採択される見込みである。法的拘束力はないが、ロシアへ国際社会の強い非難の意思を示すこととなる。安保理の管理下の国連軍の派遣は難しいが、緊急会合の非難決議に基づき、米国や欧州を中心とする国際警察軍や国連平和維持軍の派遣の道は開けるのではないかと考えられている。それも難しければ、多国籍軍しか選択肢はないが、核戦争を避けるため、核保有国以外の国の平和維持の参画を検討するのではないかとみている。国連憲章第7条は、平和の脅威、破壊及び侵略行為を決定、勧告でき、軍事的強制措置をとることができる。しかし、大国間の利害衝突から、本来の意味の国連軍は過去、組成、派遣されたことは一度もない。

プーチンに大誤算が次々と発生、「偽旗作戦の失敗」と「軍部重鎮の諌言」で侵攻を中止するべきであった

プーチンは、北京冬季オリンピック後の2月21日からパラリンピック開催前の28日、あるいは3月初旬までにウクライナに親ロシアの傀儡政府を樹立し、親ロシア政権へ転換できると読み切り、用意周到に軍事計画を組んでいたのではないかと分析している。そのため、即効力のあるミサイル攻撃も含み、侵攻前に相当な準備をしていたのであろう。

当初は、圧倒的なロシアの軍事力を前にウクライナ政府もジョージア政府と同様に簡単に短期間で、ゼレンスキー大統領が親ロシアの傀儡政府へ政権を譲り渡すと読んでいたようだ。ところが、その読みがことごとく裏目に出て、現段階では、むしろプーチン自身の政権基盤が危なくなるほど深刻な事態になっているのではないかとみている。その大誤算は、大きく5つに分けられる。それは、「偽旗(にせはた)作戦の失敗」、「軍部重鎮の諌言(かんげん)」、「ウクライナ軍の強い抵抗」、「国際決済SWIFTの制裁」、「ロシア国民の反発」となる。まずは、侵攻を中止すべきであった「偽旗作戦の失敗」と「軍部重鎮の諌言」について解説したい。

一つ目の大誤算の「偽旗作戦の失敗」は、親ロシア勢力の武力攻撃をウクライナの仕業として、自衛権行使を主張する偽旗(にせはた)作戦が嘘と判明したことにある。それでも、ロシア軍自らの判断による国際法違反となる軍事侵攻へ切り替え、非難を浴びることになった。これは致命的な判断ミスであり、プーチンもそれを知って侵攻をやめ、理由をつけ、東部の共和国独立だけに集中するべきであった。無謀にハリコフやキエフの侵攻を決行したことが不可解であり、国際社会のさらなる反発を招くこととなった。

二つ目の大誤算の「軍部重鎮の諌言」は、全ロシア将校協会会長のイヴァショフ退役大佐(元大将、78歳)がウクライナ対立を理由に「プーチン大統領へ辞任を求める書簡」を公表したことである。イヴァショフ将校協会会長は、尊敬されるタカ派指導者の一人でソ連時代の国防相総務やロシア軍の要職を歴任した重鎮である。同氏は、ウクライナは独立国家として自国の自衛権を有し、その国を侵略することは、ロシア人とウクライナ人を互いに永遠に死の敵にすると厳しく糾弾している。この影響は大きく、ロシア軍の幹部がプーチンの命令で、戦う気力や意義を失ったのではとみている。市民動画では、ウクライナ女性がロシア軍兵士へ詰問し、それに戸惑うロシア兵を見た時、戦意が全く感じられず、ウクライナでなぜ戦っているのか、その意味や意義まで見失っているようであった。

「ウクライナ軍の強い抵抗」、「国際決済SWIFTの制裁」、「ロシア国民の反発」は戦いが長期化するとプーチン政権の崩壊につながる

三つ目の大誤算の「ウクライナ軍の強い抵抗」は、ウクライナ軍が想定外に強いことである。さらに、ロシアが無能で弱いと思っていたゼレンスキー大統領が、意外にも軍の最高司令官として果敢に戦い続ける姿も国民の士気を高めている。国家総動員令で18歳から60歳までの男性を招集、すでに市街戦のゲリラ戦で必要な十分な兵力を確保していると思われる。一方、米国は最新鋭の対戦車ミサイル「ジャベリン」を相当数供与、ドイツも対戦車兵器やスティンガーミサイル500基、その他、各国から機関銃、軽機関銃、狙撃用ライフル銃、短銃や相応の弾薬類などが続々と供給されており、すでに長期に戦える体制が整っているとみている。食料などの生活必需品も続々と供給されているようである。

市民動画では、ポーランド国境で家族を安全に届けた若い男性が、強い愛国心と冷静で激しい戦意の表情をみせ、ひるむことなく再びウクライナへ颯爽(さっそう)と戻る姿は昔の日本兵の姿に似て凛々(りり)しい印象であった。ロシア帝国時代に勇敢で強いコサック兵を輩出した土地柄である。ロシア兵は被害が大きく、相当に苦戦しているのではないかと推測している。米国情報では、すでに侵攻したロシア軍の損害は甚大で、補給路が遮断され、燃料や弾薬の補充も難しい厳しい状況となっているようである。大都市で本格的な市街戦、ゲリラ戦になれば、ロシア軍の損害はさらに大きくなると予測している。

ウクライナ国防高官の発表では、わずか3日間の戦闘で、ロシア軍は兵力4300人と戦車146両、航空機27機、ヘリコプター26機を失ったと報告している。ウクライナ兵は精神力、戦闘力、忍耐力、知力など様々な面で予想に反して、かなり強い軍隊なのかもしれない。驚いたことにプーチンは27日にロシア軍の核戦力の部隊へ高度の警戒態勢を命じた。万一、戦略核が使用されると数万から数十万の市民が被ばくする無差別殺戮となる。軍が命令通りに戦略核を使用するかどうかは疑問視されている。常軌を逸した指示、命令が続いており、ロシア軍の中に、プーチンの精神的な正常性について疑問視する幹部や兵士も多いのではないかと分析している。理解不能な命令が続き、戦いが長期化すると軍事クーデターが起こる可能性も高いとみている。

四つ目の大誤算の「国際決済SWIFTの制裁」は、金融核爆弾の破裂、国際決済SWIFTのロシア大手銀行の完全排除が決まり、ロシア経済のダメージが想定以上に大きくなると予測している。実施後は、ロシア国民を雇用する日米欧の外資企業や輸出入貿易にたずさわるロシア企業の経済活動が一部を除き完全に止まる。経済活動はある部分が止まると連鎖的に循環的に悪影響が経済全体へ直ぐに伝播する。そのマイナスの影響は思いのほか大きい。ロシアのGDPは年190兆円、輸出は年48兆円(4200億ドル)、輸入は年28兆円(2400億ドル)もある。中国との取引は、輸出入とも6兆円のバーターが可能でその影響は小さい。

しかし、日常生活に影響が大きい輸入品は、ドイツや米国、イタリアで6兆円もあり、残り16兆円の取引も止まるので、中国品で代用できない様々な商品が、在庫切れと同時に次々と店頭から消えていく。例えば、自動車が壊れても、その修理部品を日本から調達できず、輸送機能がストップする。経済混乱が1週間も経過せず、深刻化し、まずロシア都市部の経済機能、輸入品のサプライチェーンが寸断し、買いだめなどでスーパーから生活物資が枯渇し、国民の不満が一気に大爆発するとみている。

五つ目の大誤算の「ロシア国民の反発」は、ロシア国内の様々な都市でウクライナ侵攻に対する市民の反対運動が過激になっている点である。一般のロシア国民は、テレビ報道でウクライナ侵攻のニュースが一切ないため、その事実を隠し続けているが、一般民衆の多くはSNSなどですでに正確な情報をつかんでいる。もし、ウクライナの国防高官の発表通り、わずか3日間で甚大な被害を受け、戦死者が多いことがわかれば、ロシア国内では、プーチン政権の打倒を叫ぶ国民運動が高まり、政権の支持基盤であった人たちもプーチンから離れるであろう。戦いが長期化するとプーチン政権の崩壊につながることは間違いない。

ウクライナの停戦合意が長期化すれば、ロシアで民衆蜂起や共和国の独立運動が活発化、軍の反乱もあり、プーチンは退任するべきである

日米欧がプーチンを含むロシア要人の個人資産の凍結だけでなく、SWIFT停止という金融核爆弾のボタンを押す決定を下したことで、プーチンは一刻の猶予もなく、出口戦略の停戦合意を急がざるを得なくなったとみている。SWIFT停止は、過去、イランで核開発にからんで実施されたが、経済活動を止めるその威力はすさまじく、通貨が暴落して、物価が急騰、あのプライドが高いイランでさえ、SWIFT復帰の交渉を要請したほどである。

プーチンは、SWIFT停止は影響ないと間違った主張をするかもしれない。しかし、ロシアは、イランより国土や経済規模は大きく、人口も1.6倍もある。金融制裁が数週間も続けば、通貨暴落と物資不足による物価急騰の影響が深刻となり、経済が致命的な大混乱になるとみている。国民の金の恨みは恐ろしい。この馬鹿な結果をまねいた全責任が、独裁者のプーチンにあり、彼の国際法違反のウクライナ侵攻に起因していることを国民が知れば、その多くが怒り狂い、暴動や民衆蜂起までエスカレートすると分析している。

その時は、身辺を警護するものすら反乱に加わるかも知れず、クレムリンが地獄のような光景に一変するとみている。シリア政府は手厚い支援を受け続けることができず、チェチェン共和国など親ロシア政権が民衆から突き上げを受け、次々と反プーチン政権へ切り替わっていき、結果的に北コーカサスの共和国の独立運動が活発化するとみている。

さらに、ウクライナ軍の士気はとても高く、ロシア軍の士気はかなり低いとみている。ロシア軍の兵士の中には、プーチンへ相当な怒りをもっている人も多いのではないかと分析している。そうなるとある時点で、ロシア軍は戦う意欲を喪失し、ウクライナ軍へ次々と意図的に投降することで、プーチンへ反旗をひるがえす兵士も増えるのではないかとみている。なにしろ、ネット情報社会、SNSの世界では、プーチンは今や国際的な犯罪者であり、極悪人である。国民の金を違法に流用し、22兆円以上も私腹を肥やしてきた大悪党である。そんな悪党に忠誠を誓って、国家を守るために戦うことすら無意味に思えるロシア兵士も多いのではないかと推察している。

なんでこんな狂った悪党から指図を受けて、大事な仲間だったウクライナ人と命を懸けて無駄な戦いをするのか、その怒りは抑えようもないほど大きいはずである。むしろ、停戦合意が長期化すれば、ウクライナ軍と結託し、プーチンへの軍事クーデターを計画、実行に移す可能性もあると予測している。

ベラルーシでのロシア軍幹部とウクライナ政府との停戦交渉が予定されている。ただ、ウクライナ側はプーチンが求める一方的な停戦条件に安易に急いで妥協する必要はないのであろう。万一、核兵器の脅しがあれば、これは明らかな国際法違反であり、国連へ訴え、プーチンの大量殺戮兵器の恐ろしい恫喝の事実を公表すべきであると考える。むしろ、イヴァショフ退役大佐がウクライナ侵攻の阻止を理由に「プーチン大統領へ辞任を求める書簡」を公開した内容の情報を共有し、双方がプーチン退任という共通の目標を共有して、クレムリンを攻略する相談ができる可能性すらあると分析している。

いずれにせよ、SWIFT停止を契機として、ロシア国民やロシアの軍部、北コーカサスのロシア連邦の共和国が、それぞれの立ち位置を見据えながら、反プーチンや脱プーチンで独裁政治から脱皮し、自分たちの生活が向上するために欧州の経済圏との連携や共存共栄の道を模索しながら、ウクライナ侵攻は新たな国同士、共和国同士の連携や連帯を強めていくと予測している。結局、共通の出口戦略はプーチンの退任によるSWIFT復帰になるとみている。

19世紀や20世紀は、スマホのネット環境もなく、戦う者同士の情報の共有化も困難であった。ところが、21世紀になって、武力的な戦いには、必ず万人が納得し、命をかけても守るべき正義の理由というものが必要不可欠となっている。もし、前近代的な野蛮な武力戦争を指示命令する為政者がいたら、誰もが納得できる立派な動機や理由が無いと戦えない時代になってきたのである。その意味で、プーチンは、SNSやネットの世界では、今やウクライナだけでなく、ロシアでも、退任させるべき悪い独裁者となっている。そのあたりの情報を共有することで、互いに組んで一緒に戦う時代になってきたのである。日米欧は、こうした若い層のネット上の新しい流れをしっかりと理解して、側面支援する良い方法を模索すべきなのであろう。

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