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ロシアの出口戦略はプーチン排除と軍事撤退後の敗戦処理

令和4年3月5日

社会資本研究所

南 洋史郎

ロシア兵のスーパー略奪などロシア軍が追い込まれる兆候が見られる

ウクライナの2月24日のキエフ侵攻から3月4日までに9日間が経過した。2月26日にロシア国営メディアがホームページ上で誤って勝利宣言の記事を掲載、直ぐに取り消したが、その慌てぶりから、当初、ロシア軍はわずか3日間で首都キエフを占領し、ウクライナに臨時政府を樹立する予定であったと推察される。逆に言えば、侵攻したロシア軍は3日間で首都を占拠、反撃がなければ、ウクライナ駐留から撤退までの10日間程度を加えても、2週間程度の兵力や武器、弾薬しか用意していないと推察される。

ところが、ウクライナ軍から想定外の猛反撃があったため、大量の戦車が破壊され、武器、弾薬を使い果たし、予期しない多くのロシア兵が死傷しているのではないかと推察されている。その数、推定で少なくとも数千名以上ではないかとみられ、さらに本格的な市街戦まで突入すれば、死傷者は一桁増えて数万人以上に増加すると予測されている。当初、プーチンは、軍事演習の延長とだまして多くの若い未熟な兵士を動員させても、激しい戦闘もなく、ウクライナの首都を簡単に占拠できると甘くみたのであろう。

海外のネット報道を見ると様々な動画が見られる。そこから判断するとロシア軍が戦う気力は弱く、戦争の継続に必要不可欠な軍事物資も欠乏しているようだ。スーパーの監視カメラに食料品や水などの飲料を略奪しているロシア兵の哀れな姿を映し出す動画があった。これは、軍隊での極端な食料品の欠乏を物語っている。普通、訓練を受けた兵隊なら安易に略奪などしない。ウクライナなら大丈夫という気持ちもあり、背に腹は代えられない切迫したものがあったのであろう。

軍事侵攻から時間が経てば経つほど、兵士へ支給する食料や飲料水、弾薬が底をついていく。戦車や装甲車に必要不可欠なガソリンも欠乏する。侵攻中の道路上で立ち往生する大量の車両をみると、ロシア軍がこれ以上戦争を持続できないと解釈できるのである。   軍隊を立て直すと言っているが、物資の補給がなければ、侵略できず、兵士へすごい疲労 がおそい始める。電力を供給する原子力発電所へ向かうロシア軍を阻止しようと数百人の ウクライナ人が道路をふさぐ映像や欧州で一番大きい原子力発電所を攻撃する画像も流れ ていた。これらは、ロシア陸軍が相当に追い込まれているためとみている。

動画分析からロシア軍がウクライナ軍に実質敗北した状況と推察される

ついに大都市のキエフやハリコフだけでなく、様々なウクライナの都市、中には田舎の町も含まれるが、無差別にミサイルを撃ち込み始め、市民が逃げ惑う姿が報道されている。ロシア軍は陸軍と戦略ロケット軍にわかれる。陸軍はウクライナ軍の反撃で右往左往して進軍できないままとなっている。問題は戦略ロケット軍である。高精度のミサイルは使い果たし、命中精度の低いミサイルを民間や公共の建物へ発射し続けている。無差別殺戮の見地から使用禁止になっているクラスター爆弾や燃料気化爆弾も使用されたようだ。

すでに一般住民が居住する建物や学校などの非軍事施設へミサイルが次々と着弾し、ウクライナ市民が犠牲となって2千名以上の死者やそれ以上の負傷者がでている。ロシア軍の狙いは、徐々に無差別で爆撃し続け、市民に恐怖心を巻き起こし、早期の投降を促す占領作戦の一環と考えられ、追い込まれたときに使うことが多い。案の定、今や世界から戦争極悪人とみなされているプーチンやその指揮命令下にあるロシア軍への怒りや憎しみの感情が、SNSなどを通じて、世界中で巻き起こっているのである。

軍事の専門家ではないが、いくつかの統計的、経営的な数字や様々な現象を分析するノウハウを活用して動画報道を分析すると、キエフやハリコフの近郊に展開するロシア陸軍は、多くの仲間をすでに失い、精神的に疲労困憊の状態で、戦うために必要な武器や食料の補給も受けられず、これ以上の戦争継続は難しい状況にあるとみている。戦略ロケット軍も、自分たちが発射したミサイルが次々と非軍事施設へ着弾し、民間人を殺傷していることは百も承知で、プーチンの軍事行動が戦争犯罪とみなされる中、自分たちも同罪になりはしないかとビクビクしている状況ではないかと推察している。

いずれにせよ、ロシア軍はすでに精神面や物質面で戦意を失い、今後の展開における道筋も皆目見えず、結果的に敗北した精神状況になっているのではないかと分析している。プーチンが狂ったように主張するウクライナ全土を掌握するために、これから各都市での本格的な市街戦を覚悟する必要があるが、米国の軍事専門家が指摘するように市街戦で勝ち続けるためには20万人弱の兵力の数倍以上の兵士や武器、弾薬などが必要であり、かなりの戦死者も覚悟しないといけない。これは今のロシア軍の状況から不可能に近く、進むも地獄、退くも地獄の厳しい状況となっている。結論として、すでにロシア軍はウクライナ軍に実質的に敗北した状態になっているのではないかと分析している。

米国やEU、日本がプーチンとロシアを非難して強力な制裁を始めた

2月28日、米国はロシア中央銀行のドル取引を禁止、EUやカナダ、日本等もロシアとの通貨取引を禁止した。すでに米国はロシア最大手のズベルバンクやその他の金融機関に対して、米国の銀行を介したドル決済や外国送金の取引を禁じており、実質SWIFTによるドル決済もできないようにしている。3月3日、EU理事会でロシアの最大手のズベルバンクやガスプロム傘下のガスプロムバンクを除くロシアの主要7銀行へSWIFTからの排除を決定、10日間の猶予の後、3月12日から施行される。また、日米欧によるプーチンやロシア政府要人の金融資産も差し押えられた。今後の軍事侵略の成り行きでは、戦争被害者への弁済のため、全て没収される可能性もでている。

3月2日に米国のバイデン大統領は、昨年1月20日に就任して以来、初めての一般教書演説をおこない、議会大拍手の中で、演説の三分の一を独裁者プーチンへの批判、ウクライナのロシア反撃の勇気に賞賛をおくった。3月3日には、国連の緊急特別会合で四分の三の圧倒的な賛成で、ロシアの軍事侵略に対する非難決議が採択され、完全かつ無条件のロシア軍のウクライナからの即時撤退を要請した。法的拘束力はないが、軍の即時撤退が無い限り、国連はロシアを非難し続け、先進国が強力な制裁に踏み切ることになった。

その結果、G7など主要先進国は、国際法違反で戦犯扱いになっているプーチンが率いるロシア軍の即時撤退を促し、そのためにウクライナとその軍に対して、あらゆる支援をすることが決まった。つまり、即時撤退をするまで、ロシアに対しては、軍事以外で考えられる制裁を取り続け、ウクライナに対して、あらゆる可能な支援を行うことを意味する。
つまり、プーチンがウクライナからのロシア軍の即時撤退を命令しない限り、強力な金融制裁や経済制裁が継続し、その解除がされないことを意味する。

既にルーブルは暴落し始め、侵攻する数週間前に1ドル70ルーブルであった為替レートが、105ルーブルへ急落しており、EUのSWIFTが実施されるとさらに暴落すると予測されている。通貨の暴落は、急速なインフレ、ハイパーインフレとなって経済を破壊し始め、金利の急上昇をまねき、すでに公定金利は10%から20%へ引き上げられた。
ロシアへ進出している欧米の主要企業は、次々とロシア事業から完全撤退を表明、日本の大手企業も近いうちにロシアから撤退するとみられている。

ロシア軍の即時撤退とクレムリン内部でのプーチン排除はいつになるか

ロシア軍の即時撤退がない限り、ロシア経済が破綻する速度が速まる傾向となっている。EUのSWIFTが12日から実施されると短期間でロシアの大手企業が次々と倒産し、失業者が急増、生活できない人たちが大量にでてくる可能性が高い。ウクライナへの侵略、民間人の虐殺の代償はあまりに大きく、数か月も経過するとロシア連邦が大不況となり、大量の失業者が町にあふれ、食べるものに困る貧困者が急増することが懸念されている。

独裁者プーチン一人の無謀で異常なウクライナへの侵略命令で1億4千万人の国家破綻をまねく悲劇が生まれるのである。プーチンが国営テレビで、事実無根のウクライナのネオナチ虐殺など、様々な狂った言動に洗脳された一般民衆が、虚言の実態を知り、騙されたことを知った時、怒りのエネルギーは大きくなり、民衆蜂起に発展する可能性はある。
3月3日にフランスのマクロン大統領が心配してプーチンと電話会談をしたが、プーチンはウクライナ全土を掌握するまで戦い続けると主張したようである。また、同じ3日の停戦協議で、戦闘地域から民間人を避難させるため、ごく限定的な地域で市民避難のための人道回廊の設置に合意、交戦も一時的に停止することになった。ただ、ロシア側は一方で軍事作戦の続行も明言しており、プーチンの主張に歩調を合わせているのかも知れない。欧米の政治関係者は、最近のプーチンの言動に精神的な異常性も感じ始めている。

アメリカはロシアのプーチン政権に近い「オリガルヒ」と呼ばれる富豪などの新興財閥へも経済制裁をおこない、資産凍結などを実施するとしている。ロシアのオリガルヒの一人で、米国在住のコナニキンは、ソーシャルメディアで、生死を問わずプーチンをつかまえた者に百万ドルを支払うという懸賞金を公表した。その背後にCIAなど米政府との取引もあったのではないかとみられている。また別のオリガルヒのアブラモビッチやティエンコフもプーチンのウクライナ侵略に反対を表明している。

プーチンに近かったオリガルヒが次々と反プーチン的な言動や行動をとり始めており、彼らは変わり身が早く、すでにプーチンの失脚を見込み、先手を打っているのではないかとみている。オリガルヒとロシアンマフィアとの密接なつながり、関連性はわからないが、過去、プーチンの政敵や反対するジャーナリストを次々と毒殺した際に、何らかの形で関与があったのではないかとも噂されている。あくまで邪推だが、今回の懸賞金は、マフィアの中で殺しのプロ達がプーチンの命を狙う可能性もあり、万一にもそれが実行されるなら、ハリウッド映画のような展開も繰り広げられるのであろう。

プーチンがどこで軍部へ命令しているのかは明確ではない。4日もドイツのショルツ首相との電話会談で停戦交渉の条件を変えない強気の発言がみられた。ただ、ロシア側の軍事作戦の継続といっても、弾薬や食料などの欠乏から、少なくとも陸軍が市街戦を継続できない状況は明らかである。そのためプーチンのロシア軍への指揮も、徐々に機能しなくなっているのではと分析している。今後、プーチンが失脚しない限り、ロシア軍の撤退は起こり得ず、その時期がいつになるかはだれも予想できない。

側近の軍幹部がクーデターでプーチンが失脚するか、プーチンの存在が確認できず、指揮命令が途絶え、ウクライナに駐屯している現地のロシア軍幹部が、あまり戦わなくなり徐々に後方へ撤退している様子が観察されれば、プーチンの軍の影響が排除されたとみている。その時期は、早くて1週間以内、遅くても数週間以内ではないかと予想している。それまでに、ウクライナの大統領暗殺や政権幹部の捕捉などの最悪の事態も否定できない。しかし、ウクライナ軍や民衆の反プーチン、民主化への意思は固く、万一、最悪の事態が起こっても、別の指導者が登場して、エンドレスでロシア軍へ抵抗し続けるとみている。つまりロシア軍にとってプーチン排除以外にウクライナに駐留する実質敗北した20万人に近い兵士や軍事兵器を撤収する選択肢はみつからないと分析している。

プーチン排除に関する予想と次の政権はどのような対応をするだろうか

もっとも顕著にプーチンの影響が排除されたと確認できるのは、ミサイルなどの兵器が市街へ攻撃されなくなることだが、これも市街と言っても明らかに住民がいないと思われるエリア、例えば、空き地などへ時々着弾するようになれば、プーチンの影響が無くなり始めている兆候と考えている。プーチン排除は、ロシア側の面子(メンツ)もあり、明らかにプーチンが失脚し即時撤退したとはならず、徐々に軍部が黙って引いていき、ウクライナが占領エリアの実権を回復する中で、欧米の専門家などがプーチン排除を確信し、一方でウクライナの生活機能も徐々に回復していくと分析している。

プーチン排除は、その正否もわからず、プーチンの病気入院を理由に側近の政治家が代わりに政治を始めるのではないかと予想している。独裁者プーチンの生存は否定せず、ロシアとして国の面子を保ちながら、SWIFT排除を含む日米欧の経済制裁は続くが、その混乱の中、ロシア経済の立て直しのため、即効性のある有効な経済対策を講じざるを得なくなるのであろう。さらに経済制裁の解除に向けた外交的な駆け引きも展開するとみている。ロシア軍の侵略エリアの範囲が徐々に少なくなっていく中、クリミアや独立を主張する2つの共和国の領土支配の確保を撤退の条件にしながら、ウクライナとは、数週間以上の停戦協議や領土交渉も続くのではないだろうか。

経済制裁によるロシア国内の失業や不況の深刻さも政治に大きく影響する。プーチン排除がはっきりした場合、ソ連崩壊後に10年続いたエリツィン大統領のような新たな強い指導者が登場する可能性も考えられる。ただ、反プーチンを叫ぶナワリヌイ氏などをリーダーとする民衆蜂起による政権転覆までは今のところは起こりえないとみている。

次の政権リーダーの可能性が高いのは、2008年から4年間の大統領経験があり、ロシア連邦の初代安全保障会議のメドヴェージェフ副議長である。次の大統領選挙がおこなわれる2024年までプーチンの病気療養による長期入院を理由に暫定政権を樹立する可能性が高いと分析している。プーチンの過去の一切の罪を免責し、プーチンの政権引退後の安全も擁護しながら、欧米日の経済制裁の解除を粘り強く交渉するのであろう。

余談になるが、エリツィン大統領は1999年12月31日に退任し、2000年5月7日からプーチンの大統領が誕生、それまでプーチンが政権代行を担った。その少し前の12月9日に中国を訪れたエリツィン大統領は、仲が悪くなった米国民主党のクリントン大統領への反発から、ロシアが核兵器の完全な備蓄を保有する偉大な大国であることを忘れていると不満を述べている。ロシアのトップは、ロシアを侮(あなど)る相手に最後の捨て台詞(せりふ)で核兵器に言及するようである。プーチンも2月のウクライナ侵攻時に核兵器に言及しており、まだ精神的に正常なところがあれば、相当に追い込まれ、政権の終わりに近づいていることを本人も自覚しているのではないかとみている。

なお、予測シナリオなので、可能性として低いかも知れないが、プーチン自身がテレビで次の大統領に政権を移譲し停戦交渉を委ねるための最後の演説をする可能性も否定できない。その時はプーチン自身が精神的に普通の状態へ戻っているのであろう。精神が錯乱、解離的になると次々と妄想のような言動も多くなり、言ったことと行動とがうまく一致できない状況が続く。解離性が大きすぎ、本来の自分へ戻った時、その起こっていることの重大性を認識し、事態の収拾をはかるために自ら身を引く決断もありうると考えている。

プーチン排除とロシア軍の撤退後の敗戦処理はどのように進められるか

欧州など各国は戦争侵略の当事者であるプーチンがいなくなり、次のロシア連邦のトップ、例えば、メドヴェージェフのような大統領経験者が暫定政権を担えば、安心感も高くなり、経済制裁の解除に向けた話し合いを早くしたいと願っている。資源では、ロシアの天然ガスなどに大きく依存しており、主食のパンの原料の小麦も重要な輸入品である。ロシアの銀行のSWIFT排除という最終兵器(核兵器や核爆弾)の金融制裁を含む経済制裁も、本音では自分たちも大きな返り血を浴びる可能性が高く、早期に解決したいと願っているに違いない。

ところが、ウクライナからのロシア軍の撤退後も、ロシアによる侵略に関する莫大な賠償金やクリミアなどの独立交渉が難航する可能性が高く、ウクライナとロシアとの交渉を円滑に進める交渉支援が必要になってくる。その役割は、フランスやドイツを中心としたEUが仲介し、何度も交渉を重ねながら妥協点を探っていくことになるとみている。意外と賠償金については、欧米日の主要銀行で差し押さえられている10兆円を超えるといわれるプーチンの財産やオリガルヒの不正な蓄財などを充当して解決するかも知れない。

領土問題は時間がかかる可能性はあるが、ロシア連邦側もいつまでもこだわり続ける悠長なことは言えない経済復興を急ぐ切迫した事情がある。案外、2014年以前の侵略前の元のウクライナの状況へ戻すことに合意する可能性が高いのではないだろうか。どうみてもロシア側は敗北したのであり、国際社会はその侵略の暴挙に怒りと非難を浴びせ続けている。敗戦処理において偉そうに言えない事情もある。ウクライナは、ゼレンスキー大統領の強いリーダーシップのもとで、復興需要などで経済発展が見込まれ、EUやNATOへの加盟もおこなわれるであろう。軍事撤退後、8万人以上が惨殺されたチェチェン共和国も独立を宣言するのではないかと予想している。

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