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プーチンに苦しむ民衆を救う正義のヒーローは現れるか

令和4年4月28日

社会資本研究所

南 洋史郎

ロシア軍のウクライナ侵略が2カ月となり民衆の苦しむ姿が痛ましい

連日、ウクライナ南東部の港湾都市マリウポリの最後の砦となったアゾフスタリ製鉄所の地下室にいる数百人の民衆と精鋭のアゾフ大隊を含めた2千人近い人たちの最後の抵抗が報道されている。製鉄所の地下室に逃げたウクライナの女性や子供たち、赤ちゃんの姿をみると胸が絞めつけられる。皆さんが無事で生還されることを願って祈るばかりである。

それにしても、プーチンやその指揮下にあるロシア軍は、なんと恐ろしく凶悪な人達なのであろうか。2月24日以降、2か月にわたり、独立国のウクライナを侵略し、そこに住む何の罪もない住民を殺りくし続けてきたのである。住民が住むマンションや一軒家がミサイルや砲弾で次々と破壊され、大都市が廃墟と化していく姿は、現実と思えない地獄のような恐ろしい光景である。さらにロシア軍が、爆撃で住民を無慈悲に抹殺していく様子がテレビで放映されているが、一刻も早くやめて欲しいと祈りながら、心配でつい報道をみてしまう。

今まで知らなかったロシアの過去の蛮行、悪行も徐々に知れわたるようになってきた。ロシア連邦のわずか百万人の人口の小さなチェチェン共和国では、多くの住民が殺害された。その数は数万人規模に達し、残忍な方法で住民を殺りくし続けたカディロフ部隊が、今回、ウクライナにも投入されている。処刑、拷問、強姦などありとあらゆる蛮行がおこなわれたといわれるが、その実態は隠され続けている。プーチンは大統領になる前にこのチェチェン制圧で名を上げた実績があり、残虐なカディロフ部隊はプーチンの直属の親衛隊と形容される私兵であり、ウクライナでも住民を恐怖に陥れる殺戮が続いている。

シリア内戦では、アサド政権と反政府軍の戦いと思われていたが、その背後にプーチンのロシア軍が深く関与、ロシア製の兵器を使って、今のウクライナと同じように都市部をことごとく破壊し続けたのである。2012年以降に本格的な内戦状態になったが、過去10年間で国外に脱出したシリア難民は660万人と増え続け、その半数以上がトルコで生活されている。欧州はドイツが突出して多くの難民を受け入れ、その数、約1割の60万人弱となっている。国内難民も同じぐらいの人数がいると言われ、内戦前、2100万人であった人口の6割、1300万人が住んでいた家を追われ、国内外で悲惨な難民生活をおくられている。都市部は破壊されつづけ、復旧どころか、今も多くは瓦礫のままである。

ロシア人の多くは本当にプーチンを支持しているのであろうか

ロシア国内のテレビ報道は厳しく情報統制されているため、ウクライナで起こっている侵略戦争の真実は正しく伝えられていない。ただ、どんなに規制しても、インターネット情報は静かに国民に知れわたり、プーチンによる凶悪な戦争犯罪といえるウクライナ侵略戦争は、ロシア国民の多くを深い失望感に陥れ、何とも表現しづらい重苦しい気持ちにさせているのではないだろうか。大事な視点は、プーチンやその指揮下のロシア軍は惨忍だが、一般のロシア人は我々と同じ普通のまともな感覚を持った人たちということである。

日本在住のロシアの普通の人たちは、今回のウクライナ侵略に対して憤り、プーチンの悪行に怒りを覚え、ロシア国内に住む親せき、知人へ電話などで実態を伝えている。ところが 多くの場合、うまく互いに意思疎通ができていないようだ。もしロシア国内のロシア人が、そんなやり取りに本音で受け答えし、一緒になってプーチン批判でもやったら、どこで盗聴されているかわからない。ある日、突然、秘密警察がやってきて、逮捕、監禁されるかも知れず、恐怖に怯(おび)える日々を過ごさざるを得ない。だから、日本からの話にロシアやプーチンを応援すると答え、反発するのは当然である。多くのロシア国民は、自分たちの生活や命を守るため、表向きウクライナ問題に無関心、あるいは合言葉のZの文字でロシア軍を応援し続ける立場をとらざるをえないのである。すでにロシア国内は有事であり、北朝鮮のような厳しい監視社会の中で暮らしているのである。

冷酷で非情な独裁者が支配する国の国民は、政治に一切口を出さず、沈黙(サイレンス)のみが穏やかな生活を維持するために必要とよくわかっている。自由に意見を言うことは許されず、歯向かうジャーナリストが逮捕され、拷問を受け、監禁、殺害される姿を見れば、だれでも沈黙こそが平和に生きる道と悟るであろう。ただ、徴兵された若い兵士を含むロシア兵が、わずか2か月で1万人以上も亡くなっていると言われ、その事実を知る家族は、内心は相当に落ち込み、怒りに震えているに違いない。

厳しく監視され、委縮する国民にプーチンの支持率を調べるアンケート調査ほど無駄なものはない。多くの国民は黙って支持すると答え、トラブルに巻き込まれず、関わりたくないのだ。ただ、一方でSWIFT停止の金融制裁で大半の輸出入が止まっており、その悪影響がジワジワと庶民生活を苦しめ始めている。経済、金融制裁が始まって2か月、今後、半年も経過すると経済機能が至る所で破綻し始め、生活が急速に苦しくなっていくであろう。

7月の小麦の収穫、8月の小麦の種まきまでに農家は戦争が終結することを願うだろうが、それは難しい。収穫量を増やす小麦の種をカーギルなど食物大手メジャーから輸入したくても入手できず、小麦の栽培、収穫が激減し、採算が取れない農家が急増すると予測している。さらにイランやウズベキスタンなど周辺国から、制裁をかいくぐり、農作物がいつまでも入荷されるという保証はない。制裁から半年以上が経過すると1億5千万人の国民へ供給できる食料が底を尽き、国民の生活水準がかなり低下、貧困化することは間違いない。

至るところで失業者が急増、職の無い貧困層から、ハイパーインフレで高くなった食料が購入できず、自殺者や一家心中、餓死者が大量にでてくるとみられている。そうなると取り締まる側の地方公務員や警察の人たちも、このままで生きていけるのかという恐怖心から、プーチン体制に反発する態度へ一気に転換するとみている。警察など治安をつかさどる人たちが職務を遂行しなくなると反政府活動に歯止めが効かなくなり、それがプーチンの政権失脚につながるのではないかと予測している。

ロシア国内の監視体制が、中国や北朝鮮のように厳しくできるかは未知数であるが、国土が広く、言論統制や行動規制までは難しいのではないだろうか。プーチンの失脚は読めないが、もしその事態が起これば、ロシアの窮状を救済する新たなリーダーの登場を期待しないといけない。マスコミの下馬評で、一時ポストプーチンとしてメドベージェフ元大統領の名前が挙がっていた。しかし、ウクライナ侵略が失敗に終わる可能性が高まる中、プーチン色が全く無い反体制派で欧米と連携し強力に民主化路線を推進できる人物でないと早期の金融制裁の解除まではいかないであろう。今まで知られていない新たなロシアの政治リーダーが国民の支持を得て、後継者として急浮上する可能性もあるとみている。

ウクライナ侵略戦争はロシア軍が敗退、大量の捕虜がでて終結するだろう

戦略家は、ロシア軍を過大評価していた。大方の軍事専門家は、当初はその圧倒的な兵力の差から、ロシア軍が有利で短期間で東部や南部を制圧、独立させると予測していた。ところが、ウクライナ軍善戦の戦況を知り、2か月でロシア軍の軍事消耗が25%以上と想定以上に大きく、制圧した都市も次々と奪還され始めているという話もでている。一方、ロシア側からは、南部のヘルソン州を制圧したなど次々と都市陥落の情報が流れてくるが、何が真実なのかはわからず、虚偽報道の疑いすらでている。

唯一、信頼できる情報は、欧米から続々と最新鋭の軍事兵器が供給され、それがロシア軍にかなりのダメージを与え続けているという報道である。特に最新鋭の米製のりゅう弾砲やドローン兵器は強力で、ロシア軍がその威力のすごさに撤退し続けるのではないかとみられている。つまり、向こう数か月間で、占領していた東部地区や南部地区も次々と奪還されて、支配地域が狭まっていき、ある時点で、クリミア含め、全てのロシア軍が撤退する可能性もでているのである。戦争が長期化すると言われているが、欧米の最新鋭の兵器で武装したウクライナ軍の活躍により、意外と向こう半年以内の短期間でロシア軍全面撤退の可能性もでてきているのではないだろうか。

ロシア側はすでに大量のミサイルや兵器を損耗している。今後は経済制裁が効いて部品が欠乏、兵器を補充できない状況も予想されている。要は戦争を継続したくても、兵士も兵器も枯渇する状況が刻一刻と近づいているのである。プーチン失脚前にプーチン自身がウクライナ戦線で窮地に追い込まれた場合、まだ6千発の核兵器という人類を滅ぼしかねない最終兵器を保有しており、そのうち、超小型の戦術核と言われる核兵器をウクライナへ使用するかも知れないという最悪の事態がNATOや米国で懸念されている。つまり、プーチンを追い詰めすぎても、核兵器使用につながるかも知れず、ある時点で軍事的均衡の妥協点を探す努力も必要となってきているのである。

ただ、ロシアの核兵器使用は、仮にそれが小規模な戦術核でも、人類を滅ぼすかも知れない全面的な核戦争にまで発展する可能性が極めて高い。また、欧米の諜報機関は、ロシア上空の宇宙空間から、常にロシアの弾道ミサイルの発射状況を監視し、その不穏な動きをどこよりも早く察知できるといわれている。つまり、本当にロシアが核兵器の発射を準備し始めるとその段階で最悪、北極海に潜航する米国の原子力潜水艦からクレムリンに向かって戦略核を発射する準備が始まり、プーチンとバイデンの首脳同士のホットラインの会話で最終の判断が下されることになる。悲しいことに二人は犬猿の仲であり、そこで想定外の悲劇的な結末を迎える可能性が高いとみている。万一、そうした事態が起これば、撃沈されるモスクワは戦艦ではなく、本物の都市となり、人類破滅の核戦争が勃発する。

一方、プーチンの核兵器の脅しをものともせず、ウクライナ軍は命がけで必死に戦い続けるであろう。向こう数か月で、最新鋭兵器で占領地域を奪還し続け、国内からロシア軍の全面撤退を実現した時点でロシア軍の捕虜も相当数でてくると予想している。残虐な行為をおこなったロシア兵は国際軍事法廷で裁かれる可能性がある。捕虜の中にプーチンに反発する兵士も結構いるという話である。自ら志願して、プーチン打倒を目的に反政府軍を組成して行動するロシア兵もでてくるのではないかとみている。万一、そうした事態が起これば、ロシア国内で大規模な政府軍と反政府軍の戦いが展開されることになるであろう。その反政府軍にウクライナを通じて、欧米の最新鋭の武器が供与される可能性もあるとみている。

権威主義と民主主義の国家による第三次世界大戦はすでに始まっている

プーチンやその周辺の政権幹部から、第三次世界大戦の可能性を示唆する発言が相次いでいるが、経済、金融面の制裁も広く超限戦の中の戦いと定義すれば、第三次世界大戦はすでに始まっていると解釈できるのである。NATOや米国は、多くの人命を失う武力戦だけは、核戦争にも発展するので、絶対に避けないといけないという立場である。ところが、不法に侵略されたウクライナだけは自らの主権を守るため、武力戦しか選択肢が残されておらず、戦争犯罪的な侵略を展開するプーチンのロシア軍と仕方なく命がけで戦っているのである。

民主主義という価値観を共有するウクライナは、欧米日の価値観と同じ民主主義の国家陣営に属している。すでに権威主義の国家陣営と民主主義の国家陣営による超限戦を含む第三次世界大戦は始まっている。そのため、同盟国のウクライナに兵器や食料、資金などありとあらゆる必要なものを全面的に支援する義務が、民主主義同盟のリーダー格であるEUや米国、日本に生じている。つまり、同盟国を見捨てることは、権威主義国家のリーダー格であるロシアのプーチンに敗退することを意味しているのである。

アジアでは、ミャンマーで権威主義路線を歩む軍事政権がその独裁基盤を固めている。兵器のほとんどはロシア製か中国製で、ポルポトのように反政府活動をおこなう国民の大量殺りくをおこなっている。同じ権威主義的な国家でも、ロシアや中国と距離を置き、欧米の民主路線の国々と交流を志向するところもあるが、今後、権威主義と民主主義の超限的な戦いが繰り広げられる中、その中核的なロシアや中国の次の出方が注目されている。

2020年のコロナパンデミック以降、世界中が精神的に追い詰められた閉塞感と経済状況の中、習近平の中国へも米国の貿易制裁が強化され、経済、金融、情報の様々な超限戦が展開されてきた。それに対抗する中国は、香港を実質的に自分たちの政治体制へ組み入れ、尖閣諸島で領海侵犯を繰り返し、台湾を中国へ併合すると公言している。そうした習近平の独裁体制に対し欧米日の風当たりは厳しくなっている。ついに中国と蜜月の関係を築いてきたドイツですら、ロシアによるウクライナ侵略で目が覚め、民主主義国家として、権威主義へ厳しく対峙する必要性を感じ、日本と連携して中国への反発も強めている。

権威主義国の弱点は独裁者失脚であり正義のヒーローが嘱望されている

話は変わるが、2014年以降、悪の極みとしてロシアマフィアをやっつける勧善懲悪もののハリウッド映画が次々と制作されてきた。例えば、映画イコライザーの主人公である元特殊工作員のロバート・マッコールは、一作目でものすごく冷酷で悪いロシアマフィアと戦い、見事に打ち負かすストーリーとなっている。映画ジョン・ウィックは、主人公自身が元殺し屋で過去に世話になったロシアマフィアのボスを滅ぼす話である。映画Mr.ノーバディの主人公のハッチ・マンセルもロシアマフィアを滅ぼすストーリー展開であった。

とにかく、ロシアマフィアという凶悪な悪党を対極に据え、正義のヒーローが活躍する映画が米国だけでなく欧州や日本で人気を博してきたのである。偶然かも知れないが、プーチンによるロシアのクリミア半島の併合以降、ハリウッドを中心にロシア=マフィアがはびこる悪党国家というイメージを高める悪と正義の戦いの映画が次々と制作されたことになる。もともと欧米では、ロシア出身の人たちに複雑な思いをもつ人が多い。勧善懲悪の映画では、ヒューマンな正義のヒーローのアメリカ人に対し、専制的な悪の化身として、悪いことをするロシア人を描き、それを滅ぼす話の展開が多かった。

見方を変えると、飛躍し過ぎかもしれないが、民主主義国家の脅威となる権威主義国家への戦いは、こうした娯楽映画の世界でも展開されてきたのではないだろうか。権威主義国家の最大の弱点は、独裁的に支配する政治リーダーの失脚である。つまり、勧善懲悪の映画に重ね合わせるようにわれわれの潜在意識の中にプーチンや習近平は悪い独裁者というイメージが形づくられ、悪者をやっつける正義のヒーローの登場を待ち望む気持ちが芽生えてきたのではないかと思えるのである。

そして機が熟するように、コロナパンデミックやウクライナ侵略という深刻な問題が起こり、実際に習近平による上海のゼロコロナ対策は残酷であり、プーチンのロシア軍によるウクライナでの戦争犯罪的な行為も許されるものではなく、悪のイメージ通りとなっている。そしていつの間にか、凶悪なプーチンのロシア軍をやっつける正義のヒーローがウクライナ軍になっているのである。正義のウクライナ軍には、多くの可哀そうなウクライナ住民を救出して欲しいと願う気持ちが強くなっている。その思いが欧米や国連を動かし、グテーレス国連事務総長が和平のため、自らロシアとウクライナを訪問、話し合うことになったのである。大方の日本人がウクライナを熱烈に応援する理由もそこにある。

つまり、プーチンのロシア軍が勝とうが負けようが、欧米や日本は正義のヒーローのウクライナに対する熱い思いもあり、プーチンのロシアを許さないのであり、プーチンの失脚が無い限り、金融、経済の制裁が解除されることはないであろう。現在進行している第三次世界大戦は、武力戦はウクライナのみで、経済制裁などの超限戦が中心となっているが、第一次や第二次の世界大戦と異なり、勧善懲悪の善と悪のイメージが明確となった民主主義の脅威となる権威主義、独裁専制主義との戦いとなっているのである。

北方四島を不法占拠するロシア軍の動きも気になるが、すでに悪のイメージがすっかり定着したプーチンの軍隊が常軌を逸して、ウクライナのようにある日突然、北海道を侵略するため、北海道の民家へミサイルを撃ち込まないとも限らない。そうしたまさかの事態が起こらないように相手を強く牽制するため、北海道内やオホーツク海沖で日米による大規模な軍事演習も必要となってきているのではないだろうか。

今後、プーチンと双璧をなす習近平がこうした勧善懲悪の世界の流れを見誤り、まさかの台湾進攻を画策すれば、人民解放軍が悪の化身となり、中国が世界中から強烈なバッシングを受けることは間違いない。その時の次の正義のヒーローは台湾となるであろう。今後、欧米や日本により台湾を国家承認し国連加盟を促す具体的な動きもでてくるとみている。国家承認後は、憲法9条の改憲と同時に日台米の軍事同盟が締結される可能性も高くなるのではないだろうか。日本や台湾を守るためには、核シェアリングは必要不可欠なものとなっている。すでに憲法9条の改憲や核シェアリングを真面目に議論、推進できる首相でないと国民の信任が得られにくくなってきている。こうした防衛力の強化もなく、日本が次の正義のヒーローとなって、武力行使をして戦うことだけは避けたいものである。

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