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参院選は投票率6割だと自民敗退で政局の秋となる

令和4年6月20日

社会資本研究所

南 洋史郎

参院選の過去の分析で6月支持率と7月選挙結果は必ずしも一致しない

相関分析や回帰分析など複数の変数の互いの関係から、未来を予測する統計手法がある。
特に参院選の与野党の獲得議席数の予測分析では、選挙直前の6月の首相や政権政党の支持率と7月の選挙結果に相関関係があると言われてきた。そこで、新聞や週刊誌、ネットメディアは、岸田首相と自民党の高い支持率から、参院選の自民、公明を加えた与党の140議席以上の圧勝を予測している。6月22日公示、7月10日(日)投票で6月23日から本格的な参院選へ突入するが、自民と公明の与党が過半数を軽く超える勝利予測は、既定路線になりかけている。

ところが、実際のシンクタンク的な予測分析では、多変量解析や社会心理予測、シナリオ予測など様々な研究員独自の予測手法を駆使、考案し、分析をおこなうことが多い。過去15年間、第21回から第25回の参院選を分析するとその時々の政治背景や首相の言動、マスコミの情報の伝え方などで、政権や政党の支持率と異なり、選挙結果が大きく変動している。特に選挙直前のマスコミ報道の影響が大きく、6月に支持率が高くても、何かの要因で急に支持率が低下、7月の選挙で敗北する事例もでている。

別表1に第21回から第26回の参院選の分析結果と予測、別表2に第26回の参院選が投票率6割と仮定した場合の予測議席数をとりまとめた。2013年7月の第23回参院選や2016年7月の第24回参院選は、安倍首相や自民党の6月支持率が高く、議席数を大きく伸ばし、相関関係があったと思われる。しかし、2010年7月の第22回参院選や2019年7月の第25回参院選は、6月支持率と7月選挙結果に相関関係があるとは言えない状況となっている。その原因を分析しながら、今度の第26回の参院選を分析したところ、自民党がかなり苦戦する予測となった。こうした分析から、参院選における6月支持率と7月選挙結果は必ずしも一致しないという結論になる。

参院選の予測のためには各党の岩盤支持層の票数変化を考える必要あり

過去15年間の選挙結果を分析すると自民党が確保している有権者数は、選挙区、比例区、各々2000万人の岩盤支持層の票を基準にその増減の変化を考え、選挙区と比例区を足した4千万票を基準に総投票数における得票数の相対比率で考えるとわかりやすい。過去の参院選では、自民は4千万票から650万票マイナス、得票比率29%で歴史的な大敗を記している。逆に基準4千万票からプラス110万から270万、得票比率38%で議席数を大きく伸ばしている。つまり、自民党が政権与党の第一党として、過半数を大きく超える議席数を維持するためには、投票率が50%以上、55%以下の場合、得票数4千万票以上、得票比率38%前後の確保を目指せば良いということになる。

逆に投票率6割、投票者数6千万人以上だと、自民の岩盤支持票の2千万人の比率は33%へ相対的に低下、投票率5割、投票者数5千万人だと比率は40%へ高まり、自民党にとって、自民を支持しないアンチ有権者が投票所へ出向き、投票者数が多くなった場合、参院選で大敗し、逆にアンチ有権者が少なく、誰に入れても一緒と有権者が投票意欲を無くして投票所へ行かず、投票数が少なくなった場合、大勝する傾向となっている。

また、選挙結果に壊滅的なダメージを与える要素として「増税」、「年金問題」、「不祥事」、「経済対策」、「コロナ対策を含む安全保障」の5要素があげられる。自民党が参院選で歴史的な大敗を記録した第21回の選挙は、年金問題と頻発した閣僚不祥事のダブル要素が大きく影響した。驚くべきことは、増税の選挙破壊力である。特に消費税増税を選挙前に云々することは、ご法度であり、自殺行為となっている。「経済対策」は、安倍政権の時代は、消費税の増税があっても、アベノミクスによる経済的な好調さが評価され、参院選の大きな争点にならなかった。「安全保障」は過去の参院選で争点にならなかったが、ウクライナへの侵略戦争で、国民が一気に覚醒し、今や最優先の課題となっている。

過去の増税の破壊力の大きさを知ることになった選挙が、2010年7月の第22回の民主党政権時代の参院選であった。菅直人首相が参院選直前の6月17日の選挙の公約会見で「今年度内に消費税のあるべき税率や改革案をまとめ、超党派で自民党の10%案を参考にする」と発言した後、テレビや新聞などのマスコミが騒ぎ出し、その影響で6月から7月のNHK調査の支持率が61%から39%へ▲22%減少、不支持率が23%から45%へ+22%増加している。ちょうど支持率が2割まで落ち込んだ鳩山政権の政権交代後であり、消費税がいかに選挙に悪影響を与えるかが理解できる。

2019年7月の第25回の参院選も、同年10月の消費税10%引き上げの影響を受け、投票率は5割と低く、内閣支持率も政党支持率も比較的高いにもかかわらず、比例区の得票数が、230万も基準からマイナスとなって、8議席も議席数を落としている。選挙区の得票数が2千万票の基準に達していたので、自民党の岩盤支持層が、各選挙区での選択肢が無く、仕方なく自民へ投票せざるを得なかったが、比例区になると俗に言われる「お灸票」として、自民以外へ投票したと分析している。

岸田政権の自民党が評価される部分と評価されない部分が拮抗している

今年2月に、参院選は岸田政権の致命的な弱点、人気急減ファクターの解決が難しいという読みから自民完敗を予測、ネット上で安倍首相の後継として人気が高い高市総裁の誕生、第102代の首相就任を予想した。その分析の背景に、2007年7月の参院選における自民の歴史的な大敗の過去が大きく影響している。15年前の当時、自民は議席数を27減らし、公明も3減らして、改選前の76から46へ大幅減となり、与党103議席で過半数を大きく割り込んだ。投票率は高く59%弱で、自民の得票率は3割、選挙区1860万、比例区1654万の計3514万の得票数、29%の得票比率となっていた。

当時は第一次安倍政権であり、消えた年金問題と閣僚不祥事に対するマスコミの強烈なバッシングの影響を受け、直近6月のNHKの支持率調査では、自民支持が3割、政権支持4割、不支持5割と不支持が1割も上回っていた。ところが、岸田政権は、2月以降に起こったウクライナ問題とコロナへの意識の変化という神風的な環境変化で、自民支持が4割、政権支持5割以上、不支持2割で支持が3割も超えている。

2月の予測以降、4か月が経過し、その間にロシアのウクライナ侵略という大変化が起こり、G7と歩調を合わせた岸田政権の迅速な対応が高く評価され、それが政権へのプラス評価に寄与することになった。また、ウクライナの侵略戦争は、日本人の意識も大きく変えた。コロナウイルスに神経過敏になりすぎた生活意識を反省し、180度切り替えたのである。まさか、21世紀になり、前世紀のようなロシア軍によるウクライナへの軍事侵略と民間人への虐殺行為をテレビで見るとは、ほとんどの人が想定すらしていなかったであろう。そんな恐怖に比べたら、コロナは騒ぎすぎで、日常生活を早く取り戻そうという社会的な気運、空気となり、日本人が覚醒し始めたとみている。

このウクライナの侵略戦争とコロナに対する国民の覚醒した意識の変化が、岸田政権や自民の支持率に好意的に作用し、選挙前の数字として、大勝が予測できる高いレベルで推移している。ある意味、岸田首相は強運の持ち主かも知れない。ただ、果たして、その支持率の通りに参院選の選挙結果が好調に推移するかと言えば、疑問視せざるを得ないところもでている。

2月の予測では、参院選の投票行動に大きく影響する要因として、4つを上げている。第一要因は「コロナ対策の遅れ」、第二要因は「稚拙な不況対策」、第三要因は「積極財政への不安と増税等の緊縮財政の懸念」、第四要因は「弱腰外交への怒りと国防への不安」という短期間ではなかなか克服が難しい要因ばかりで、このままでは、選挙前に支持率が急落し、参院選では自民が完敗すると予測したのである。

ところが、第一要因のコロナ対策と第四要因の弱腰外交への怒りは、ウクライナへのロシアの侵略により、岸田首相のG7と歩調を合わせたウクライナ支援への迅速な決断が評価された。国民のコロナ対策に対する意識も以前のような神経質なものでなくなった。テレビなどのマスコミも、その微妙な変化を感じとり、ウクライナ侵略の報道が中心で、コロナ報道を控えるようになった。結果的にこれらの人気急減ファクターをあまり気にしなくても良いような状況となっている。

ただ、第二要因のインフレ対策と第三要因の増税不安の2要因への懸念は払しょくできておらず、むしろ、財務省トップ官僚の前代未聞の不祥事を契機に増税派が牛耳る岸田政権を信認できないと感じる一部の保守層が、急に危機感を感じ、自民以外の政党へ投票する可能性もでているのである。ロシア軍の「Z」への対応で評価を受けた岸田首相が、財務省の「Z」の不祥事で、足元をすくわれるかも知れないという何とも皮肉な結果となっているのである。

また、選挙直前で同じ派閥議員によるパパ活の騒動も自民にとって手痛い不祥事となっている。さらに円安によるインフレ、物価対策も、国民の多くが不満に感じており、NHK調査では、参院選でもっとも重視するテーマとして、4割が経済対策を上げており、その次が安全保障となっている。今度の自民党の参院選では「増税懸念」、「不祥事」、「経済対策」への不安を払しょくでき、「安全保障」の強化が評価される政策をアピールする選挙活動が必要となるであろう。

投票率6割以上だと自民のアンチ投票者が増え過半数割れの可能性あり

シンクタンクの悪い予測は、そのような結果にならないように事前の対策を講じるための警告であり、良い予測は、逆にその内容に慢心し努力を怠れば、逆の結果を招くかも知れないという警告となる。ある意味で、おみくじの吉凶の警告とよく似ている。予測に一喜一憂するのではなく、そこに書かれている悪い予測は、それが実際に起こらないように事前の万全の対策を講じ、良い予測は、何か落とし穴がないか注意するためのものとなっている。従って、一般的に優秀な政治家や経営者は、耳の痛い悪い予測を事前に教えてもらい、そうならないような有効な対策を打てたと言って感謝する。

そうした観点から、別表2に投票率が6割、すなわち自民へのアンチ投票者が5%、5百万票増えたと仮定、さらに自民の岩盤支持層2千万のうち170万票が別の政党へお灸票を投じた場合の改選議員の予測数を算出してみた。今回の予測では、野党が、その票の受け皿になるというより、逆に野党間で互いの票の奪い合いが起こると想定している。
予測の前提条件として、自民の岩盤支持層の新たな受け皿となる新興政党である参政党に着目、この政党が今度の参院選の台風の目になるとみている。

参政党を自民党の岩盤支持層の新たな受け皿として想定した理由は、従来の選挙の常識を覆す国民運動が大きなうねりとして起こっているとみているためである。実際、わずか数か月間で、ネットでいろいろな演説動画が拡散され、重複もあるかも知れないが、累計で1千万を超えるアクセス数となっている。ネット動画の影響で、党員も急速に増加しており、短期間で党員が6万人へと急増している。112万人の党員を誇る自民党にはかなわないが、この政党が今後も大きく増殖していく可能性は高い。

マスコミの参院選の大方の予想は、自民圧勝、野党苦戦という厳しいものとなっているが、今まで泡まつ政党として歯牙にもかけられなかった新興の政党が、今の自民党政権に不満を持つ岩盤支持層の新たな受け皿となると仮定した場合、別表2のような想定外の選挙結果になる可能性は十分にあると考えている。

自民党が参院選で過半数割れを起こした場合9月は政局の秋となる

参院選で大方のマスコミの予想に反し、自民党に過半数割れの大波乱が起こった時、維新や国民民主という与党に参画する可能性がある政党との交渉が活発化する可能性がでてくる。当然ながら、選挙後に政党間での様々な駆け引きが予想されるが、岸田首相の退陣を主張する声が高まり、自民党の生き残りをかけ、9月に急遽、総裁選が開催され、政局の秋を迎える可能性が高いとみている。

通常、自民の党則第80条1項で総裁選の任期は3年と規定され、2021年9月に選任された岸田政権の信任を問う次の総裁選は2024年9月となる。ところが、党則第6条4項に、総裁の任期中に自民の国会議員と都道府県支部代表各一名の過半数の要求があった時、総裁の選挙を行う事が出来ると規定されている。つまり、参院選で自民が大敗、過半数割れとなれば、就任後、わずか1年で岸田政権の継続を是としない厳しい意見が自民党内で巻き起こる可能性がでてくるのである。

その時の最有力候補は、安倍元首相の懐刀として人気が高い高市政調会長となるが、維新が与党へ参画する場合、菅元首相の新しい集まりの中から、何人かの有力候補の名前もあがってくる可能性はあるとみている。

果たして従来の常識を覆して、新たな新興の政党が頭角を現すか、あるいは自民党がそれでも過半数以上の議席数を確保できるかという視点から今回の参院選をみてみると参院選の行方も結構、波乱に満ちたものになるような気がしている。

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