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多重防衛と先制防御攻撃でミサイル防衛を見直せ

令和2年6月22日

社会資本研究所

南 洋史郎

核ミサイル防衛計画の抜本的な見直しが今こそ必要な時期

6月15日(月)、防衛省の記者会見で河野防衛大臣は、山口県と秋田県で計画中のミサイル防衛設備イージス・アショアの配備準備工程の停止を公表した。弾道ミサイルを迎撃する最新ミサイルのSM-3ブロック2Aのブースター落下の制御が難しく、改修コストや期間が大きくかさむのが理由となっている。SM-3ブロック2Aは1発当たり約40億円と一般的な迎撃ミサイルの数十倍と高額のため、それも理由の一つになったかも知れない。

イージス・アショアは米国のトランプ大統領との会談で貿易赤字解消のために導入が決まった経緯があり、過去の防衛大臣の面子丸つぶれで簡単に停止できるものではない。それでも停止したのは、自民党の中でも過激なコストカッターとして有名な河野大臣ならではの金計算が働いたのであろう。なにしろ飽和攻撃でミサイルの在庫が無くなれば無用の長物となる代物である。高額なSM-3ブロック2Aを国産化できれば良いが認可はまだであり、有事に何百発という核を含むミサイル攻撃を仕掛けられたら防御は困難である。

米国はハドソン研究所等一部のシンクタンクで憂慮する発言はあったが、米国政府のヘルビー国防次官補代行(インド太平洋安全保障担当)は18日(日本時間19日)、日本のイージス・アショアの配備計画停止に関して、緊密な連携維持の協議を続けると述べただけで、それ以外、何も反対する意見を言っていない。事前の根回しが良かったのだろう。

イージス・アショアは、本来数十キロメートル以上の高高度から落下する核弾頭ミサイルから日本を守るために導入が決められた経緯があり、広島、長崎の悲劇を二度と繰り返さないために配備されるものである。本来、核攻撃の有事とブースター落下の危険性とを同じ土俵で議論するものではない。

それが、あるべき防衛の姿からかけ離れ、海上自衛隊ではなく、陸上自衛隊が管轄、投資運営予算も次々と膨らみ、米国でも迎撃実績がなく、ここ数年にルーマニアやポーランドで低予算(1千億円以下)の配備実績があるだけの未知の迎撃システムを国内に配備するという話である。そのような実績がない未知の迎撃システムで、本当に日本を核攻撃から守ることができるのかという疑念は以前よりあったという噂である。

また、イージスのミサイル防衛に精通した海上自衛隊が関与せず、米国のミサイル防衛庁が推進しているレイセオン社のSPY-6のレーダー網と互換性のないロッキードマーチン社のレーダー網を使うため、有事に米海軍や海上自衛隊との連携がとれないという問題指摘もあったようである。すでに米国へのシステム発注は済んでおり、軍事的な思惑で、自分達のミサイル防衛と異なる独自のシステムを日本側へ発注をすすめた可能性がある。日米が異なるミサイル防衛システムを構築できることは、将来、日米同盟に一切頼らず、自立を目指すためには、逆に良かったのではないかと考える。

また、レーダーについては、新たな米国製を使わなくても、すでに航空自衛隊は全国に大湊(青森)、佐渡(新潟)、下甑島(しもこしきじま)(鹿児島)、与座岳(糸満市、沖縄)の4か所に防空用の固定式警戒管制レーダー装置J/FPS-5(通称;ガメラレーダー、三菱電機製)を配備している。

航空自衛隊は、米軍や海上自衛隊のイージス艦とも連動した統合システムを既に構築しているといわれている。イージス・アショアを設置するなら、ガメラレーダー網を活用でき、ブースター落下場所を安全な海上にできる島基地の佐渡(新潟)、下甑島(しもこしきじま)(鹿児島)にまず設置する案が有力であろう。

ガメラレーダー4基で日本全体をカバーする弾道ミサイル追尾のレーダー網を完備しており、イージス・アショアがそのレーダー網と連携して迎撃する方が効率的である。
もし米国とシステム開発をするなら、ガメラレーダーや陸上自衛隊の国産ミサイルと連動できる独自の新たなイージス・アショアのシステムを構築すればコスパも良くなるだろう。

過疎の島なら、自衛隊が来ることで、むしろ島の安全性を高めることができるので、地元住民は歓迎するであろう。軋轢も少なく、既存の防衛通信レーダー網を活用できるので安上がりである。コスパに優れた核ミサイル防衛設備を開発できるだろう。仮に陸上自衛隊が引き続き管轄しても、航空自衛隊や海上自衛隊の協力は不可欠であり、密接連携できるので、陸海空の全体最適の核ミサイル防衛システムが短期間で開発、構築できると考える。

陸上自衛隊は、射程距離150km以上、飛翔速度1150km(音速マッハ1に近い)の最先端の国産の88式(改良型12式)地対艦ミサイルシステムを保有している。中国対策で島嶼防衛への配備を進める中で、イージス・アショアと航続距離を大きくした88式を連携、配備できれば、奄美大島から沖縄諸島、尖閣諸島までも視野に入れたミサイル要塞基地を構築できると思う。

島のミサイル要塞基地は、海からの工作員侵入による破壊活動が危惧される。一般にゲリラ的な破壊工作活動は、陸上の方が難しく、警察などにより捕まる確率も高い。内陸そのものが防衛ラインになるとみられている。一方、島は周囲が海に囲まれ、海から侵入して海から逃げられるので、ゲリラ的な破壊活動の対象になりやすい。そこで、陸上自衛隊によるゲリラ侵入防止のための新たな島嶼(とうしょ)防衛体制を構築できれば、そうした島での破壊活動にも強い新たな対策モデルをつくることができる。

例えば、島の周囲をドローンできめ細かく監視する体制や島の至る所に監視カメラを設置して、不審者の動きを察知する体制、警察と連携して島に上陸する観光客に不審者がいたら住民が警察へ早めに通報する体制など、普段から日常における防衛意識を高める自治活動を促進することが大事である。また、島の周囲に無人小型潜水艇を開発、数隻を配備して、海上、水中を監視する必要もでてくる。

こうした核迎撃ミサイル基地がある島の破壊工作を防ぐ防衛体制は、陸上自衛隊ならいろいろ工夫して構築するであろう。航空自衛隊や海上自衛隊だと監視範囲が島に近いドローンや小型潜水艇を軽視するかもしれない。陸上自衛隊なら陸上戦の延長でまじめに取り組むので、島嶼防衛をきめ細かくフォローできると考える。

イージス・アショアの開発では、最初は数千億円以上の費用がかかるかも知れないが、3基目以降は1基あたり数百億円以下の手軽な核ミサイル防衛設備として、日本の周囲の島々や海岸線に順次配備することで核ミサイルや核搭載爆撃機、核搭載潜水艦への近中距離での多重、多層攻撃にも対応する多重防衛が可能になると考える。

さらに設備設置後は、当然ながら、何度もミサイル迎撃実験や模擬練習がおこなわれる。迎撃実証データが拡充できるので、こうした実績を積み上げ、防衛装備庁から英国やカナダなどの拡大G7の国へレーダーとセットで核ミサイル迎撃システムとして売り込むことも可能となる。

以上の考察から、今回の河野大臣のイージス・アショア設備の開発工程停止は、まさに時期を得た優れた英断であり、NSC(国家安全保障会議)で抜本的な核ミサイル防衛計画を見直すべきベストタイミングであったと思う。一部に核ミサイル防衛の住民反対を問題視する意見があるが、日本人は知的水準が高いので、ネット情報から変だな、おかしいなと感じ、さらに士気が高いはずの陸上自衛隊員の説明会で、説明内容がコロコロ変わり、居眠りをする無気力な隊員もいる中、直感的に無理があると感じたのであろう。その直感は当たっており、もともと秋田や山口の陸上に配備することにはかなりの無理があったと思う。

ミサイルから無人飛行体防衛へ防衛範囲を広げる必要がある

中国の人工的な開発が疑われる武漢ウイルスの研究所からの漏洩疑惑と深刻なパンデミック感染問題、中国海警による尖閣諸島の領海侵犯、北朝鮮の連絡事務所のビル爆破など近隣諸国で心配な問題が多発している。日本人が体験できた一番の教訓は、生物兵器かどうかは断定できない新型のウイルスであっても、相手国へ深刻な経済的ダメージを与えることが可能であり、軍事戦争と同等、あるいはそれ以上の実害を与えることも可能である。

同様のことが、国籍不明の無人の軍事用ドローン、無人の小型飛行機、無人の風船爆弾といった貧者の兵器でも、国内の広範囲な海岸線などの攻撃で甚大な被害を与えることができるのである。例えば、日本の漁船に扮した国籍不明の小型軍事船が 東京湾から数10キロのところに突然現れ、数十機の小型爆弾を搭載した軍事用ドローンが、京浜工業地帯の複数の工場をめがけ攻撃するようなテロ攻撃も考えられる時代になったのだ。

実際、昨年8月にサウジアラビアの石油施設を爆弾搭載の10機の軍事用ドローン機が 数百キロ以上飛行して施設を攻撃、甚大な被害を与えた。軍事用ドローン機はイラン製だが、イエメンの反政府勢力の仕業といわれている。結局、どこが攻撃したものかもいまだに正確にはわかっていない。 そうした貧者の無人飛行体への対策のため、有効な迎撃システムとして、防衛装備庁電子装備研究所が開発、技術的な目途がついている高出力マイクロ波ビーム照射防衛装置(マイクロ防衛)の実用化が急がれている。まだ近距離であるが、小型のドローンをマイクロ波照射で墜落でき、今後、どのような方法で迎撃装置として開発するかが課題になっている。

レールガン(電磁砲)や高出力レーザー砲などの新しい技術へも挑戦中であるが、実用化にはまだ時間が必要である。これらは、戦い方を根底から変えるゲームチェンジャーと言われているが、世界的に見て日米が突出した技術的な優位性を保っている分野である。

米国海軍がすでにレベル2のミサイルを誘爆できるレーザー電子砲、XN-1 LaWSを巡洋艦などに標準装備を始めているが、日本は技術的には高度なレベルにあるが、それをミサイル迎撃などに使えるレベルでの小型化などが課題になっている。いずれにせよ、軍事衝突より、平時の無人飛行体による貧者の兵器をつかったテロ対策が重要であり、その対策となる迎撃防衛装置の開発も急がれている。

ミサイル飽和攻撃への効果的対抗策は敵基地攻撃への戦略転換

2018年3月にロシアで開発したといわれる新兵器アバンガルドは、マッハ20以上の極超音速ミサイルといわれ、従来のミサイル防衛を無力化するものであり、2019年夏以降に、1000km以上の射程距離でマッハ10以上の速度で目標に到達する極超音速ミサイルのキンジャル(KH-47M2)も公表された。ただ、すでに実戦配備していると言われていたが、いまだに配備された形跡もなく、まだ開発途上ではないかと見られている。

極超音速ミサイルは軌道を変えられるため、従来のミサイルシステムでは迎撃不可能といわれている。日米とも実際の性能は確認できておらず、どこまで信ぴょう性があるかは読めないが、常に最悪の事態を想定して防衛を考える必要があり、今後の対策を練る必要があるが、実際の飛翔実験でのデモンストレーションがない限り、本当のところはわからず、謎に包まれたままの未確認の技術である。

一方、中国も負けず劣らず、2019年10月1日の建国70周年のパレードの先頭に極超音速ミサイルと称する東風17(DF-17)をお披露目し、日本のイージス・アショアでは迎撃できない新型ミサイルの開発、配備を誇示していた。パレードの最後に、米国が脅威に感じる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の東風41(DF-41)を誇示、日米同盟の牽制をおこなっている。この弾道ミサイルは、中国から30分以内にアメリカ本土に到達、10個の格納されている弾頭が分離するので、迎撃が不可能と言われている。

また、最近、中国はレールガンも開発し、駆逐艦などに標準装備を始めたと言っている。
専門家が写真をみたら、とてもレールガンとは思えない機関砲のようなスタイルなので、これも恐らくブラフ、ハッタリと思われるが、日米の先進の軍事技術に相当に神経をとがらせ、効果的な対抗手段を考えている様子がうかがえる。

極超音速などの技術そのものは難易度が高く、未完成なものであり、どこまで真剣に取り合うかは防衛とは別の問題と思うが、一方で、現実的な脅威として、中国は人民解放軍の組織編成でロケット軍という専門部隊を組織化、核ミサイルを数百発、巡航ミサイルを数千発保有、いつでも日本を狙える状態にあると公言している。つまり、これが事実とすると今の日本のミサイル防衛能力では、飽和攻撃に対して、迎撃だけであれば、非常に脆弱な状態にあるといえる。

中国は原子力潜水艦も保有しており、米国のオハイオ級原子力潜水艦のように1隻で百発以上の核ミサイルを積んで、中国の沖合を常時監視する能力はないと思われるが、数発程度の核ミサイルなら積載している可能性は十分にあり、尖閣諸島や南沙諸島の人工島での武力衝突で戦局が不利になったら、使用する可能性は十分にある。

そこで、今後のミサイル防衛の基本は、領海、領空の侵略が明確となり、強引に尖閣上陸を決行するなどの侵犯行為が確定した段階で、それを攻撃行為とみなし、相手がミサイルを発射する、しないにかかわらず、そうした脅威となる軍事基地や戦闘機、軍艦、潜水艦などの継続攻撃の脅威とみなされるものは、全て専守防衛のための先制攻撃の対象にすべきであると考える。

すなわち、侵略脅威を取り除くためのすべての武力的な対抗策を専守防衛の範疇に入れ、その脅威を取り除くための相手への攻撃破壊も防衛の対象にするという考え方へ大転換をはかるべきなのではないか。すなわち、守る一方の防衛から、攻撃防御の防衛へ切り替える戦略転換がないと日本国内の安全を守れないという認識へ切り替える必要があると思う。

例えば、侵略行為が確認され、武力衝突が起こった初期の段階で、核ミサイルを搭載している可能性のある潜水艦や核ミサイル発射基地と思われるところへ先制攻撃で破壊することも専守防衛の範疇には入るという考え方である。

すなわち、従来の専守防衛の敵基地攻撃の範囲を事前に明確にして、近隣諸国へ外交ルートを通じて、予め日本の専守防衛のスタンス、考え方を説明することから始める必要があるだろう。特に、核兵器保有国に対しては、いかなる場合も広島、長崎の悲劇を二度と繰り返さないため、ミサイル実験やロケット発射実験であっても、事前の断りもなく、日本の領海や領空を違法に犯す飛翔体については、これを侵略行為と認定し、撃墜するだけでなく、悪質な場合は、その発射基地も巡航ミサイルなどで破壊する対象にすると警告すべきなのではないだろうか。

ミサイル飽和攻撃に脆弱な日本を守るために、そのもととなる発射基地を先に攻撃し粉砕する方針へ切り替えた時、イージス・アショアは、単なるミサイルを迎撃するだけの受け身な防衛施設ではなくなる。日本国内を核攻撃から守るためにガメラレーダーで領空、領海侵犯が確認されたあらゆる飛翔体に対して、それを発射した国に対し事前警告を行った上で、発射基地を先制攻撃するアクティブな防衛基地に変身するのである。

こうした、専守防衛の戦略的な大転換があってはじめて日本を守れるのであり、自衛隊は過去から今まで、国民の生命と財産を守る立派な大事な国防軍の役割を担ってきたのであり、憲法9条の改正は早急に取り組むべき最優先の政策懸案事項となるだろう。

                          
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