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中国による台湾への侵攻計画は喫緊に実行されるだろうか

令和4年11月1日

社会資本研究所

南 洋史郎

令和4年末改定予定の「国家安全保障戦略」への台湾言及に反発する中国国防相

「国家安全保障戦略」(National Security Strategy of Japan)は、2013年12月に安倍政権が発足後に初めて策定された日本を守る安全保障の基本方針である。 2014年にはその基本方針に基づいて国家安全保障会議(National Security Council、通称「NSC」)とそれを運営する国家安全保障局が内閣官房に常設された。 四大臣会合と九大臣会合、緊急事態大臣会合の3つの会合があり、内閣総理大臣、官房長官、外相、防衛相で組成される四大臣会合が国家安全保障に関する外交防衛政策の司令塔役を果たしている。

つまり、外国勢力から領空、領海を侵犯されるなど有事の際に自衛隊へ出動命令を下す判断をおこなうのがNSCである。 その基本となる日本を守る憲法のような存在が国家安全保障戦略、略して国家安保戦略となる。 岸田首相は、昨年10月にその国家安保戦略を含め、防衛計画大綱、中期防衛力整備計画(中期防)を加えたいわゆる安保関連3文書を見直す方針を公表、その後、今年2月にロシアによるウクライナ侵攻もあり、反撃能力やGDP比2%を超える防衛予算など日本の大幅な防衛力強化を目指して、国家安保戦略を改定するため、様々な有識者を交えた会議を20回程度おこなってきた。

機密性が高い内容もあるため、会議の議論の詳細は公表されず、簡単な議事録程度の内容が伝えられている。 それらの議論も踏まえ、今年12月末までに新たに改定された国家安保戦略が公表される見通しとなっている。 ところが10月27日に中国国防相が会見で、驚いたことに日本の国家安保戦略に台湾が言及されることに触れ、命令口調で「内政干渉であり、台湾問題に手を出してはいけない」とコメントをおこなったのである。

まだ、政権内で審議中の日本の安全保障の戦略方針に中国国防相がその内容に口を出して介入することは、日本への内政干渉であり、普通の国際常識では起こりえないことである。 中国では第20期中央委員会が終わり、10月23日より習近平主席の3期目の政権がスタートしたばかりである。 わずか4日後に中国国防相から異例の申し入れを受けており、とても気になる威嚇的な話となっている。

「国家安全保障戦略」改定の機密会議の情報漏洩と弱腰の岸田政権への国民不安

                

非公開ながら、異例の中国国防相の介入発言は、会議が中国の人民解放軍へ筒抜けであった可能性がある。 会議参加者から逐次情報が漏洩されたのではないかという疑念が生じても仕方ない。 もし漏洩があれば国益を損なう問題であり、過去20回の会議参加者へのヒアリングや会議場所の盗聴の有無などを調査する必要があるだろう。

中国国防相の発言の問題点は、日本は別に中国の自治区でもなければ、属国でもないのに中国の国防省が命令口調で日本の安全保障のあり方に口出しをしたことにある。 中国の国防相による明らかな恫喝であり、もし日本が言うことを聞かなければ、武力的な衝突も覚悟しろと脅かしていることになる。 このような恫喝に日本政府は黙って反論しなければ、弱腰とみなされる。 安全保障の意識が強い政権であれば、外務大臣、あるいは防衛大臣から、間髪入れず反論すべきであった。

例えば「日本の国益にとり安全保障上の重要な地域も含め、国家安保戦略を見直し中であり、この戦略に関する他国の意見は受け入れられない」と台湾海峡という言葉を敢えて言わず、他国の干渉を受けない日本の立場を鮮明にすべきであったと考える。 日本にとって台湾海峡は、輸入物資の海上輸送のシーレーンを守る最重要な安保上のエリアであり、中国の人民解放軍に恫喝されるものではない。 しかし、岸田政権では外務大臣も防衛大臣もだれもこの恫喝に対し何も言わずに無言を通している。 すでにネットの識者の間では、弱腰、優柔不断な政権という評判が広まっており、その印象がさらに強まることが懸念される。

台湾海峡の台湾離島の中国侵略は日米同盟の防衛対象であり必ず紛争に発展する

  

台湾海峡について、2021年4月16日のバイデン大統領と菅前首相との日米首脳共同声明に「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに両岸問題の平和的解決を促す」という文言を明示している。 すなわち、台湾海峡で中国との紛争が発生した時、日米同盟の範囲内でその紛争を解決することを確約したことになる。 中近東やオーストラリアなどから石油や石炭、鉄鉱石、穀物、食肉など大量の輸入物資を積載したタンカーが、台湾海峡を通過し日本へ輸送されており、台湾海峡の安全は、日本が死守しなければいけない国益そのものとなっているのである。

現在、台湾海峡をはさんで、台湾より中国大陸のすぐ近くに隣接する金門島と馬祖島(ばそとう)という島々があり、金門島は中国大陸の厦門(アモイ)から2km程度の近い場所にあり、馬祖島も福建省福州市の近接した場所に位置している。 ともに台湾領土の位置づけであり、そのお陰で今まで日本の輸送船も台湾海峡を安全に航行することができたのである。ところが、万一にも中国が両島に侵攻し、それらの島々を中国領にすれば、台湾海峡が中国共産党の支配する領海となり、いつ何時、日本の輸送船が拿捕され、輸送を止めるかわからない状況に陥るのである。 つまり、台湾海峡にある台湾のどの島々であっても人民解放軍が部分的に制圧すれば、日本の最重要の輸入ルートで中国の好き勝手に検閲や差し止めなどの敵対的な行為の可能性がでているのである。 これは、事実上、中国共産党が日本の生命線であるエネルギーや食糧の調達ルートを掌握することを意味する。

中華民国、地域名としての台湾は、台湾本島とその周辺諸島から構成され、その周辺諸島には、澎湖(ほうこ)諸島や東沙(とうさ)諸島、南沙諸島、金門島と馬祖列島の金馬地区がある。 澎湖諸島は台湾の西方約50キロの台湾海峡の真ん中にある大小90の島からなり、そのうち71が無人島となっている。 東沙諸島は、香港の南東340キロ沖合の南シナ海にあり、東沙島という島と北衛灘、南衛灘などの環礁群より構成され、台湾海峡の南側の中間に位置する。 唯一の島である東沙島には、台湾の軍隊や海洋研究者など百名ほどが常駐している。 南沙諸島の太平島は中華民国の実効支配下にあり、軍用空港も存在する。

中国、中華人民共和国と中華民国との間で1949年10月に金門島をめぐる戦いがおこなわれ、日本の根本元中将の活躍により、金門島を死守でき台湾独立を守った経緯がある。
また、古くは1895年の日清戦争で日本軍が澎湖諸島を占領、その後50年間台湾は日本の一部として統治されてきた歴史があり、その親日の土地柄に魅了され、戦後75年以上が経過しても、政治など様々な面で日本と台湾との深い人的、経済的な交流は続いている。
米国と台湾との交流も深く、ウクライナとは異なり、バイデン大統領は何度も中国から攻撃を受けた時は台湾を守ると明言している。
以上の経緯から判断すると仮に台湾本島でなく、台湾周辺の無人島を含む中華民国が実効支配する島々への中国の侵攻であっても、その時点で中国と日米との間で必ず紛争へ発展するとみられている。 それは必ずしも武力衝突を意味しない。 経済戦争や金融戦争の紛争も含んだ広範囲の紛争であり、一番可能性の高い紛争は、日米だけでなく、欧州も含んだ中国に対する金融制裁としてのSWIFTからの排除であると考えられている。 すでに中国はウクライナ侵攻のロシアに対する金融制裁のような経済制裁を想定して、中華民国が実効支配する無人島を含む周辺諸島へ侵攻する場合は、それなりの経済制裁を覚悟した事前準備を十分に行うであろうと考えられている。

習近平政権の中国による台湾の武力侵攻に備え着々と準備が進む日米の防衛体制

                   

軍事は素人だが、専門家のネット情報では、日米の意表をつき、早ければ今年12月の米国のクリスマス休暇や日本の年末年始に台湾の中でも、中国が併合しやすい無人島などの周辺の中華民国が実効支配する島々へ軍事侵攻するかも知れないという憶測が強まっている。 当然ながら米国は探査衛星などで事前に無人島などの離島への上陸準備をする中国の人民解放軍の揚陸艦などの集結情報を収集するので、ロシアのウクライナ侵攻前のようにリアルタイムで侵攻に関する詳しい情報を公表すると予測しているが、もし迎え撃つことになれば、自衛隊にもかなりの緊張感が高まるとみている。

米国による中国をけん制する具体的な動きも強まっている。 10月17日にブリンケン米国務長官は中国が現状を認めず、かなり早く台湾統一を決断していると公表、10月19日にマイク・ギルデイ米海軍作戦部長が、台湾有事が2022年、あるいは2023年に起こる可能性があるという個人的見解を述べている。 10月28日に米空軍が沖縄の嘉手納基地に常駐するF15戦闘機54機を11月1日から向こう2年間で新鋭機に切り替えず、退役させると発表、事実上、米空軍の主力部隊の沖縄撤退を決めている。

11月8日には米国の中間選挙がおこなわれる。 現時点では、下院は共和党が優勢、上院も共和党が過半数を占める可能性が高いという予想となっている。 もし上院も下院も共和党が主導権を握れば、バイデン政権のレームダック化が鮮明となり、共和党の意向を強く反映した政策を推進せざるを得なくなる。 共和党は、民主党より中国に対して強硬であり、台湾防衛に関しても対決姿勢がさらに強まると見られている。 11月15、16日のインドネシアのバリ島で開催されるG20の集まりにバイデン大統領が参加する予定だが、習近平主席も参加するかどうかは未定のままである。 もし米中首脳会談が開かれれば、台湾問題の武力的な衝突を回避する交渉がおこなわれるが、互いの主張が従来通り平行線をたどる可能性が強く、実りのある交渉結果は期待しにくい。

一方、台湾で今年8月の中国の人民解放軍による過激な軍事演習を経験してから、台湾グローバルビューズ誌の調査によると市民の6割、企業の4割が戦争勃発を不安視しており、国防への意識が急速に高まり、米軍支援だけでなく、日本の自衛隊支援にも期待する声が高まっている。 台湾有事には、沖縄の米軍基地の武器弾薬の輸送や台湾の軍艦、戦闘機の給油や整備、衛星通信スターリンクの送受信設備の準備なども期待されているという話も聞く。 要するに日本の自衛隊も米軍と一緒に台湾軍とともに戦ってもらえることが期待されているのである。 今や中国による台湾進攻は、同時に日本侵攻も意味していることは、地政学的な位置づけを考えると常識的な見方となっている。

台湾有事になると必ず与那国島などの日本の島々も戦域に入り、日本のエネルギー食糧の安全保障の生命線である台湾海峡の安全航行の国益も守らざるを得ず、中国の台湾進攻時には「存立危機事態」として集団的自衛権の発動に踏み切らざるを得ない状況となっている。 すでに米軍同様に自衛隊でも台湾有事に備える準備が進んでいる。 政府は米軍との一体性を強化するため、陸海空の3自衛隊の部隊運用を一元化する「統合司令部」と作戦指揮する「統合司令官」を新設することを決めた。 米国からトマホークを大量購入し、中国のミサイル攻撃への反撃能力を高める準備も始めている。 

要は台湾有事が早ければ年内に起こる可能性があるという危機感のもとで着々と有事の応戦準備が進められている。 「最悪に備えて最善を尽くせ(Prepared for the Worst, Playing for the Best)」という格言があるが、まさに安全保障の有事対応では「備えあれば憂いなし」で最悪に備えて、日米双方の政府、軍関係者にて有事対応の体制強化が進められている。

岸田首相とバイデン大統領が弱腰とわかれば早くて今年12月侵攻の可能性あり

3期目の習近平主席による中国共産党の政治は独裁色が強まり、首相やその他の政治幹部も習近平主席の政治決断に従うだけの傀儡政権になると見られている。 今後の日中、あるいは米中の関係において、岸田首相やバイデン大統領が、習近平主席に対して弱腰で優柔不断な軟弱な政治家とみなされたら、その時は、これがチャンスとばかり、台湾進攻の時期を早め、意表を突いた奇襲作戦も実行する可能性が濃厚となっている。

古今東西、独裁的な為政者は、相手の武器の戦力や戦闘能力より、相手国の為政者が優柔不断で弱ければ、戦争を仕掛けることが多かったと言えるのではないだろうか。 例えば、ヒットラーはポーランド侵攻前に英国のチェンバレン首相との約束を反故にし、フランスのポール・レノー内閣も倒して欧州侵略をおこなった。 ロシアのプーチンは米国のバイデン大統領が関与しないと明言し、ウクライナのゼレンスキー大統領も最初は弱々しい相手と思えて、勝てるという余裕の気持ちで2月に侵略を決行したのではないかと分析している。

現在、岸田首相は、旧統一教会問題で翻弄され、側近の一人の山際大臣を更迭し、支持率も急落して、その迷走ぶりが際立っている。 バイデン大統領も米国の中間選挙が終われば、レームダック化の可能性が高くなる。 こうした日米の政治家の混迷ぶりを観察しながら、中国の習近平主席が、弱々しい日米トップの関与を気にせず、台湾へ思い切って攻める可能性は十分にあると考えられる。 日米の政治トップの現状から分析すると中国共産党が台湾を進攻するリスクは高くなっており、武力衝突も起こる確率が高いとみている。

こうした武力衝突の戦争リスクを低減するためには、トップを含む思い切った人選による戦時対応の内閣の組成が必要不可欠となる。 年末から来年にかけて、どこまで中国による台湾への武力侵攻のリスクを低減できるかは、相手に手ごわいと思わせる首相や官房長官、防衛大臣、外務大臣の四役が必要となる。 今の自民党にそうした大所高所の視点から適材適所の人材を選定し配備する能力があるかと考えた時、有能な政治家は大勢いても、政局にまで発展させ、内閣改造までおこなう実力のある政治家がいるかどうかは疑問に思っている。 後は実際に台湾有事にならないことを祈るばかりである。

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