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明るい日本の未来は日銀の力強い金融緩和の継続で達成できる

2023年2月8日

社会資本研究所

南 洋史郎

令和臨調の日銀の金融緩和に反対する緊急提言には違和感があり、理解しがたい

1月30日に令和臨調の第2部会「財政・社会保障」共同座長の平野元銀行頭取と翁(おきな)研究所理事長により異例の緊急提言がおこなわれた。アベノミクスの日銀の金融緩和を見直し、金利を上げ、国債市場の正常化、すなわち、日銀による国債の買い取りをやめ、財政規律を高め、生産性向上から賃金上昇、物価上昇となる2%の長期の物価目標を目指すべきという提言である。生産性を向上させるためにデジタルトランスフォーメーションや人への投資が必要であり、民間企業が政府に頼らず、もっと積極的に投資をすべきという主張もあった。日銀の黒田総裁の手腕を高く評価してきた立場からすれば、違和感のある理解しがたい内容の主張であった。

要は、2013年1月の安倍政権と日銀総裁による共同声明の「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について」を否定し、新たな『共同声明』の作成・公表が必要というのが緊急提言の骨子なのである。現在、予算審議中の国会への影響も狙った提言であるともいえる。丁度10年前の2013年1月に日銀は白川総裁であったが、翌2月末に黒田総裁が決まり、共同声明をもとに異次元の金融緩和がおこなわれ、アベノミクスがスタートした。今度は、総裁候補の一人の翁座長がアベノミクスの金融緩和、低金利政策の見直しを主張することで、存在感をアピールする狙いもあるのではという憶測もでている。アベノミクスの金融路線を転換すべきかどうかについては、市場関係者を中心として反対論が根強く、逆に急激な金融不況、景気後退をまねくのではないかという厳しい意見もある。

ところで、令和臨調とは、日本生産性本部が主催した経済界・労働界・学識者等の有志で組織する令和国民会議の通名であり、昨年6月に発足、今年3月末を目途に「統治構造」「財政・社会保障」「国土構想」の各部会で第一次提言をとりまとめる予定である。過去、幾度となく提言がおこなわれ、政策へ多大な影響を及ぼした「臨調」の名称を冠(かんむり)に据えている。   もともと臨調とは、総理大臣の行政改革のための諮問機関の審議会の臨時行政調査会の略称であった。池田内閣で一次臨調が始まり、1981年から1983年の中曽根内閣の二次臨調は有名であり、通称、土光臨調といわれ、経団連の土光会長の辣腕(らつわん)のもと「増税なき財政再建」を目指して、国鉄や電電公社、専売公社の民営化や総合管理庁の設置などが提言され、JR,日本電信電話,日本たばこ産業や総務省が生まれることになった。当時、土光会長は85歳の高齢であったが、意気軒昂で矍鑠(かくしゃく)とされており、NHKのテレビ番組でめざしをかじりながら朝食をとる質素な飾らない姿に国民の多くが共鳴した。今回は政府主導でなく、有志の集まりであるが、歴史ある格調高き「臨調」の名前をつけ、影響力のある諮問機関として、3月末に政府の政策に強い影響力をもつことを狙っているのであろう。

日銀の黒田総裁の金融緩和による経済成長や雇用報酬増への効果を検証する

令和臨調という名称は、政府の審議会という誤解を与えるので、令和国民会議、通称、令和会議の名称で呼ぶとすれば、過去の統計分析から、今回の令和会議の緊急提言の内容が正しいかどうかについて検証してみた。丁度、研究所長が取りまとめ中の「バランスシート循環経済理論」の中に過去10年以上のGDPとマネーストック、マネタリーベースなどの統計数字の比較分析があったので、そこから数字を拝借し、日銀の異次元の金融緩和と言われるマネタリーベースの増加が日本経済の成長や雇用報酬の増加にどのような効果があったかについても分析する。

まず図表1に示す通り、2013年3月に就任された日銀の黒田総裁による大規模な異次元の金融緩和による国内総生産GDP(Gross Domestic Product)と国内純生産NDP(Net Domestic Product)の伸び率を比較してみた。日銀の金融緩和の効果分析には、日銀の新たな資金のマネタリーベース(MB)が、金融機関全体の資金量、つまりマネーストック(MS)の増加にどこまで貢献するかをみる必要がある。日銀のマネタリーベースは、ハイパワードマネー(High-Powered Money)、増強通貨とも呼ばれ、日銀の通貨増は金融機関の通貨増に確実につながる。この増加の度合を測る指標として「日銀資金増強乗数(High-powered Money Multiplier of BOJ)」があり、マネタリーベースの増加分をマネーストックの増加分で割る△MB/△MSの式で算出する。この資金増強乗数が大きいほど日銀による金融緩和の効果が大きいことを意味する。2013年から2017年の5年間で黒田総裁により資金増強乗数は1.6から2.7になり、2017年に1.1になったが、それまで2前後で推移している。

日銀の資金増強乗数の効果は絶大であり、それまでGDPは500兆円で伸び悩んでいたが、2013年から力強く国内総生産のGDPが2%から3%の成長を始めた。建物や設備などの減価償却に相当する固定資本摩耗を差し引いた国内純生産のNDPも同様に成長している。GDPやNDPの拡大効果は大きく、家計の消費市場は2014年4月に導入された消費税8%の影響で5年間、290兆円を少し超える程度で伸び悩む中、GDPやNDPだけが拡大、成長したということは、企業が生産力の増強や設備の合理化、効率化などへ前向きな投資を先行させ、金融機関から積極的に低金利の資金を調達してきたことを意味している。つまり、日銀の異次元の金融緩和と揶揄された国債の買い取りによる資金増強乗数の2倍以上の増加が、金融機関の前向きな融資姿勢を促し、その結果、消費税が引き上がり、家計の消費支出が伸び悩んでも、投資が経済の成長をけん引する役割を演じてきたと言える。その結果、企業の新規雇用への需要が大きく伸び、雇用者報酬も毎年1%から2%へ順調に伸びてきたのである。 

安倍首相によるアベノミクスの財政と金融の融合政策により、日銀の黒田総裁が辣腕を振るった異次元の金融緩和による2倍以上の日銀資金増強乗数の拡大が、GDPや雇用報酬の増加につながったことが、図表1の統計数字より立証されたことになる。令和会議の緊急提言で主張されている生産性の向上による賃金上昇は、アベノミクスの日銀の金融緩和で既に実現、立証されていることになる。むしろ、令和会議が主張している日銀の金融緩和をやめ、金利を上げることは、日銀の資金増強乗数を低減させ、経済が急速に冷え込み、雇用報酬が大きく減少する可能性が高くなる政策で、すでに2009年から2012年の4年間の統計数字で立証されている。

日銀の金融緩和前の経済状況はGDPが伸び悩み、雇用報酬が減り、停滞していた

日銀の金融緩和前の日本経済の状況は、図表2でも明らかなように日銀主導でマネタリーベースをほとんど増やさず、日銀資金増強乗数も0.5以下でマネーストックが伸び悩み、その結果、消費税は5%で据え置かれたままであったが、国内総生産のGDPは伸びず、むしろ国内純生産のNDPとともにマイナス成長が続いた。雇用者報酬も伸び悩み、デフレの影響もあり、マイナス基調となっている。日本経済の成長が止まったまま、どうしようもない悲惨な状況であった。
マネタリーベースは、4年間で100兆円台から140兆円弱へと32兆円しか伸びておらず、 マネーストックM3も4年間で1050兆円台から1140兆円弱と83兆円の伸びにとどまっている。国内産出額が900兆円から1千兆円、GDPが500兆円、国家予算が100兆円の規模の経済大国でこの資金の増加量の少なさは、日銀だけでなく、金融機関全体の金融機能が正常に機能していなかったことを意味する。2008年のリーマンショックや2011年の東日本大震災を経験して、民間の金融機関に積極的な金融支援が期待されてきたが、総じて企業側は借入に消極的で生産性の向上などの前向きな投資にも慎重であったといえる。日銀の資金増強乗数も低いままで、これでは経済成長は望めず、先行きも暗くならざるを得ない。

日銀の金融緩和の資金増強乗数の減少とコロナ感染による増強乗数の増加の影響

日銀による大胆な金融緩和が始まって以来5年が経過した日本経済の状況は、図表3からわかるように2018年と2019年はマネタリーベースがあまり増えず、日銀の資金増強乗数も1以下でマネーストックが伸び悩み、その結果、国内総生産も停滞、さらに2019年10月に実施された消費税10%の増税も家計消費を直撃した。追い打ちをかけるように2020年のコロナ感染でGDPや雇用報酬も大きく落ち込み、マイナスとなっている。2020年、2021年と金融緩和を進め、資金増強乗数を引き上げることで、GDPが再び回復に向かっており、今年度以降も資金増強乗数を高め、ピークの557兆円を超え、さらに600兆円を超えるGDPの成長、雇用報酬の増加を見込む展開となっている。

アベノミクスの日銀金融緩和手法は日本における恒久的なマクロ経済モデルとなる

今までの日銀の金融緩和によるGDP、NDP、雇用報酬の増加効果に関する10年間の統計分析により、日本は物価上昇の圧力は少なかったが、今後は1%~2%程度の健全なインフレといわれる物価の自然上昇は期待でき、さらに日銀の金融緩和による資金増強乗数を高めることが、経済成長や賃金の引き上げに非常に有効で必要な要件であることもわかってきた。 日本は、資金に余裕がある中で事業投資リスクを事前に計算し、最悪を想定したリスク回避策まで考えないと大きな投資に踏み切れない慎重なメンタリティの人が多い国である。米国のようにアニマルスピリットをもって資金リスクをいとわないチャレンジャー的な精神を持った人は少なく、そのため投資機会の開拓や拡大は米国のようにはうまくいかなかった。

日本では、投資を促進させようとすると家計や法人の各セクターに先行的にある程度の資金余裕の中で投資のための助成金や補助金、支援金は欠かせず、投資機会を増やすために金融機関の融資と同時に政府の財政支援、そのための政府による国債発行による資金調達に頼らざるを得ない事情があったといえる。事業側も金融側も投資リスクに過度に慎重で憶病な思考、行動パターンをとらざるをえない人が多いとも言える。1990年代のバブル崩壊の後遺症が2000年以降も長期に続き、政府側も合理化の推進や事業仕分けの予算カットなど経済成長のための信用創造と真逆のお金がお金を奪って資金循環の資金量を少なくする信用収縮を経験して、それがデフレを深刻化させたことが、長期の経済低迷の原因であったと分析している。

例えば、一度破産をして債権を焦げ付かせた場合、日本政策金融公庫や信用保証協会など政府系の金融機関では、ケースによっては半永久的に影のブラックリストに載せて、いかなる場合も融資を控える内部の決まり事があり、そのために融資機会が永遠に奪われる企業も今でも存在する。そのような金融排除を経験するといかなる経営者も事業意欲を失うことになる。また、信用金庫など民間の金融機関でも、ミドルリスクの零細、中小企業への融資に慎重になるのは理解できるが、信用保証協会による2%~4%の融資機会を失うと15%近い金利の愛がありそうでなさそうな消費者金融などのハイリスク対応の金融機関しか融資の機会が残されていない。年利5~8%の資金調達が気軽にできるミドルリスク対応の融資機会は皆無と言っても良い状態で、さらに調査機関やマスコミからゾンビ企業は潰せとか、銀行の融資担当者からこれ以上の融資は一切駄目といった冷たい対応を受ける経営者の気苦労は相当なものである。

このような落ち目の経営者の経験談はごく少数かも知れないが、こうした話は経営者の間でアッという間に拡散するので、だれも恐ろしくて金融機関から借り入れを大きく増やし投資を拡大する気持ちは起こりにくく、リスクをとって事業をすると言ったマインドすら減退するのは当然と言える。こうした背景事情もあって、預貸率の急速な低減に拍車がかかっており、東京商工リサーチの調べでは、2021年9月中間期の国内106銀行(都銀と地銀)の預貸率は過去最低の約62%で、貸出金571兆円、預金は922兆円弱で預貸ギャップは350兆円にも達する。大手行の預貸率は53%だが、すでに収益モデルを預金の運用を貸し出しから様々なポートフォリオ運用へシフトしているので、預貸率の低下は織り込み済みと言える。信用金庫の預貸率は50%で預金は180兆円、貸し出しは90兆円となっている。

以上のような厳しい事業環境も要因となって、日銀が主導的にマネタリーベースを増強させ、その結果として金融機関のマネーストックを増やし、その後で金融機関に新たな融資や投資を促す日銀主導による資金増強乗数の拡大による経済成長モデルはアベノミクス独自のものであることがわかる。ハイパワードマネーの増強機能を中央銀行が主導するやり方、すなわち中央銀行自身が、お金がお金を生む信用創造機能の役割を担うことは、従来はインフレを促すので限界があるという見方があった。ところが、過去10年間、アベノミクスにおける金融緩和を通じて、日本銀行自らが公開市場操作を通じて500兆円を超える国債保有をおこなっても何ら問題がないことを立証済みであり、この残高が仮に2倍、3倍になっても、その資金が日本国内で循環して、投資や消費の拡大に寄与して、経済成長に貢献する限りにおいて、アベノミクスの日銀の資金増強乗数による金融緩和が、マクロ経済における新たな経済成長を促す有力な経済モデルになることがわかってきた。つまり、アベノミクスの日銀の金融緩和手法は、一時的なものではなく、日本のような国ではマクロ経済モデルとして、恒久的に有効な金融手法になっており、次期総裁が誰になろうとも、黒田総裁からその手法を詳しく引き継ぎ、それを踏襲すれば、今後も国内総生産を毎年数%の割合で成長させ、雇用者報酬を引き上げることも可能と考えられるのである。

令和会議の緊急提言で、日本銀行による過度の国債保有は、中央銀行として信頼性の面で不安になるというコメントがあったが、もともとマネーストックの拡大を金融機関だけに任せても、金融機関も同様に事業投資リスクに対して、慎重な姿勢なので、新規の投資案件が金融機関を通じて新たな資金需要を生み、さらにそれが新たな投資を生む信用創造の拡大、発展が期待しにくい国が日本であるといえる。財政の金融依存や、経済の新陳代謝の遅れなども指摘されているが、日銀の金融緩和の過去の統計分析からは、むしろ日銀の国債保有による金融緩和は、何ら問題のない信頼できるものであり、国内の金融事情に対するコメントも金融実態を反映されたものとは感じられず、意味不明な内容となっているのは残念である。日銀の国債の買取りについては、今後も政府と日銀が密接に連携して、引き続き財政と金融の融合的な政策となっていくであろう。日銀の国債買取りによる金融緩和や国債の60年償還ルールの撤廃による借り換えの継続など新たな財政政策や金融政策を推進しながら、日銀の資金増強乗数を高める金融緩和を進められるかどうかが、今後の日本の経済成長の鍵となる。なお、中央銀行による公開市場操作を通じた国債保有は、珍しいものではなく、通常の金融オペレーションの一つであり、その保有額の多さが問題になって実際に信用不安になったケースは一度もないのでこの点は付言しておきたい。

日銀の総裁人事を間違えず、金融緩和を力強く継続すれば、日本の未来は明るい

2月末になれば黒田総裁から新総裁へ変わるが、従来の黒田総裁の路線を踏襲できるかどうかで日本経済の未来が明るいか、そうでないかも決まってくる。少なくとも、金利をあまり引き上げず、金融緩和を続け、日銀主導で資金増強乗数を高められる金融政策を推進できる人が総裁になれば、日本の未来は明るく、希望に満ちた世界が広がるであろう。2月に日銀総裁の人事が決まり、4月より新しい日銀総裁のもと、日本経済のさらなる飛躍、発展が期待されている。

どこかの小説のタイトルのようで恐縮だが、人事では憑神(つきがみ)に注意せよとよくいわれる。いくら優れた経歴や実績をもち、人柄も良く、申し分のない人でも、悲しいかな、ご本人が知らないうちに貧乏神や疫病神まで一緒に連れてくることもあるようだ。

すでに日本の国は、コロナという疫病神を経験し、ウクライナ戦争を契機にエネルギー危機による光熱費の高騰などの貧乏神も居座っている。アベノミクスで日本経済の救世主となった福の神の黒田総裁の路線をしっかりと引き継ぎ、新しい福の神の日銀総裁が、金融緩和を力強く継続して頂けることを祈りたい。そうなれば、日本の未来は明るく、希望に満ちた経済成長を再び歩むことができると信じている。

岸田首相が、アベノミクスの黒田総裁路線に反する日銀総裁を意図的に選ばれ、その新総裁が、金融引締めや国債の買取り制限、金利引き上げなど鬼のような金融政策を次々と推進される場合、それでも日本経済はなんとか、持ちこたえて、恐慌にまではならず、生き延びて欲しいと願っているが、かなり厳しい経済状態になる可能性は高いと予測している。万一にも日本経済が再起不能なレベルにまで落ち込んだ場合、疫病神や貧乏神でなく、最後となる最悪の神だけは来ないで欲しいと心から願っている。

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