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若い日本人のためにも国産ジェットの夢にもう一度挑戦して欲しい

2023年2月13日

社会資本研究所

南 洋史郎

MSJ撤退は米国FAAの証明に想定外の時間と費用がかかったことが原因

2月7日、三菱重工業は子会社の三菱航空機が製造販売する計画のあった国産初の旅客ジェット機「三菱スペースジェット(MSJ)」の開発を中止して、事業からの完全撤退を公表した。当初、三菱リージョナルジェット(MRJ)と呼ばれ2008年に華々しく開発がスタートした。早くから営業活動を始め、一時は千人以上の従業員と4百機(推定価格1機あたり40億円超え)以上、2兆円弱の受注を獲得、国産初のプロペラ旅客機YS-11(日本航空機製造)の後継の機種として、今ごろ日本だけでなく、米国など諸外国の空を飛行できるはずであった。   ところがコストアップによる採算悪化や試験飛行中のエアコン故障などのトラブルによる米国の型式証明の遅れで、6度も認可をあきらめ、納入時期がずれ込み、発注先の航空会社の信用を失い、キャンセルが相次ぎ、極め付きは2020年春のコロナの影響による旅客需要の急減と航空会社の経営悪化で、将来の見通しが立たなくなり、一旦開発が凍結され、3年後についに復活をあきらめ、旅客機製造の事業から撤退を決めざるを得なかったのである。

ただ、三菱重工側が一方的にMSJ開発を中止したと言われるが、本当の理由は、米国連邦航空局(FAA)と日本の国土交通省航空局(JCAB)による耐空証明、その設計、製造の型式証明の取得にあまりにも想定外に多くの時間と労力、費用がかかったからではないかと推察している。航空機メーカーは、新型機の販売のために耐空証明、設計製造のために型式証明が必要になる。ただ、FAAの耐空証明や型式証明には、建築基準や耐震基準のような安全な飛行、耐空性能について特定の限界数値を超える、超えないと言った仕様書レベルの客観的な数値や満足させるべき模範事例が存在せず、漠然とした法令規則の表現だけが存在し、それをどう解釈し判断するかは審査員の見解次第となっている。その結果、航空機メーカーの類似の旅客航空機の過去の飛行実績への信頼度が重視され、前例主義に基づき、審査官の個人的な経験則や見識、航空機の飛行試験における改善即応力などで評価が決まると言われている。それゆえ、設計作業に24ヶ月、審査期間が18ヶ月、飛行試験に20ヶ月と耐空証明、型式証明の取得に最低でも6年以上はかかる計算になるが、ボーイングのような経験豊富なメーカーでさえ、新型機の証明には苦労する中、過去に旅客ジェット機のフライト実績が皆無の前例主義に該当しない三菱航空機が、審査過程で様々な難題を乗り越える苦労があったことは容易に察しがつく。

さらにFAAの担当審査官が審査の際に安全設計をどのように解釈するのか、審査官の個人的な見解に頼るため、当然ながら、熾烈な寡占競合で生き残りを模索するリージョナルジェット機の分野で先行して、全日空や日本航空へも数十機の納入実績のあるブラジルのエンブラエルのような航空機メーカーからすれば、手ごわい新規参入メーカーとの競合を意識して、自社開発の最新の安全技術をFAAへ提案することが大事な競争対策となる。どんな審査官も仮にそれが過剰品質かも知れないと思っても、人命にかかわることだけに少しでも安全とわかる技術があらわれれば、その技術も必要という審査判断となり、型式証明を取得する基準がさらに難しくなるのである。競合するメーカーにとって、審査官による型式証明の合格基準のゴールポストを動かすことは、手ごわい競合メーカーの新規参入を遅らせる有効な手段となる。こうして安全性を聖域として同業メーカーからFAAへ新技術の働きかけがおこなわれ、それがMSJの審査へ大きな影響を与えたかも知れないと推察している。

米国では、「三菱」というブランドは、ゼロ戦を開発したすごい会社という知名度や信頼度が高い反面、そのブランドの強さゆえに米国人から偏見と警戒心をもたれやすい。例えば、ボーイングは、航空機の価格が200人から300人乗りのB787などの中型機の数分の一しかない一機あたり40億円前後の100人以下のリージョナル機の分野に関心は無いが、なぜか三菱重工と組まず、競合するエンブラエルと提携してフルライン戦略を進めている。
三菱重工の経営陣が、審査プロセスでの想定を超えるトラブルの多さを謙虚に反省する真摯な姿勢も大事だと思うが、厳しい競争環境の中で、それ以外の競合からくる敗因も冷静に分析する必要もあるのではないだろうか。すでに三菱航空機を清算する計画があると聞くが、その前にもう一度、冷静に過去の敗因を振り返り、最後の最後まであきらめず、起死回生の復活の可能性を探り続ける粘り強い真摯な姿勢も経営には必要な気がしている。

日本政府はMSJの撤退後も旅客航空機の新産業を育成する気があるのだろうか

一般に経験のない新しい航空機産業の育成のためには、少なくとも10数年、数兆円規模の新産業を育成する継続的な投資を覚悟する必要があるといわれる。天下の三菱重工といえども、MSJの開発は旅客ジェット機という新産業を育成する国の意気込みや強力なバックアップの支援体制がなければ成功しない。つまり、本来、一企業だけの努力だけでは、事業化が相当に難しいのである。資金力のバックアップで言えば、新産業の開発投資のためには1兆円以上の資金が最低必要ではないかとみている。それを一民間企業へ任せたらどうなるか、ウイキペディアで公表されている三菱航空機の財務諸表をみれば、その血の滲むような苦労の後がうかがわれる。2020年3月時点で、純資産はマイナス4600億円強となり、すでに巨額の債務超過を決算で計上して、親会社にとって相当な財政上の負担となっている。

三菱重工は、耐空・型式証明の審査のためか、未経験の旅客ジェット機の実績経験を得るためか、4年前の2019年6月にカナダ航空機大手のボンバルディアからカナディア・リージョナル・ジェット(CRJ)の事業を5.5億ドル(7百億円前後)で購入している。私見だが、CRJが保有するリージョナルジェットの旅客機の耐空・型式証明が、MRJの審査の信用実績につながるかもしれないという思いも、経営陣の決断の背後にあったのではないかと推察している。その厳しい経営判断を知れば、実績のない旅客航空機の事業の立ち上げが一企業にとっていかに大変なことであるかを身に染みて理解でき、それでも三菱重工は、MRJの新事業開発に文句も言わず、じっと耐えてよく頑張ったと思う。さすが超一流企業である。

経済産業省も、三菱重工の経営や技術へ余計な介入をせず、カネは出せどもクチは出さない配慮はされてきたと思うが、もっと国交省と連携して、日本で耐空・型式証明を先行的に取得するための支援をすべきではなかったかと感じている。それは日本製の飛行機という理由で依怙贔屓(えこひいき)をしてもらって、いい加減な審査で耐空・型式の証明書を発行してもらうためではない。国土交通省航空局は、全日空や日本航空に対して、過去、ボーイングやエンブラエルの搭乗座席数が100から200の旅客機に耐空・型式証明の認証を供与してきた。その時の審査判断の根拠となった基準と今回のMSJの審査基準との相違点を慎重に比較しながら、日本での公正な審査基準を整理して、MSJが日本で先行して認可を得るための手続きが何故できなかったのか、もしできていれば、米国のFAAでの審査、認可がもっと早まっていたのではないかと考えるのである。こんなことを言えば、業界の裏事情を知らない素人意見は困る、すでに世界の航空機の許認可は、米国連邦航空局のFAAが牛耳っており、国交省航空局は実質その結果を追認するだけの機関にすぎず、日本が先行して審査、認可できないのに何を言っているのだとお叱りの反論がくるかも知れない。

ただ、それではいつまで経っても、日本が米国から独立して、自立した独自の航空機産業を育成することは難しい。これから空飛ぶ車の時代もやってくる。今回のMSJの開発案件は、単に一企業の話というより、むしろ日本がどこまで独立国として、米国と良好な関係を保ちながら、米国連邦航空局FAAも参考にできる日本独自の法規制の審査基準をつくれるかが課題となっているのである。その課題を克服するために、国交省航空局は、米国の耐空・型式証明の安全に関する曖昧な法律規制の考え方を見直し、主翼や尾翼などの機体強度の数値化や自動操縦など高度にシステム化されたコックピット内の安全操作手順やマニュアル操舵方法について具体例を記述、さらに過去の事故や失敗を調査、研究した結果、どのような対策要件をクリアすれば、航空機の耐空性能が証明され、安全性が担保されたと認めるのか、その考え方を法規制の中にきめ細かく明示することではないかと考えるのである。さらにこうした国交省航空局の審査体制の抜本的な改革のためには、国交大臣や首相のリーダーシップが欠かせない。首相自らが音頭をとり、MSJ再興の可能性を模索する政治主導による産業政策への関与も必要ではないかとみている。

MSJ撤退後も、日本国がその事業をあきらめず、引き続き、旅客航空機の新産業を本気になって育成する気があれば、必ずその新産業を興せると信じている。自民公明の連立政権が、旅客航空機の新産業の育成なんて、名古屋の産業人も日本人も誰も必要としていない、真っ平ごめんと言い切れるならあきらめざるを得ないが、むしろ、実情はその逆ではないだろうか。三菱航空機の撤退の話に意気消沈する日本人が意外に多いのではないかと感じている。それは三菱重工という一企業の思いをはるかに超え、日本人としての尊厳、プライドと後世の子孫のためになにか希望のある新産業を残してあげたいという日本人の思いに応える大事なプロジェクトになるような気がしている。これからの若い日本人のためにも国産ジェットの夢にもう一度挑戦して欲しいという強い願いをもっている。    それでは、どうすれば信頼ができる日の丸の旅客ジェット機をもう一度開発し直して、日本の空を縦横無尽に飛行させることができるのか、その具体的な方策について、日本での耐空・型式証明取得のための対策、航空産業のビジョンの明確化、資金集めの三つの観点から私見に近いが提案してみたい。

         

国交省航空局で耐空・型式証明をとり、全日空や日本航空に初の一号機を納入する

すでに三菱航空機は、3年前の2020年10月に三菱スペースジェットの量産を凍結して以降、事業を閉じる具体的な段取りを始めていたと考えられる。もしも、米国のFAAから耐空・型式証明を取得できる見込みがあったなら、量産にまでこぎつけた新型機を断念する決断は極めて異例である。経営陣は多くを語らないと思うが、過去のFAAの審査官による認可プロセスでは、量産をあきらめさせるほど厳しい改善命令が続いたのではないかと憶測している。

一度撤退を決めた開発案件の復活を考える場合、まず国交省航空局が中心となって、今までの米国のFAAの審査プロセスが妥当で正しいものであったかをもう一度見直し検証するプロセスが必要になるであろう。例えば、過去のFAAの審査プロセスでは、離着回数が多いので、その際の強度を理由に主翼材料の炭素繊維の使用量を減らし、コストアップとなるアルミニウムの使用量を増やす改善命令があった。だが、飛行の安全性を担保できる主翼の強度について、過去の事故事例などからどこまでなら安全で、どこからは安全でないか、その境界基準が必ずしも数値的に明確になっていない気がする。そこで国交省航空局でもう一度、主翼強度の限界基準について、中立的な第三者機関が強度試験をおこない、そのデータも参考にしながら、炭素繊維の主翼への使用量の基準を明確にすべきではないかと考えるのである。

こうして、まず何より国交省航空局が、三菱航空機から米国のFAAとの過去の審査記録を全て入手し、それまでのFAAの改善指導の内容が妥当なものであったかを徹底的に検証し直す作業が必要になるのではないかと考えるのである。もし当時のFAAの審査官に論理的な矛盾があり、バイアスのある変な改善指導が見つかれば、国交省航空局から米国のFAAの担当審査官へその改善指導の理由を問い質(ただ)すことも必要になってくる。このような行政処置は、どんな国でも、行政の長のリーダーシップのもと、自国産業の育成と国益を守るために当然すべきことであるが、歴代の国交大臣は、今まで何をしてきたのであろうかととても疑問に感じている。
さらに国から500億円も出資を受けている以上、三菱航空機の解散を進める前にもう一度、三菱重工の経営陣へ国民の熱い思いをくんでもらって、経産省あたりから撤退判断に至った詳しい経緯を聞いてもらい、どうすればもう一度、再建の道を歩んでもらえるのか、考え直していただき、復活の可能性を探る必要があるのではないかと考える。

こうして経産省と国交省航空局が中心となり、日本で耐空・型式証明を先に承認する目途がつき、その後で米国のFAAでの審査、承認の道筋もみえてくれば、再建の道も明らかにできるようになる。その結果、量産寸前にまでこぎつけたMSJ、三菱スペースジェットの復活が可能となり、国内認可後の最初の一号機を全日空か日本航空へ納入できれば、日本国内に再び明るい希望の光を灯すことができるようになるのである。さらに清算寸前の三菱航空機を再び蘇(よみがえ)らせるために、資金力を投入する前に何より意気消沈した元従業員や現従業員の心にもう一度、燃えるような希望の光を灯すことも大事になってくる。そのためには、自分たちはこれから何のために航空機産業で頑張るのか、そのビジョンをつくりあげることが大事になってくる。さらに財政投融資で新しい資金の調達制度を創設し、1兆円程度の投資ができれば、MSJ、三菱スペースジェットの国産ジェット機が、日本や米国の空を飛び交う日も近いとみている。

国産航空機産業への期待すべきビジョンとは安全快適な飛行機を開発し続けること

        

個人的な経験で言えば、日本に国産の航空機メーカーが必要と感じたのは、1985年8月に起こった日本航空のボーイング747ジャンボ機の123便の御巣鷹山での墜落事故であった。どんなに立派な整備体制があっても、機体に金属疲労があって破損分解すれば、なかなか事故は防げない。もしその航空機が国産であったなら、それでも事故は防げなかったかも知れないが、少なくとも部材に使用している金属疲労、強度を事前に定期チェックする方法を考案し、整備点検で不具合を見つけたら、すぐにメーカーを呼びつけ、部材補修などの対策を講じることができたのではないかと思ったのである。さらに日本の国内メーカーなら、あのような悲惨な事故を一度でも経験したら、乗客救出のために上空で安全にパラシュート脱出できる人命救済のための避難装置を開発したのではないかと考えた。浅はかな願いかも知れないが、日本のメーカーには、不思議と素人発想の発明をするとんでもない技術者が突如あらわれる。日本のメーカーなら人命尊重の画期的な安全な避難装置のある航空機を開発したのではないかと今でも信じ続けている。

また、リージョナルジェットのRJ機は、一昔前に米国の田舎町をスポーク・アンド・ハブの飛行ルートで営業をした経験で言えば、天候不順や乱気流で人生もう駄目かと覚悟を決めた怖い経験を何度もした飛行機であった。ジャンボジェットのような安定感は無く、空が荒れれば、上下数メートルは揺れ、収納棚が横に数十センチ振れることもあり、空を飛んでいるなと実感したものである。国産信仰かも知れないが、MSJが就航したら、少しは安心できる飛行を楽しめるのではないかと期待している。100人乗り以下のRJ機には、航空会社とパイロットの間に、スコープ・クローズ(Scope Clause)という約束事があって、最大機体重量39トン、座席は76席までと決めているが、パイロットや搭乗員、乗客の安全を考えると仕方がないと思う。

日本が航空機産業に参入すべきと思うのは、まさに今述べた航空会社が真剣に乗客第一、パッセンジャー・ファーストを考えるなら、まず身近なところに自国の航空機メーカーが存在して、日々、様々なクレームや意見を聞きながら、飛行機の安全性や快適性へのたゆまない改善、改良を加え続け、最高品質の空の旅を提供できる航空機を日本人ならつくれると思うからである。つまり、MSJができ、第一号機が就航してから、永遠に終わりのない改善、改良を加え続ける開発が始まる。そのためには、日本人の手による航空機の開発が必要不可欠と考えるのである。

また、国内の百か所の地方空港が活性化するためには、国産の安心できるMSJが日本国内を飛び回ることで航空利用における鉄道のようなドア・ツー・ドアでの便利な定期便を拡充する必要がある。日本のほとんどの地方空港は、地方でもさらに不便なところに点在している。これではドア・ツー・ドアで考えると列車移動と時間距離があまり変わらないことになる。そこで将来は、地方都市と地方空港の間の有力な交通機関として、空飛ぶ車の定期運航を導入できれば、自宅から地方空港、地方空港から大都市への移動時間が激減し、地方空港がかなり活性化するのではないかと考えるのである。日本の航空機産業へ期待するビジョンとは、まさに今述べた飛行機の利用者、航空会社、メーカーとが三位一体でより優れた快適で安全な空の旅を実現するために改善を通じてより優れた航空機を開発し続ける関係を構築することなのである。

新しい資金調達の制度とは開発投資の失敗や試行錯誤に寛容な証券を発行すること

次に財政投融資を活用して新しい資金の調達制度を創設する必要があると思うのは、今まで述べたように新産業の創出には、読めない未来に対して、必ず失敗や試行錯誤はつきものであり、一見無駄と勘違いする新産業のプロジェクトの開発にはそもそも莫大な資金がかかるものと最初から腹をくくる必要があるからである。実は計画通りにうまくいかない失敗や試行錯誤の連続の中にこそ、本当に真に価値のある新しい製品サービスやノウハウが生まれる素地、フィールドが形成されていくのである。人は失敗して頭を打って初めて本当のこと、真実を知る動物なのであり、何でも正解だと決めつけるAIとはそこが決定的に違うのである。だから永久にAIが人を超えるシンギュラリティは来ないと言い切れるのである。投資開発とは、最初から失敗に挑み続ける覚悟を決め、そこから何か貴重な教訓を学べる修業の場と割り切れば実に楽しいものである。

ところが今まで何かと言えば、新産業へ投資する場合に財務省の官僚が関与して、事業計画の採算性はどうなのか、ビー・バイ・シー(B/C)の便益(B=ベネフィット)と費用(C=コスト)の比率が1を超えるのかといった厳しい追求をされることが多かったといえる。つまり、日本では、市場予測から割り出される事業計画の投資収益率のROIを算出する金計算や資金回収の話ばかりが先行することが多すぎたのではないかと思うのである。これでは、真面目で優秀な経営者ほど、その金計算の目論見書に縛られ、精神的な余裕を失い、ガツガツと現場へどうなっているのかと一方的に問い詰める経営となり、いつの間にか現場のやる気が失われ、開発が挫折する確率が高くなるのである。

政府から果敢に新しい事業開発に取り組み、必死になって頑張る事業者に対して、その資金はいつ回収できるのか、大事な血税を投入しているのに何をしているのかといった文句は禁止なのである。むしろ、潤沢な資金を十分に用意したから、尻ふきの後始末はすべて政府に任せてもらい、思い切って挑戦して欲しいという言葉かけが必要なのである。そこで、財務官僚には、太っ腹の政府の出先の役割を演じてもらい、財政投融資の仕組みの中で、最初から捨て金と割り切って全額喪失する可能性のある国家プロジェクトのための新しい投資証券、これを社会資本証券と命名して、財務証券の発行、売り込みに活躍してもらうのである。要は貸付金の回収のためなら、融資先への貸し渋りや貸しはがしすら割り切ることができる厳しい日本の金融機関であっても購入してもらう方法を考えるのである。

ハイリスクのままでは、だれも購入しない、かといって元本保証だと財政規律は保てない。そこで例えば、10年と言った投資期間をもうけ、破産で全損の時は、その時点で元本の2割負担で8割返済、清算で少しでも部分回収ができた時は、元本の1割負担で9割返済、事業会社として10年間生き残った時は、元本保証と年利1%の金利を10年後に一括支払い、10年以内に上場などで投資利益を得た場合は、その時点で元本と元本の3割の還元を約束する財務証券を発行するのである。当然、金融機関は、預金者に対し社会資本証券の対象となる開発プロジェクトの中身をわかりやすく説明し、自分たちのマージンを上乗せして、預金者がリスク負担をする社会資本証券を担保にした新しい金融商品を開発するであろう。

このように政府主導で社会資本証券の発行を促進すれば、三菱航空機のような社会的な使命を帯びた開発案件に対し、カネ余り、運用難の日本では、最悪でも8割の元本を国が保証するので1兆円の資金は、金融機関からすぐに集まるのではないかと思う。三菱航空機も1兆円もあれば、破産や清算は考えにくく、事業を早期に軌道に乗せられる確率は高くなり、B/CやROIといった目論見書を気にすることなく、精神的な余裕をもって、新しい国産のジェット機の開発に全力を注入できるのである。また、社会資本証券は、商法上は取締役会での議決権のない優先株式の購入原資となるので、親会社の三菱重工側としても安心して資金を受け入れることができると考えられるのである。

これから、日本では新産業を創出、開発するプロジェクト案件が次々と提案される様相となっている。例えば、開発テーマとして、空飛ぶ自動車や人型ロボット、量子コンピュータ、近海での天然ガスや石油、希少金属などの鉱物資源の海底発掘、大規模な穀物工場など目白押しである。一方、日本国内は貯蓄投資バランス分析から貯蓄と投資のギャップが1千兆円以上の過剰貯蓄、過少投資の状態であることがわかっている。全ての金融機関の預貸ギャップは440兆円もあり、お金自身が遠慮せずにドンドンと使って欲しいと唸(うな)っているような錯覚に陥る恵まれた状態なのである。財務官僚も財政投融資でこうした投資案件を次々と扱えば、いつの間にか増税という変な呪文を忘れ、投資による信用創造で国富を豊かにする世界が本当に素晴らしいことを実感するであろう。そうなれば、今まで増税大魔王と恐れられていた財務官僚が、いつの間にか減税大神王へ大変身、事業会社から歓迎され、庶民から「花咲か爺さん」のような存在として敬愛され、その結果として、日本経済が再び力強く成長できると確信している。

(注)動画では型式証明を音声認識の誤りから「ケイシキショウメイ」と表現されていますが、  正しくは「カタシキショウメイ」と読みますので誤解のなきようにお願いします。

〔お知らせ〕 社会資本研究所では、長年研究を続けてきた「バランスシート循環経済理論」を詳しく解説した小冊子を近々Pdfのデータ形式で研究所の運営費を捻出するために有料で販売をおこなう予定です。販売できるようになれば、ホームページで告知しますので、ご関心のある方は、ご覧いただければ、今回の記事の内容をもっと深くご理解いただけるようになると思います。

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