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中国の国家安全法は財政破綻の回避が背景にある

令和2年7月2日

社会資本研究所

南 洋史郎

武漢コロナで先進国への輸出減は中国の経済破綻につながる

中国が発表する輸出入統計では、コロナの影響で米国や日本、欧州への輸出は減少しているが、アジアやアフリカへの輸出が増加して、貿易収支が逆に増えた数字を公表している。
以前より、中国の貿易統計のうち、国際決済システムが明確な日米欧の先進国、南米、中東向け以外は信頼度が低いという見方がされてきた。つまり、国の力関係で相手国に圧力をかけ、国際通貨を介さず、元決済での取引を強要できる相手国の貿易数字をごまかしているのではないかという疑念があった。

世界貿易の国際決済システム(SWIFT-国際銀行間通信協会)の92%は米国ドル、欧州ユーロ、日本円、英国ポンドの4通貨で構成されている。2018年四半期実績ではドル(Dollar)61.7%、ユーロ(Euro)20.7%、円(Yen)5.2%、ポンド(Pond)4.4%の構成であった。円をEnと表記すれば、頭文字をとるとDEEPとなり、米国中心に金の力、金融力で世界経済を深く、圧倒的な力で支配してきた。

世界秩序を乱すテロや反乱が起これば、米国は躊躇することなく、武力を使わず、この圧倒的な金融力で相手国を抑えつけてきた。米国にとってSWIFTは頼もしい金融戦争における金融核爆弾のような存在であり、この核ボタンを押せば、いかなる多国籍企業、巨大銀行、相手国も破壊できる威力がある。イラン、北朝鮮の今の貧困状況をみれば、この金融核兵器の凄さが理解できると思う。

さて、日本から中国(香港含む)への貿易額だけをみた場合、今年と昨年の1月から5月の5か月間の輸出額、輸入額、貿易収支額の実績を比較すると今年は輸出額が6.9兆円、輸入額が7.1兆円で約2千億円の赤字、昨年は輸出額が7.2兆円、輸入額が7.7兆円で約5千億円の赤字なので、3千億円ほど日本の赤字額が減った勘定になる。コロナ感染の影響もあり、中国と米国や欧州との貿易でも、中国の黒字額は減っているようだ。例えば、米国は昨年上半期の貿易赤字額は1,670億ドル(約18兆円)と2018年と比べ赤字額が10%も減少、今年度はさらに減少すると予測されている。

中国と先進国の間の貿易収支の赤字の縮小、中国の輸出の減少は、結果的に中国の外貨準備高の減少を招き、財政的な資金収支を悪くし、対外債務2兆ドル(215兆円)への返済能力が大きく落ちることを意味する。すなわち、米中貿易戦争からコロナ感染問題と続いた中国の経済停滞の影響は、中国経済にもボディーブローのようにダメージを与え続けてきたのである。

中国の対外純資産と外貨準備高は粉飾の可能性が高い

中国の国内債務は憶測では4~8千兆円あると噂されている。実態は誰もわからず、推測しようもないが、対外債務であれば、中国へ貸し付けている相手の国は大方わかっている。その額はリーマンショック後の2009年の3400億ドル(36兆円)から2018年の2兆ドル(215兆円)まで6倍に膨らんできたことも知られている。現在はさらに債務が膨らんでいるが、なかなか信頼できる数字として把握するのは難しい。

中国の発表によれば、同年の対外純資産は2兆ドル(215兆円)、対外債務が2兆ドルなので対外資産は4兆ドル(430兆円)となり、外貨準備高が3兆ドル(335兆円)あり、そのうち米国債が1.1兆ドル(120兆円)を占めている。対外資産に外国政府への対外貸出も含まれる。その額は6千億ドル(64兆円)で、その内3千億ドル強(36兆円)が先進国、残り3千億ドル弱の28兆円程度が新興国へ高利で貸し出されている。

2012年以前は新興国の融資はほぼ皆無に近く、2013年3月に周主席となり、政権を掌握してから、一帯一路政策が掲げられ、新興国への高利融資が急増、アンゴラやエクアドルの資源国は多額の借金で国家財政がひっ迫し、スリランカは返済できず担保の港湾権利を中国へ差し出した。パキスタンは借金返済ができず、IMFが金融支援をおこなった。戦争もせず資金力で外国利権を手に入れる非道徳的な手法にはあきれるばかりである。

外貨準備高の3兆ドルは以前よりその数字に疑問をもつ人が多く、実際は米国債の1兆ドル強以外は存在しない粉飾と言われてきた。通常、外貨準備高は、対外資産の1/6~ 1/3の範囲内にあることが多い。もしそうなら、中国の場合、多くても計算上は1.3兆ドルで米国債の1.1兆ドルを除くとほとんど外貨準備高が存在しない計算となる。

中国は米国の金融制裁より債務不履行の金融破綻が怖い

中国の通貨、元が値下がりすると対外債務に対するデフォルト、債務不履行のリスクが高くなり、それがさらに元安をまねく悪循環となる。もともと新興国へ3千億ドルも貸し出す余裕もなく、それが取り立ての厳しい高利融資につながったのであろう。要は資金力もないのに新興国へ良い格好をして、派手に融資をしてきたつけが回ってきたのである。

さらに日本などと競り勝って海外プロジェクトで採算度外視の安値受注を繰り返してきたが、韓国同様にそれが外貨不足の大きな原因となっている可能性が高い。資金の流れは正確であり、国が民間企業の海外における赤字受注に加担してファイナンスを続ければ、それがまわりまわって自国の外貨不足につながっていくのである。

ドルやユーロ、円、ポンドの国際通貨DEEPであれば、信用力と流通力で外貨不足は起こらない。中国人民銀行は2015年、人民元の国際銀行間決済システム(CIPS)を導入して、日欧米の大手金融機関と直接決済ができるようにしたが、あくまでSWIFTの管理下にあるシステムであり、米国の意向により取引が制限されることもある。結果的に元の国際決済の比率は2%以下に抑えられたままになっている。

つまり通貨元の国際的な信用は全くなく、アフリカ、アジアの新興国の海外プロジェクトでも米ドルがないと円滑には機能しない。そのため中国のドル外貨が不足すると赤字受注の継続が難しくなり、既にいくつかの海外プロジェクトが中断したままとなっている。今後はさらにその数が急増するとみている。

現在も中国の外貨準備高は米国債を除き2兆ドルも多く計上されたままである。粉飾統計でなければ、帳尻を合わすため中国の民間企業が米国の証券市場や外債で獲得したドル外貨も含めている可能性が高い。また、共産党幹部が海外へ持ち出した資金もかなりの額に上るが、その資金を海外投資として、外貨準備高に不正計上すれば、数字はさらに大きく膨らむ。もしその仮説が正しいなら、韓国の外貨準備の統計手法に類似して、実際の国家財政の資金繰りは韓国同様に中国も相当に厳しいのではないだろうか。

その中国の民間企業も、米国の金融制裁で、ニューヨーク証券市場から閉め出され、外債の資金調達も難しくなって、外貨準備高に組み入れにくくなっている。そこで、香港市場の上場に切り替え、ドルの調達をおこなう中国の会社も増えているが、それも今回の国家安全法の施行で、先行きが不透明になっている。つまり、中国政府の外貨準備高は、元通貨の信用基盤となっている1兆ドル強の米国債は簡単に売却処分できないので、それを除くと存在しないどころか、大きく割り込み、赤字になっている可能性もあるとみている。

そうなれば、対外純資産の数字も怪しく、本当は対外純債務に陥っている可能性すらあるのだ。こうした計数仮説に基づけば、中国は現在でも既に財政破綻、デフォルト危機の状態にあり、金融制裁を受けなくても、早晩、統計矛盾を説明できず、米国債を処分できなければ、対外債務への返済が不履行となる可能性も高まっているとみている。

中国の民間企業の外債デフォルトは頭の痛い問題

米国は中国の虎の子の米国債も簡単に売却させないので、金融面で中国はかなり追い詰められているとみている。最近、中国の民間企業の外債の債務不履行、デフォルトが増えているが、その実態はあまり知られていない。中国国内だけで全ての経済が循環完結しているなら、中央銀行である中国人民銀行はいくらでも通貨を発行し中国国内の銀行を通じて資金供給をおこない企業救済ができる。海外からの借入だとそれが不可能となる。中国の民間企業で海外のドル建て社債を期限内までに返せないデフォルトが増え、直近では5%の水準に達しており、その比率は増加するのではないかと予測されている。

中国のオフショアの社債市場は2.7兆ドル(290兆円)の規模で、2年以内満期の社債が2千億ドル(21兆円)もあるといわれている。今後、毎年5%でデフォルトが推移すると仮定すると毎年15兆円もの巨額の外債が消失する計算となる。この市場は、中国の政治リスクを考えると高利回りであっても近づくべきでないハイリスクな市場なのだが、みずほ銀行など日本の名だたる銀行が、パンダ債などと称し日本の高齢者や投資家へさかんに売りつけてきたものである。それらが今後大きく目減りして、大問題となる日も来るのではないかと心配している。

なにしろ、中国は借金が返済できなければ、堂々と踏み倒すもの、融資をした方が悪いという考え方をする風土がある。中国内での債務踏み倒しは、貸した民衆や企業等の債権者に責任があり、泣き寝入りせざるを得ない訳だが、海外の債務踏み倒しは、流石にいろいろな問題に発展することを中国政府も良く理解している。特に中国では民間企業でも実質的には中国共産党の影響下、支配下にあり、社債デフォルトは中国政府がからむとても深刻な問題である。

おそらく中国政府が得意とする駆け引きで、日本を含む海外の投資家が引き続き融資、投資をしてもらえるなら、オフショア外債市場を守るため中国政府も何らかの対策をとると提案をするのではないだろうか。私見だが、中国政府は海外の投資家を救済する気持ちや意欲は全くなく、成り行きに任せ静観し続けるのではないかと考えている。要は、今後の米国などの出方によって、中国政府は外債発行の民間企業を一切助けず、中国企業は外債を踏み倒し続けるのではないかとみている。

これは世界中の金融市場がパニックとなる大きな問題であり、米国の金融核爆弾がSWIFTとすれば、中国はオフショア外債市場という金融核爆弾を保有し、米国や日本、英国などリッチな先進国へ脅かし続けるのではないだろうか。なお、中国の国債の海外保有額が2018年に8千億元強(14兆円)に達し増え続けているが、これがデフォルトをしたと世界中のマスコミが騒ぎたてた場合、一帯一路含め全ての中国の覇権政策にマイナスの影響を与えるため、中国は面子にかけて、この国債の返済はきっちりするとみている。

中国は豊かな香港財政を組み入れて金融破綻を回避する

香港の対外純資産は1.6兆ドル(170兆円)、外貨準備高は4423億ドル(約50兆円)もある。中国の対外純資産2兆ドル、外貨準備高3兆ドルは信用できないが、香港統計なら信頼できる。仮に香港を合算した対外純資産を算出するとその額3.7兆ドルは日本の対外純資産3.4兆ドルを超え、経済に無知なマスコミであれば、だますことはできる。

一方、中国の対外純資産が粉飾と見る場合は、中国の実際の外貨準備高が0に近く、香港の外貨準備高50兆円を中国政府の外貨準備高に組み入れ、財政破綻を防ぐ方法を中国政府が模索してきたのではないかとみている。さすがに表立って、香港の外貨準備高を使うことは難しい。中国政府は、裏で香港の財政資金を吸収すれば、処分できない米国債の影響もなく、債務不履行も避けられると考えてきたのではないだろうか。

すなわち、国家安全法を施行するずっと前から、香港はすでに一国二制度から実質的に一国一制度の政治体制に切り替わっていたのではないかとみている。表向きは香港政府(香港特別行政区政府)による言論の自由、民主的な活動を約束しながら、実際は少しずつ香港政府の中国化を進め、実態的に50年を経ずに辛抱強く23年間待って、いつでも中国へ組み入れることが可能な政治、行政の受け入れ体制を進めてきたのではないかとみている。

つまり、香港政府は実態として既に中国政府の一部になっており、香港の財政資金へ手を突っ込み、潤沢な香港の資金を背景に中国の国家財政危機を乗り越えようとしているのではないかとみている。つまり、米国や英国が約束違反といくら問い詰めても、国家破綻のデフォルト危険を避けられるのであれば、背に腹は代えられない切迫した金融事情もあったのではないかとみている。

                          
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