お問合わせ
06-4708-8655

資金循環を促す投資保証の仕組みの導入でGDPは急成長する

2023年2月20日

社会資本研究所

南 洋史郎

異例の驚きの日銀総裁人事は金融緩和継続のため用意周到に練られた可能性が高い

日銀の新総裁に戦後初めて学者出身の植田和男氏が決まった。日銀の黒田総裁の金融緩和路線を継承する話があり、ひとまず市場は安堵して落ち着き、専門家はこれからの植田新総裁の金融政策をあれこれ予測し始めた。この想定外の総裁人事に驚きの声がでているが、副総裁にはイールドカーブ・コントロール(YCC)という日本独自の金利の仕組みに精通している内田眞一日銀理事、国際金融の規制分野に詳しい氷見野良三元金融庁長官が選ばれ、人選としてまずまず妥当なところという評価になっている。早速、ネット中心に識者から辛辣な意見もでている。日銀は政府の子会社だから、首相意向に沿って4月の就任早々に金利を上げるという見方やコロナからの経済回復が急がれるので、当面は金利を据え置くのではという意見があり、要は首相、すなわち、その背後の支援機関である財務省の財政政策や金融方針が大きく影響を及ぼすらしい。

テレビに登場する識者の中に黒田総裁に批判的な論調も一部にあるが、アベノミクスを支えた黒田総裁の異例の金融緩和と低金利のお陰でデフレ不況で停滞した日本経済が力強く成長でき、国内総生産GDPが伸びた実績は、まぎれもない事実であり、高く評価されている。帝国データバンク千社の企業調査でも、日銀の黒田総裁の異例の金融緩和を百点満点で80点以上と評価する企業が37%、70点から80点が18%、55%の半数以上が70点を超える合格点をつけ、平均点は66点と高い評価となっている。54%の企業が今後も現状の金融緩和の維持か、それ以上の緩和を望んでいる。ただ、異次元の緩和で日銀の財務状況が大丈夫かという不安感もあるからか、大企業中心に40%に緩和の見直し、緩和縮小の意見がでている。

リフレ派の良心と評判の元副総裁の岩田規久男先生は、あるテレビ番組で今後も政府は積極財政で経済を支えざるを得ないが、そのためには今の金融緩和とYCCの堅持は必要不可欠であり、その実務に詳しい内田理事が引き続き次期副総裁として残り、日銀の実務にうとい学者出身の新総裁を支える人事は安心できると述べられていた。唯一の心配は、熟慮の上でち密に設計されたYCCの仕組みを新総裁が市場原理を重視し過ぎて変更することで、そこを副総裁にはうまく説明してもらってYCCも含めた金融緩和の路線をうまく継続して欲しいとのことであった。
こうした専門家の意見を拝聴すると今度の日銀人事は、財務省中心に事前に相当に練られた用意周到な人選となる。

一方、金融業界は、複雑な感情が渦巻いているであろう。日銀が銀行の採算性にマイナスな低金利と買いオペを継続、銀行にとって安心安全な運用先の国債金利を低いまま抑制、今後も収益が上げにくい環境が続くのである。現時点でも企業への貸出に使われない預金、銀行にとって負債が、都市銀行や地方銀行、信用金庫などの金融機関全体で預貸ギャップとして440兆円もある。ただ、もし、金融機関が国債運用に頼らず、この莫大な資金を産業投資へ積極投入し、ローリスクでミドルリターンより高い利潤を上げることができれば、金融機関の収益環境が一変し、金融機関の既存のマネーストックそのものが 信用創造の原資となっていくと期待できるのである。今回の日銀人事を契機として、金融機関側も低金利の金融緩和が続くことを覚悟し、国債の運用による収益確保の発想から脱却して、新しい収益モデルとなる融資、投資の仕組みへ経営戦略を転換する必要がでてくるであろう。

バブル崩壊後の30年間は信用創造より信用収縮になりやすい経済活動が続いた

金融機関に保有されている1565兆円を超える莫大な預金などの資金をマネーストックという。ゆうちょ銀行や農協など全て金融機関の現金と預金、定期貯金、外貨預金などを加えた資金領域のM3を活用することが多く、通常、これをマネーストックと呼んでいる。日常生活ではATMをつかってお金を引き出し、振り込み、預け入れなどの操作をしているが、その資金量は日々変化しているものの、マクロ的な集計をとると総額はあまり大きく変化していない。ある口座の支払いのための振り込みで預金が減れば、他の口座でその資金を受け取り預金が増えるので全体として増減が発生しにくいのである。しかし、例えば、一台数百万円もする魅力的な新車が売れ、その資金がディーラーや自動車、部品のメーカーへ支払われ、自動車や部品のメーカーが新たに工場や設備の投資に踏み切った時、その資金が法人のマネーストックを増やし拡大させることになる。

「信用創造」(Credit Creation)という言葉は、この自動車などの産業投資が活発となり、売上や支出以上に収入が増え、企業や家計の口座の預貯金が増加、その結果、マネーストックが全体として、どんどん拡大、増殖する状況を意味する。お金がお金を増やすような錯覚に陥る景気の良い状況となる。産業規模を大きくする「投資」(Investment)ならGDPは健全に成長していくが、土地や株式などの特定の資産価値が理論値より高くなる「投機」(Speculation)だとそのうちにバブルが発生し、それがはじけたときに経済が破壊されるので注意が必要である。
金融機関が企業へ融資や投資を積極的におこなえば、既存産業の規模が拡大し、新産業も次々と生まれ、経済活動が活発となる。その結果、国内総生産のGDPが順調に成長するのである。

一方、「信用収縮」(Credit Crunch)は、家計セクターでは、景気が悪く、多くの人の給与が減り、増えない中で光熱費などの生活費が高くなり、リストラで失業するなどの厳しい生活環境が続いて、口座の残高が減る状態を意味する。法人セクターでも、多くの企業で売上減少による支出増や取引先の破産による債権の未回収で口座残高が減る状態となる。企業や家計の預貯金の口座残高が減って、金融機関全体のマネーストックが減っていくことになる。信用収縮の世の中では、大多数の人たちの口座のお金が減り、一部のお金をもっている金融機関や企業にお金を吸い取られ、お金がお金を奪う錯覚に陥る景気の悪い状況となる。

一般的に好景気でインフレ(Inflation)基調の経済では「信用創造」となり、不景気でデフレ(Deflation)基調の経済や物価高の中で景気が停滞するスタグフレーション(Stagflation)の経済で「信用収縮」となる。
信用創造の経済環境の中で気をつけることは、名目GDPを実質GDPで割って100掛けしたGDPデフレーターが経済の成長率を上回り、様々な部材などの値段が過度に上がるコスト・プッシュ型のインフレが続くことである。株式や土地など特定資産への投機的なインフレの発生もバブルにつながるので要注意である。      

一方、信用収縮の経済環境では、長期に続くデフレ経済で資金の潤滑な流れを止める過度の資金の抑制行動には注意しないといけない。金融機関の活動では、債務超過などを理由に貸し渋りや貸し剥(はが)しで融資を止め、資金を回収する行為は、深刻な信用収縮を引き起こす。企業経営では、債務超過でも資金繰りがまわっている限り倒産しない。逆に資金繰りが続かなければ黒字でも倒産する。ところが、バブル崩壊後にいつの間にか金融機関は債務超過を融資打ち切りの判断基準とするようになった。資本力の小さい零細、中小企業では、ちょっとした売り上げの減少で、債務超過となる現象はよく発生する。ところが、債務超過だと金融機関から冷たく見放されるケースが増え、その結果、倒産企業がさらに増えるのである。債務超過を理由に融資が止められる、融資を止められたら倒産する企業が増える、倒産企業が増えると債務超過は倒産につながりやすいという新たな評価基準が生まれ、さらに融資ができない理由を債務超過にするという信用収縮が広がるメカニズムができ、不況を加速させて、倒産により路頭に迷う不幸な人を増やし続けていくのである。金融機関が債務超過を融資判断基準にしない、これだけで信用収縮のループから脱することができるのである。

マスコミに登場する専門家も、業績の悪い企業や債務超過の企業をゾンビ企業と呼び、そんなゾンビは市場から早く撤退させるべきだと主張する。そのようなバッシング報道が続いたために企業は無理して借金をして投資する気持ちが萎(な)え、借金嫌いが増え、投資を抑制、内部留保を厚くしてきた。勝ち組企業の口座資金は増えたかもしれないが、預金を維持したままであまり動かず、負け組企業の口座資金だけが一方的に減り続け、信用収縮をまねいてきたのである。さらに信用保証協会が、金融機関とのリスク共有により100%保証をやめ80%保証に切り替え、金融機関の融資が抑制される場合も信用収縮の原因となってきた。倒産、破産する企業が増えると法人口座の残高が大きく減り、信用収縮がさらに進展して、GDPの成長が低迷する。さらに消費税の引き上げが起こり、消費が低迷し、それに輪をかけて緊縮財政で構造改革による財政予算の削減が進められ、信用収縮を加速することにつながった。実は、1990年代のバブル崩壊以降、アベノミクスの時代でも、政府や財政・金融当局、金融機関は今まで述べた信用収縮につながる資金循環の抑制を30年間ずっと取り続けてきたのである。

アベノミクスの日銀によるYCCの金融緩和は欧米の金融当局の実証モデルとなる

日本では、バブル崩壊以降「信用収縮」になりやすい経済活動が続いた。一時的にマネーストックが増え「信用創造」になっても、なかなかデフレ経済からの脱却が困難であった。その理由は、家計や法人で貯蓄が増えても、資金が滞留して動かず、口座残高は高止まりし、マネーストック自体が大きくても、実際に動く資金量が小さくなり、経済活性化につながらなかったのである。口座残高の資金は、銀行記録として印字されるだけで、新たな投資のための融資を受ける口座振り込みの資金は増えるが、現金取引はわずかで、大方の資金取引は銀行間の口座に印字、記録される数字のやりとりでおこなわれる。そのため、マネーストックの増減は景気判断の指標になるが、資金量が増えても、それが信用創造につながるとは限らないのである。ところが、日銀が国債を買い上げ、金融機関へ供給するマネタリーベースの資金は、確実に金融機関の口座へ資金が注入されるので、結果的に金融機関は運用せざるを得なくなり、債券購入などの新たな金融投資や企業への融資拡大といった行動につながりやすくなるのである。

こうして、日銀の異例の金融緩和による500兆円以上の国債の買い上げ、保有により、ハイパワーな通貨増強の原資となるマネタリーベースが金融機関へ流し込まれ、そのお陰でマネーストックが黒田総裁の就任後に400兆円以上増え、日銀主導で、強力な信用創造が生み出されてきたのである。アベノミクスにより安倍元首相や黒田総裁、歴代の日銀幹部による日本経済への過去10年間の功績は傑出している。日本史に残る金融政策の金字塔を立てたと言っても過言ではない。ただ、金融の専門家と称する人たちが、テレビ等のマスコミで欧米の中央銀行と比べ大量の国債を日本銀行が保有することが問題と指摘、不安感や違和感を訴えられている。

日銀の通貨への信認が無くなるか、深刻なバブルや高インフレが発生しない限り、仮に日銀がこのまま一千兆円を超える国債を保有しても問題はないと言える。G7の財務大臣・中央銀行総裁会議、今年は5月の連休明けに新潟でおこなわれるが、そうした会議で日本の金融政策を経済理論から解説、G7の財務当局や中央銀行のトップが納得すれば、日銀の信認が失われることは無い。欧米の中央銀行総裁は、博士号をもった学者出身者が多く、むしろ同じ学者出身の日銀の植田新総裁から日銀の金融緩和を継承するため、これまでのマネタリーベースの通貨増強効果や金利操作のためのYCCの有効性を理論的に説明すれば、貴重な実証事例として欧米の将来の金融政策の参考にするであろう。すでに黒田総裁のマイナス金利や金融緩和の実証事例は、昨年のウクライナ戦争後にインフレが発生するまでは、欧米の中央銀行によるデフレ対策のモデルとなっていたほどである。アベノミクスによる日本の成功事例は、欧米の財政、金融の専門家たちにとって、今後も貴重な有効性が実証された政策モデルになっていくであろう。

自立投資でマネーストックの役割を高めれば日銀の通貨増強機能を小さくできる

今の国内の経済状況から判断して、企業がコロナで傷んだ財務状況から脱するために向こう数年間は、日銀のYCCによる金融緩和の政策路線は継続せざるを得ないとみている。一方で日銀の金融緩和の出口戦略も数年以上かけて慎重に準備していく必要がある。そのために日銀主導で通貨増強機能を使って信用創造を生み出す金融モデルからの脱却を目指さないといけない。それは、既存産業や新規産業で、企業自らの判断で次々と連鎖的に投資が増え、GDPが拡大することである。これを「自立的な信用創造を促進する投資(自立投資)」と形容すれば、自立投資の結果、日銀のマネタリーベースに頼らず、新たな信用創造を生み出す資金原資を主に金融機関のマネーストックに依存する経済へ変えることができるのである。企業自らの判断による自立投資が増えれば、次々と通貨の資金量も増え、自立投資が別の企業の自立投資を誘発し、連鎖的に自立投資が次々と増えるのである。財務省や金融庁にて、この企業と金融機関による連鎖的に自立投資が増える仕組みを制度として導入する必要がでてくるのである。自立投資が増える産業は、住宅産業や自動車産業、航空機産業のような産業にかかわる事業会社の数が多く、すそ野の広い分野となる。

現在は、政府主導の財政出動が活発におこなわれ、その結果、新たに国債が発行され、それを日銀がYCCの低金利で買い上げ、マネタリーベースを金融機関へ強力に注入する仕組みとなっている。GDPが成長する中で、政府の財政出動に頼らず、企業自らが新たな投資を開発して、それを金融機関が積極的に促進できる仕組みを導入できれば、日銀主導の金融緩和に頼らなくても、金融機関自らが投資を促進することで信用創造を活発化させる状態を生み出せるのである。企業が財政出動に頼らず、産業自らが躍進し、景気が良くなり、雇用者の報酬が増え、消費が増えることであり、それが国内の至るところで黒字企業を増やす結果をまねくことになる。

一方で雇用者の報酬が増え、黒字企業が増えると税収が増え、増税が不要となり、むしろ減税する機会も狙えるようになってくる。今の税収比率でも、所得税や法人税、消費税が、国内総生産GDPの伸び以上に増えると予測されている。税収増加率はGDP増加率の倍以上はあるので、仮に様々な新産業が潤沢な資金供給を受けて拡大し、3年後にGDPが年率3%(うちインフレ率は1.5%)で550兆円から600兆円へ9%伸びれば、所得税、法人税、消費税の現在の税収64兆円が少なくとも18%以上は伸びて76兆円になる計算が成り立つ。つまり、2026年度は12兆円の新たな税収が国庫へ流れ込む計算となる。結局、増税をしなくても、GDP2%の防衛予算12兆円に増収分6兆円を充てれば、残り6兆円を少子化対策の財源へ充当できるようになる。GDP600兆円への増加が、税収増につながり、それによる予算増がさらに防衛産業を活気づかせ、GDPをさらに増やす良循環な経済を構築できるのである。

それでは、企業と金融機関による信用創造を活発化させる新たな仕組みとは何なのか。バランスシート循環経済理論では、財政投融資の信用保証協会のような融資を促す仕組みを投資分野へも導入して、金融機関の投資を一定割合で保証する投資保証協会を創設することではないかと提案している。投資なので投資先の事業が破綻すれば、当然ながら全く回収できなくなるが、そこに事業の将来性から判断して一定割合の保証をおこなえば、金融機関も安心して高利回りの投資資金を出資できるのである。信用保証協会は、信用保証料を受け取り、中小企業融資に限定して活用されている。一方、投資保証協会は、むしろ大企業や上場企業の子会社や関連会社も対象先として考え、ベンチャー企業や中堅企業、中小企業も広く対象として積極的に投資保証をおこなう新たな政府機関となる。

この投資保証の新たな仕組みが、新産業や企業の新事業を育成する信用創造に役立てられ、それが企業の成長を促し、GDPを急成長させる起爆剤になると予測している。投資保証の範囲、事業破綻の時の保証割合は、新事業や新産業のリスク分析から異なってくると思うが、企業の経営権を侵害しないという配慮から、金融機関の企業への出資を優先株式や上場を視野に入れた優先株式の転換社債などに限定すれば、企業側の利用も増えることになる。当然ながら、保証対象の企業は、親会社も含み経営権が海外の企業は対象にならず、あくまで経営権が国内の企業に限定されることになる。また、低金利で苦しむ金融機関を慮って、保証料は1%未満で出資金の8割前後を保証する制度となるが、上場時に保証料の1割を成功保証料として受け取れる権利ももてるようにする。この成功保証料が次の投資の破綻時の保証原資に充当できるのである。投資保証協会が社会へ広くその存在を認知されるためには、メルクマールとなる投資案件の発掘が必要となる。それは有名な上場企業の子会社での失敗事業と世間から揶揄(やゆ)されたもので、その事業が新たな投資促進で復活して上場できれば理想的な投資保証モデルとなるのである。

投資保証協会の有望な保証候補はジェット旅客機であり国交省が全ての鍵を握る

日本では新産業となる経済活動の裾野の広がりを考えるとジェット旅客機の航空機産業の分野が、政府主導による投資保証協会の初期段階におけるメルクマール的な投資保証の対象になると考えている。厳しい航空法という規制が絡み、健全な新産業の育成が遅れている分野であり、規制を克服しながら技術開発を進めることで、日本の技術力を高め、産業の裾野を広げる可能性の高い分野となる。例えば、ジェット旅客機は、2月7日に三菱スペースジェット(MSJ)の開発中止が公表されたが、名古屋を中心とした日本で開発製造するジェット旅客機の耐空証明と設計製造に必要となる型式(かたしき)証明を国土交通省の航空局の認可を先に得て、国内の航空会社の国内便への納入を優先すれば良かったのである。ところが、国交省航空局が及び腰であったことも原因となり、結果的に米国連邦航空局FAAとの同時認可を得ようと焦ったことが一番大きな敗因であったと分析している。つまり、10年以上前から国交大臣が経産大臣と連携しながら、リーダーシップを発揮して、国交省の航空局が主導的な立場でMSJの耐空証明と型式証明の骨の折れる審査に取り組み、独自の安全基準を作り込んでMSJへ認可をして、国内の航空会社へ納入できていたら、今ごろ国産ジェット旅客機が大空を飛んでいたとみている。

米国連邦航空局FAAは、米国内で開発、製造している米国製の部品などボーイング社や米国内の部材メーカーについては詳しいが、三菱ブランドへの信頼はあっても、日本の部材メーカーの比率の高いフライト実績のない日本製のジェット旅客機に対しては慎重であり続けた。審査の初期段階から、炭素繊維を使った燃費が20%も良くなる軽量化の新技術について、従来の重量のあるアルミニウム使用を求め、結局、他の航空機メーカーとの優位性を訴求できず、差別化がしにくい状況へ追い込まれている。もしも国交省の航空局が、自国の旅客ジェット機を審査するためにFAAの審査基準を参考にしながら、日本独自の審査基準をつくる面倒な作業をいとわず、国産ジェット実現のために骨を折っていたら、今ごろは全く違う状況になっていたとみている。過去に開発を断念したMSJの初期の軽量化された機体モデルをもう一度、国交省の航空局にて型式証明ができるかどうかの再検討を始め、認可までのプロセスが見込めるようになった段階で、次は三菱航空機がMSJの国内での事業再開を決断するかどうかが焦点になってくる。三菱航空機が再開を決断すれば、外部から数千億以上の投資資金が必要となり、その時に投資保証協会の保証を取得した金融機関が数千億円単位で出資することが期待できる。これが自立投資を拡大できるかどうかの試金石となる。

一度、リージョナルジェット機の乗客100名未満の小型ジェット機の開発ができれば、次に乗客100名から200名の中型ジェット機の開発も視野に入れることが可能となる。この分野は、すでにボーイング社という最強の航空機メーカーが存在するが、国内での型式証明などの認可を優先して、日本独自の技術を活用した競争優位性の高い機種を開発し続け、国内の航空会社と密接な連携をとり現場改善を進め、さらに優れた航空機を開発できると考える。MSJがリージョナルジェット機で2年から3年のフライト実績を築き上げるのと並行し、米国のFAAだけでなく、欧州やその他の国々への耐空証明や型式証明の認可を働きかければ、短距離の国際便や米国以外の欧州やオーストラリアなどの国内便にも徐々に納入実績を広げることが可能となり、日本での新たな航空機産業を育成、成長させることができるのではないかと予測している。

百万点の機材や部品を使用する航空機産業の裾野は広く、もっともありがたいのは、国内で育成した航空機の部材メーカーがボーイングやエアバスへも取引を拡大できる点にある。このような副次的な航空機産業の広がりまで考慮すると数十兆円以上の産業規模にまで急成長できると見込んでいる。まさに国交省の航空局の頑張り次第となっており、首相からトップダウンで日本の航空機産業を育成する方針を明示してもらう必要があるのではないかと考える。

投資保証の出資が増えると融資も促進されて金融機関の収益が大きく改善される

MSJの投資保証例でもわかることだが、数十兆円規模の産業育成のためには、国家主導の国内産業の育成が欠かせない。MSJも現段階では5千億円近い債務超過だが、仮に同額の投資保証が可能となり、金融機関が5千億円の出資を始めたら、その信用により数千億円の新たな融資も可能になってくるのである。金融機関は、投資保証による出資と信用保証による融資をセットにして資金を動かせるので、自然と預貸率も大きく改善される。また、信用金庫のような小さな金融機関でも、将来性の高い零細、小企業だが、業績が悪く、場合によっては債務超過で、これ以上の信用保証協会による融資が難しい場合でも、投資保証協会を通じた新たな投資を促進することで、債務超過が解消され、同時に融資も再開されて、事業環境を一新することが可能になってくる。つまり、ゾンビとか言われ、活動が停滞していた企業でも、もう一度、事業再生のチャンスを得ることができるようになるのである。

投資保証協会による投資のために出資を促す制度は、信用保証協会の新たな融資も促進して、金融機関が投資と融資の両面から企業の活動を支えることができるようになる。今まで停滞して動かなかったマネーストックの資金が、投資保証により自立投資を促すことで、いろいろなところで生き金として動き始めるのである。事業への投資と融資のセットによる資金供給が金融機関の収益を大きく改善することになり、マネーストックの拡大にもつながるのである。新たな投資への資金需要の高まりが、投資保証と自立投資によりお金がお金を呼び込む信用創造が強化され、GDPが短期間で成長できるようになる。つまり、資金循環を促す投資保証の仕組みの導入によりGDPが急成長するのである。自立投資が活発になると政府の国債発行による財政出動の役割も小さくなり、その結果、日銀がマネタリーベースを金融機関へ注入する通貨増強乗数を高める金融オペレーションは、徐々にその役割を終えることが可能となるのであろう。

〔お知らせ〕 社会資本研究所では、長年研究を続けてきた「バランスシート循環経済理論」を詳しく解説した小冊子を近々Pdfのデータ形式で研究所の運営費を捻出するために有料で販売をおこなう予定です。販売できるようになれば、ホームページで告知しますので、ご関心のある方は、ご覧いただければ、今回の記事の内容をもっと深くご理解いただけるようになると思います。

※上記文章、PDFファイル、入手、ご希望の方はこちらをクリックしてください!

ページトップへ戻る