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少子対策と高齢対策、雇用報酬の改善で人口減少は止められる

2023年3月28日

社会資本研究所

南 洋史郎

最近の若者はなっとらんという考えは古く素晴らしいという見方に変化している

WBCのサムライ野球の活躍は素晴らしく、21日準決勝でのメキシコ戦における吉田選手の劇的なスリーランや22日決勝でのアメリカ戦における村上選手、岡本選手のホームラン、若手投手の巧みな継投、大谷選手のドラマのような9回ピッチングに日本中が沸き痺(しび)れた。振り返るとそれまでの日本は、本当に暗くて精神的につらい3年間が続いた。コロナで徹底的に生活が破壊され、ようやく回復の兆しをと思ったら、今度はウクライナでロシアによる侵略戦争、追い打ちをかけるように日本を一瞬に暗くさせた安倍元首相の暗殺事件など嫌な事件が続いた。その後も旧統一教会問題や天然ガス、石油の高騰による食品やエネルギーの物価高騰で「コロナ」、「暗い事件」、「価格の高騰」という3Kで庶民は精神的にも金銭的にも苦しめられてきた。

さらに中国の習近平主席による台湾侵略の戦争の脅威が叫(さけ)ばれ、その独裁者がロシアを訪問、同じ独裁者のプーチンと会談、中露の二大勢力による侵略戦争が続くのかと日本、いや世界が重苦しい空気となっている時に今回のWBC優勝は、大袈裟かも知れないが、日本に明るさを取り戻し、日本人にやればできるという希望を与えてくれたと思う。サムライ野球の若い皆さんに心より感謝したい。最近の若者はなっとらんとぼやく高齢者が多かった時代は昔の話、今は最近の若者は素晴らしいと褒める高齢者が増えている気がする。

そのWBC優勝決定の瞬間にテレビのテロップで岸田首相がウクライナを電撃訪問したという知らせが入り、新たな明るい材料として驚いた国民も多かったのではないだろうか。テレビ局が電撃訪問の発表のタイミングを探っていたのではと勘繰っているが、まさにベストのタイミングであった。保守色の強いネット番組は、増税発言などで厳しく批判されてきた岸田首相も、安倍首相のように外交で強いリーダーシップを発揮できるようになったと珍しく高く評価する論調に変わっていた。欧米のマスコミも、ICPO(国際刑事警察機構)から戦争犯罪人として国際指名手配を受けたロシアのプーチンに中国の習近平が会いに行き、2大独裁者によるイメージの悪い両首脳の会談と同じ日の21日にウクライナのゼレンスキー大統領と日本の岸田首相が会ったことは素晴らしいと賞賛しており、WBC優勝と重ねて合せ、日本のプレゼンスを大きく高める効果があった。米国からの要望があったとする見方もあるが、偶然の可能性も高く、岸田首相の運の強さには脱帽である。2月末に中国大使の首相への離任挨拶を見合わせた事実も公表され、従来と違う岸田首相の変身にネット論調が変わり始めた。国民目線から「どうするフミオ」と不安を感じる言動や不可解な判断を批判されることの多かった首相が、「どうされたのかフミオ」と真っ当な言動やリーダーシップを発揮する姿にネット論客の多くが肯定的な見方をし始めた。

団塊ジュニアの生涯未婚率は男3割女2割でまず結婚カップルを増やす努力が必要

思い起こせば、1970年代の青春を過ごした年配の人たちにとって学生時代の思い出は暗く悲惨であった。1960年代後半に団塊の世代が始めた過激な学生運動の影響は弱まっていたが、生き残った活動家が大学の建物にペンキでスローガンを落書きし、至る所に全学連や全共闘などのヘルメットを被った過激派が大看板を並べ、大学構内はゴミ屋敷のような様相であった。糾弾を受けた教授の授業は消滅、その他の授業も休講が多く、当然パソコンやEラーニングは存在せず、キャンパス近くの麻雀屋やパチンコ屋に出入りする学生も多かった。当時暗い印象しかない大学OBが今の綺麗なビルが林立する大学を訪問すると全くの別世界で驚かれるのも無理はない。食堂をみて、ホテルのようだと形容するOBの気持ちも理解できる。やんちゃな不良学生が多かった当時と比べ、真面目な大人しい品行方正な学生を見て違う大学に舞い込んだと錯覚し戸惑う先輩諸氏も多いらしい。新たな観光ビジネスとして、旅行会社が卒業生の多いマンモス大学と組み、遠方の田舎に住む高齢のOB、OGに母校見学や名物授業を受ける体験ツアーを企画すれば、都市観光を兼ねて一定のニッチな参加者が見込めるような気もする。

1970年代当時は、戦争を体験した高齢世代の人たちから、最近の若者はなっていない、特にハイジャック事件やあさま山荘事件を起こした過激派の団塊の世代の若者には困ったものだ、全ては日教組の教育が悪いからだとよく愚痴を聞かされたものである。今や団塊の世代も後期高齢の年齢層へ突入、その子供世代の団塊ジュニアと言われた40歳から50歳前半の人たちは、バブル崩壊後の長い就職氷河期を経験、非正規の社員になった人も多く、収入は低く、相当に苦労を経験されてきた。団塊ジュニアの45~49歳と50~54歳の未婚率の平均から、50歳の時に一度も結婚したことがない未婚率の推計を生涯未婚率とよび統計をとっているが2021年の統計では、男性3割弱、女性2割弱という数字で、15歳以上の人口1憶1111万人のうち既婚者は6200万人弱、一度も結婚していない未婚者が3300万人弱となっている。残り1600万人強が死別か離別しており、15歳以上の実に44%が独り身である。

団塊ジュニア世代で独身生活を過ごす人が多く、50年前の団塊世代が結婚適齢期の時代は、生涯未婚率は男女とも2%程度であったことを考えると少子化をまねいた原因は結婚しない生涯未婚率の人口の急増にあるといえる。このまま何も対策をとらなければ、20年後の2040年には、生涯未婚率はさらに増え、男性4割、女性3割になるという試算もある。国主導の少子化対策の中でも、まずは適齢期の若者が結婚し易い環境づくりに注力する必要があるだろう。適齢期の若者が結婚に踏み切れない大きな理由の一つに正社員で安定した生活ができる収入の良い職場が少ないという理由をあげる人が多い。政府主導の企業や産業の成長支援の対策が強く求められている。コロナで激減したお見合いパーティーの早期復活など男女の出会いの場を増やし、結婚し易い環境を強化するだけでなく、雇用環境が劇的に改善するGDPの成長、好景気の持続が欠かせない。少子化対策も大事だが、GDPの飛躍的な成長をはかり、正社員比率を高め、給与が増え、雇用環境が改善すれば、結婚できる若者が増え、若年人口も増加すると予測している。ただ、現実を直視すると日本は毎年出生数が減り続けており、昨年は80万人を切り、15歳から49歳の女性が子供を産む比率の集計である合計特殊出生率は1.3を割り込み、1.27と最低を記録、人口減少に歯止めをかけることが難しい状況となっている。

有効な対策がなければ2050年に人口1億人、年間百万人の人口減少国家となる

日本の総人口は2008年の1億2808万人をピークに2011年から減少が始まり、2019年まで毎年10万人から20万人の幅で緩やかな人口減少が続いてきた。ところが、コロナ流行により、出産をためらう女性が増えて出生率が急低下、一方高齢者の死亡が増え、2020年は40万人強、2021年は65万人弱の人口が減り、2年間で百万人の人口減少となった。2021年には人口は1億2550万人となり、10年間で約260万人の人口が減ったことになる。2022年の出産数は79.9万人となり、統計がとられた1899年以降で初めて80万人を割り込み、65歳以上の高齢者の人口は36百万人で比率が28.9%となり、全人口の3割が高齢者で占める国となった。

本来、少子化、高齢化の対策とは、少子高齢化への社会の流れを止める制度設計や具体的な施策という意味だが、既に日本社会は深刻な少子高齢社会そのものへ変貌を遂げているのである。つまり、政治家はもはや待ったなしで少子対策、高齢対策そのものを講じる必要がでているのである。専門家の屁理屈など聞いている暇はなく、打てる手、思いつく手は、良いか悪いかといった議論の前にまず試験的に実践し、その効果を確認、良ければすぐに全国展開せざるを得ないところまで追い込まれているのである。ただし、少子対策において移民を増やす政策だけは、治安の悪化をまねき、文化が違う同化できない民族集団の社会ができ、深刻な国家分断をまねくという見方が先進国、とりわけ欧州で主流となっている。日本も少子対策には移民政策を含めるべきではなく、この認識のない政治家は有権者からも愛想を尽かされることになるであろう。

優れた少子対策や高齢対策以外にも好調な経済発展も欠かせない要素である。GDPの成長があって初めて雇用報酬が増え、生活も安定して余裕ができ、適齢期の結婚カップルや生まれる子供が増え、高齢者も健康で長生きができるようになる。つまり、移民政策以外の「少子対策」、健康長寿が可能となる「高齢対策」、GDP成長による「雇用報酬の改善」を三位一体で強力に推進できれば、人口減少を止めることができるのである。逆に日本の政治家が、この3要素に何も有効な対策を講じることができなければ、年間百万人ずつ人口が減って、2050年には日本の人口は1億人弱になると予測されている。

出生数が死亡数を超えることを目標に少子対策と高齢対策の同時推進が必要となる

図表の「2006年から2022年までの日本の人口と出生数、死亡数の推移」の数字から明らかなように2020年から2022年までの3年間におけるコロナの感染流行による日本の人口へのマイナスの影響は大きく、出生数は2016年以降100万人以下となり、90万人台で推移して、低下傾向になっていたが、3年間で年80万人を割り込むまで落ち込んだ。コロナを理由に出産をためらう夫婦が増え、超過死亡含む高齢者の死亡も増加、3年で440万人の死亡数を記録、出生数は245万人で約2百万人の人口減を経験することになった。2019年までの人口減少が年間30万人前後、3年で約百万人であり、コロナの直近3年間で出生の減少と高齢死亡の増加で、約100万人の人口減少につながったとみている。

コロナの悪影響が続き、このペースで人口減少が続くと大阪で万博が開催される2025年から数年以内に日本人の人口は1億2千万人を割り込む事態にまで悪化することが危惧されている。人口減少は死亡数が出生数を超え続けることで発生、直近では毎年60万人前後の減少がみられるため、そのギャップを抑制するため、例えば、年間の出生数を35万人以上増やし、死亡数を25万人以上減らす目標を掲げ、少子対策と高齢対策を同時に推進する政策の遂行が欠かせない。効果的な少子対策とは、婚姻数を増やして出産数を増やすことである。有効な高齢対策とは、健康寿命をのばし、高齢者が数年から数十年、今より元気で長生きをして、社会活動に参加し続けることである。この少子高齢対策を同時並行的に推進することが何より必要となっている。

少子対策は何より婚姻数の増加につながる国認定の無償の仲介支援機関が必要

少子対策のための婚姻数の増加について有効な対策を考えてみる。とにかく理屈抜きで、官民挙げて適齢期の男女に結婚を促す社会支援の活動の強化が必要である。日本人は欧米人と比べ、ベタベタした恋愛が不得意な人が多く、一緒に生活をする中で徐々に互いの長所や短所を理解し合い、きめの細かい思いやりと配慮を通じて、精神的な絆(きずな)をはぐくむタイプの人が多いといわれる。つまり、表面的な恋愛の感情表現が苦手な人が多く、何かのきっかけでお付き合いが始まり、互いの内面的な心の交流の中で、自然と結婚に至る「見合い恋愛」のパターンが婚姻数の増加に寄与すると考えられている。   戦前の日本は、年ごろの男女に必ずお見合いをすすめる風習があり、戦後になっても1960年代までは親戚縁者の中に必ず世話好きなおじさんやおばさんがいて、そうした世話好きの仲介で釣書の写真を見て、お見合いの出会いがあり、お付き合いをする中で結婚にまで発展する見合い恋愛のカップルが多かったと記憶している。核家族化が進み、親戚付き合いも疎遠な家族が増える中で適齢期の男女を気にかける世話好きの親類縁者も激減し、結婚相談所など第三者的な仲介業者を利用するケースも増え、ビジネスライクな紹介による付き合いが増えたが、多額の費用のかかる仲介のため、利用できる社会階層も限定されてきた。 そこで誰でもどこでも事前に相手の情報を知り、お金がかからず、無償で気楽に会えるハローワークのような仲介機能の支援機関を拡充すれば、婚姻数が飛躍的に増大するのではないかとみている。仲介する世話人の人たちも人生経験があり、うまく取り持つ適性能力が必要で、何百組も良縁の結婚のお世話ができる有能な人材の育成も欠かせない。そこで、民間の結婚相談所の中でも、地域ごとにある一定の要件が揃ったところに限定して、国認定の支援機関として全面的に資金支援をおこなう、ハローデアイ(出会い)やハローマリッジ(結婚)といった名称の公的な無償の結婚相談所を増やす制度も必要となる。仲介者も高度な専門の知識ノウハウをもった国認定の資格を保有、信頼できる仲介サービスのための専門的なアドバイスができるエキスパートの育成も必要不可欠となる。彼らが、結婚相談所のような無償の支援機関で活躍し、良縁を取り持つ機会が増えることで、婚姻数が飛躍的に増加し、適齢期で結婚すると子供が欲しいと切望するカップルも増加、出生数が自然と増えていくとみている。まさに国を挙げてまずは婚姻数の増加につながる独身者への良縁機会の提供の強化を目指す必要があろう。

高齢対策は健康長寿な高齢者の増加につながる生涯現役で働ける職場の拡充が必要

2021年時点の平均寿命は男性81.5歳、女性は87.6歳だが、2050年は男性84歳、女性90歳になると予測されている。死因の一位の癌や二位の心疾患の医薬や治療技術の進歩、80歳を超えても働き続ける現役高齢者が増えるおかげで、平均寿命はさらにのび、2050年に男性90歳、女性95歳となる可能性も否定できない。平均寿命なので百歳以上になっても元気な高齢者が急増、百歳以上の人口(百寿人口)が現在9万人でその9割近くが女性だが、毎年5千人以上のペースで百寿人口が増加しており、2050年には百寿人口が今の増加率だと25万人となり、サーチュイン長寿遺伝子の研究開発と医薬への応用が進めば、百寿人口が百万人を軽く超える可能性もでている。

平均寿命なので65歳の高齢者がアンチエージングの医療技術の発達にも助けられ、80歳、90歳まで現役で健康に働き続ける確率が年々高まっている。働くことで精神的に充実した日々を過ごし、資金的に豊かな生活が過ごせるようになる。寿命はさらに延び、人生百年を迎える人口が急増、80歳から90歳で健康で現役で活躍する人が、今より数倍、いやロボット遠隔操作の重機や自動運転機能のバスやトラック、タクシーの見守りドライバーなどの職種が増えて体に負担無く、安全に働ける職場が増えれば、高齢者雇用への需要は少なくともさらに今より数十倍以上は増えると予測している。

現在、全ての生産年齢人口の基準は65歳となっているが、近い将来、75歳まで引き上げる必要もでている。つまり定年退職を60歳や65歳から70歳へ変更、その後5年間はさらに嘱託などで雇用し続ける会社も急増する。すでに体への負担の少ない福祉などの支援施設は、80歳定年を導入するところが増えてきた。生産年齢人口が15歳から75歳の60年間に変わり、その結果、さらに健康長寿な高齢者が増えるという良循環な社会構造の仕組みが形成されていくと高齢者の定義も65歳から75歳、後期高齢者の定義を75歳から85歳へ引き上げる必要もでてくるであろう。 健康な平均寿命、健康寿命が延びると年間の死亡者数も減っていく傾向が顕著となっていく。現在、3600万人の65歳以上の高齢者の男女を合わせた平均寿命が85歳までの20年間とすると単純計算で年間180万人の死亡数が予測される。しかし、その平均寿命が95歳へ10年間引き上がり30年間になると死亡数は年間120万人へ激減する。平均寿命が95歳の時代には百寿人口が毎年数十万人ずつ増えていく計算となり、長寿の仕組みの解明による医療技術の飛躍的な発達により、ギネスの長寿記録も2050年には、軽く150歳を超えると予想する研究機関もでている。

つまり、百歳を過ぎても、従来のように老衰ではなかなか死なない、死ねないスーパーボディの百寿者も増加するとみている。そうした平均寿命を引き上げるための最も効果的な方法が、国による高齢定義の見直しであり、75歳を過ぎても健康である限り働き続けられる体への負担が少ない安全な職場拡充のために国が支援する必要もでている。つまり、本人が希望すれば、定年がなく職場で働き続けられる生涯現役制度の導入が必要となってくる。その制度を導入する企業などへは、国が積極的に資金支援をする必要もでてくるであろう。企業側も、高齢者になっても体に負担なく安全に長く働ける自動化、省人化されたロボットやAIを活用した職場づくりにも工夫する必要がでてくるであろう。それが、飛躍的な生産性の向上にも貢献するとみている。

こうして出生数が現在の年80万人から、ハローマリッジの支援機関の活躍で婚姻数が飛躍的に増加、出生数が大幅に伸びて、その数が年135万人以上となり、一方で生涯現役を目指す働く高齢者の増加により平均寿命がのびて死亡数が年135万人以下となれば、日本人の人口減少にも歯止めがかかり、逆に出生数が延びれば延びるほど人口が増えていく国に大変貌を遂げると予測している。その時期がいつ頃になるか予測は難しいが、あくまで希望的な観測にはなるが、2035年頃には人口減少が止まり、人口増加へ反転できることを期待したい。

雇用報酬の改善は少子対策と高齢対策には必要だが人口減少でもGDPは成長する

今まで述べてきた少子対策や高齢対策は、そうあって欲しいという願望を目標として政策を推進する話である。実際にはその理想通りとならないケースも想定すべきと覚悟する必要もあろう。つまり、GDP成長による雇用報酬の改善を考える場合、そもそも少子高齢化の流れが止まらず、仮に2050年に人口1億人となった日本でも、人手不足で経済が縮小することなく、ロボット化、無人化、省人化の技術、産業の発展により、少ない人手で付加価値の高い製品やサービスを生み続ける工場や機械、サービス支援機能を拡充させていく経済政策を推進できるかどうかが重要なテーマになってくるのである。もちろん、先ほど述べたハローマリッジなどの結婚促進の支援機関や高齢者の定義の見直し、生涯現役制度の導入支援などの少子対策や高齢対策である程度の人口減少は食い止められるとみている。しかし、巨大な1.2億人の人口が増えも減りもしない状況を維持、継続させるためには、GDPの成長と雇用報酬の改善が何より欠かせない最重要な政策となってくる。

雇用報酬を改善する政策を推進するために国民総生産GDPをどのように成長させるかを考える必要がある。GDPを需要と支出の面から考える場合、消費と投資の支出を大幅に増やす政策を推進する必要が大事となってくる。例えば、結婚後の共働き家庭が子供と一緒に過ごしながら、より働きやすい職場環境を目指して、子育て家庭への養育費、教育費、生活費を補助、支援する制度は、家計消費を増やすためにより充実させていく必要がある。一方でそれでも少子化による人口減少が、必ずしもGDPの縮小をまねくとは限らないことも認知する必要がある。

一般的に人口減少がGDPの縮小と連動する経済の国は、工業力が脆弱で強化されず、産業が発達せず、その結果、国民一人当たりの可処分所得が低いままで消費力の小さい中後進国でみられる現象といえる。逆に人口が減少しても、GDPが順調に拡大している国もあり、その特徴として、工業力が充実し産業が発達、年々国民一人当たりの給与が上がって、裕福となり、可処分所得が上昇しているという特徴がみられる。消費支出は、財貨・サービスの価格と販売数量の関係で決まるため、貧しい社会階層の国民が多く、安価で付加価値の低い製品サービスが多く売れる国より、裕福な国民が多く、高価な価格帯の付加価値の高いハイエンドな製品サービスの販売が拡大する国では、人口が減少しても、GDPが拡大し続ける傾向が顕著となっている。

例えば、ある国の一人当たりの平均所得が250万円で、可処分所得がその8割の200万円、人口が1億5千万人とすると、国全体の民間消費支出は300兆円となる。一方、その国の人口が20年後に5千万人も減って1億人になっても、平均所得が1.5倍に増加して375万円になれば、可処分所得が8割の300万円となり、人口が3分の2になっても、民間消費は同じ規模のままで維持される計算が成り立つ。一般に裕福な国では、労働生産性が高く、効率良く働く職場環境が整備されており、その結果、工業力、産業力も強いので、人口が減少しても、様々な創意工夫により、むしろ一人当たりの報酬が上昇する傾向となる。例えば、大型ショッピングセンターの小型店舗の店員をスーパーの店員が兼務、ワークシェアリングによる省人化をはかり、郊外のコンビニは、自動決済やセキュリティのシステムが完備した無人店舗が増え、収益力が向上する。工場現場では、自動化が徹底的に推進されて、無人の生産ラインが増えることで、人件費比率が低下、多少の為替変動があっても、海外へ工場を移転する必要もなくなり、収益力の高い工場を国内で維持、管理できるようになる。

需要への支出からGDPの拡大を推進する時に必要な着眼点は、人口の増減とGDPの増減とは関連性が低く、人口が減少すれば、効率化のための投資支出が増え、一人当たりの平均所得や可処分所得が増加する場合もでてくる。少子対策や高齢対策を熱く語ってきたが、三つ目の政策であるGDPの成長による雇用報酬の増加については、少子高齢化を防ぐための予算の確保や資金支援は欠かせないものの、それらとは切り離して、人手に頼らない付加価値の高いロボット産業など新たな産業への投資を推進し、一人当たりの付加価値の高い事業構造へ転換を促していく産業政策が必要不可欠となっていくであろう。なお、人口対策としての移民政策は、少子高齢化を防ぎ、人口減少を食い止める政策とは全く無関係であり、GDP成長による雇用報酬の改善にも寄与せず、むしろマイナス効果になることも肝に銘じる必要がでてこよう。

〔お知らせ〕 社会資本研究所では、長年研究を続けてきた「バランスシート循環経済理論」を詳しく解説した小冊子を近々Pdfのデータ形式で研究所の運営費を捻出するために有料で販売をおこなう予定です。販売できるようになれば、ホームページで告知しますので、ご関心のある方は、ご覧いただければ、今回の記事の内容をもっと深くご理解いただけるようになると思います。

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