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香港の国安法施行は米中金融戦争を本格化させる

令和2年7月3日

社会資本研究所

南 洋史郎

中国の国安法に米国は激怒し米中金融戦争が始まった

6月30日に全人代常務委員会で「香港国家安全維持法」(略称;国家安全法、国安法)が可決され、即日施行された。その法律条文が明らかになり、今まで一国二制度で自由で民主的な自治を守ってきた香港政府(香港特別行政区政府)は、中国共産党(中共)の完全監視下におかれ、自由な政治的な発言や活動などが一切法律で禁止されることになった。

特に同法条文の第38条は、香港以外に居住する外国人も国安法の法律適用が明記され、香港独立を支持、主張する外国人が、トランジットの香港の空港で拘束される可能性もでている。香港が中国の他の都市と同じ扱いで中国政府の治安維持の管理下に置かれるようになったのである。当然ながら、米国はこの法律の施行に反発、激怒して、ポンペオ米国務長官は1日に国安法の38条含む内容が全ての国を侮辱すると明言、トランプ大統領が命じた香港への優遇措置撤廃を進めると明言した。

現在、香港には、中国企業が最も多く1800社、次に日本企業が1400社、米国企業が1300社、英国企業が700社と日米英の数多くの大手企業の支社、支店が事業活動を営んでいる。この法律の施行により、米国による金融制裁が不可避となり、香港に拠点を構える日米英の企業の多くが、関税上の恩典や香港ドルのドルペッグ制が見込めなくなったと判断して、本格的な撤退に踏み切るとみられている。

米国はそうした困った事態を事前に想定して、1997年成立の米国香港政策法をベースに昨年11月に香港人権・民主主義法を成立させ、今後、香港の自由な自治権を侵害すれば、それ相応の対応をすると明言して、中国政府をけん制してきた。すでにトランプ大統領が5月29日に香港の民主化を脅かす場合、段階を経て制裁を強め、最悪、香港ドルと米ドルの交換優遇処置の撤廃まで視野に入れると明言している。

これで中共への金融制裁が決定的となり、中国だけでなく、香港がドル経済圏を離れ、自国中心の元通貨の経済圏を構築して、独自の社会主義経済を歩むことになった。今まで中国は世界の工場として、低付加価値だが、米国や日本など先進国の生活に欠かせない必需品を数多く製造、販売している。米国はじめ欧州や日本は、コロナの感染爆発時に大量の医療用マスクや防護服などが中国から輸入できず、困った経験を持つ。

中国製品の輸出が止められ、困るのは先進国であり、通貨元への需要は底堅く、各国が頭を下げ、中国製品を欲しがるので、これからは香港ドルにペッグした米ドルを介さなくても、元通貨を国際流通通貨にしていくのは可能であると中国政府は考えているのであろう。
しかしながら、米政府が金融制裁を実施する可能性は高く、中国政府の楽観的な見通しは甘いと言わざるを得ない。

既に米国では、米議会がカンカンになって怒っており、米下院で1日、香港の民主派弾圧の中国当局者と取引を行う銀行に制裁を科す香港自治法案が可決された。2日には上院で可決され、大統領令として施行される見込みとなっている。仮にこれが施行されると中国当局者の解釈が広範囲に適用され、中国との銀行取引全てが対象となる可能性もでており、国安法の施行に対する対抗手段、牽制となる法律になるだろう。米中の貿易戦争が金融戦争へ戦いの場が移り国安法は国暗法となり中国や香港の将来を暗くする法律になってきた。

米中金融戦争が起こっても中国政府は妥協せず突っ走る

貿易取引で香港ドルを介さなくても、元通貨とドルや円の通貨との直接取引ができれば、低中価格帯のアパレルなどの生活必需品を中国から引き続き輸入できる。大方の貿易関係の商社が香港ドルを介さないバーター取引や人民元の国際銀行間決済システム(CIPS)などの仕組みの導入を検討するだろう。ただ、今回の金融制裁は、米国もかなり厳しく対応することは間違いなく、低中価格帯の商品の貿易については、多少の目こぼしもあるかも知れないが、先端の電子機器分野などの中高価格帯の高度な技術がからむ貿易分野は、ほぼ取引は不可能になるのではないかとみている。 特に日本のほとんどの有名大企業は、業種を問わず、米国からの制裁が怖いので、静かに目立たないように香港や中国市場から撤退するか、事業機能や工場、事務所は残したまま、実質、長期にわたり開店休業の状態にして、様子見でそのままコロナやその他を理由に中国での事業活動を放置し続ける可能性がある。日本の大方の企業経営者は、中国政権トップがよせばいいのに米国へ正面から喧嘩を吹っかけている特殊な政治問題であり、民主化を目指す新たな政治リーダーが中国で政権を担えば、米中間の関係は急速に良くなるので、ここは辛抱が肝心と思っているかも知れない。

日本の経営者やビジネスマンは、ある意味で頻繁に権力闘争を繰り返す中国共産党の政治家の方々には慣れっこになっており、名刺交換した相手が失脚や国外逃亡することもあり、今回も習主席による江沢民派の牙城の香港の利権争いではないかという見方をしているかも知れない。日本の経営者に意外と人気がある李克強のような政治家もいるが、過去、数多くの政治実力者が権力争いで失脚してきたので、政治のことを語るのは経済人のタブーになっている。

平穏に習主席自らが引退され、次世代にバトンタッチして、ソ連のゴルバチョフのような民主化路線を歩む政治家の登場を期待しているのだろう。そうなれば、引き続き何の問題もなく中国国内で事業を継続できるから、経済的な損失も最小限に抑えられる。内心では政治闘争や米中の金融戦争はどうでも良いから、早くビジネスがし易くなるようにうまくケリをつけてくれと願っているのではないでしょうか。

さらに一部の金融専門家は、香港ドルと米ドルとの交換停止までは発展しない、交換停止になれば、中国の膨大な対外債務が不良債権化、中国へ投資した日米欧の様々な企業の事業資金がまわらないようになり、その場合の経済損失があまりにも大きすぎるので、金融戦争は深刻化しないと楽観視しているかもしれない。 中国の首脳陣も同じような見方をして、中国がどんなに無茶をしても、さすがに米国が金融核爆弾である香港ドルと米ドルとの交換停止のボタンまでは押さないだろうと考えているのではないだろうか。

一時的な政治上の衝突を乗り越え、中国が明るい民主的な方向に変化することを期待したいが、現在の中共の戦狼外交、喧嘩外交が今後も続く状態だと、そうした見方は非常に甘く、結局、米国による中共への金融制裁は実行される可能性が高い。制裁の結果、中国の国内は内乱などで分裂、危険な状態となり、自暴自棄になった中国政府は、南沙諸島やインド、尖閣諸島などの複数の地域で軍事衝突を始める事態すら想定される。

今のままでは、香港だけでなく、中国本土の民主化を進めることはかなり難しくなったのではないかと考えている。理由は、現在の中国の習主席の共産党政権が、思想的にコミンテルン(共産党インターナショナル)や毛沢東の考えを継承、理想として掲げ、共産主義的で革命的な覇権を目指しているからである。中国自身が民主主義や人権擁護、資本主義などの21世紀の社会的な価値観と相容れない哲学で国家統治がされているからだ。

中国分裂や海外との軋轢に戦時体制で身構える中国政府

北京でコロナの感染拡大が起こっても、ほとんどの情報が隠蔽されているので、あくまで推測だが、1月から2月の武漢コロナ感染は、周辺都市にも次々と伝播、経済的、社会的なダメージが相当に大きかったのではないだろうか。武漢以外の都市部の死者数も相当な数にのぼったと思われるが、真実は闇に葬られたままになっている。

さらに、感染対策により経済が大幅に減速、数億人以上の農村戸籍を中心とする貧困層や失業者が満足に食べていけない状態になっているのではないかと危惧している。暴発寸前の民衆を街中で設置されている監視カメラによる24時間監視体制で抑え込み、何とかかろうじて治安維持ができているのではないかとみている。ただ、このまま厳しい生活が続けば、我慢できず、中国国内の至るところで、監視カメラを壊して、抗議やデモ、暴動が起こるのではないだろうか。

死ぬか生きるかの瀬戸際の農村地帯では、村単位で密かに自警団による独立自治が進められ、公安警察も中央政府の命令を聞かず、農村部から中共統治の終焉となる自治分裂の動きが顕著になってきているのでないだろうか。すでに中共統治そのものに赤信号が灯っている可能性すら考えられるのだ。独裁政権では、一部の民衆は騙せても、大多数の民衆を 騙すことはできない。 ルーマニアのチャウシェスク政権の末路のような悲惨な道を歩むかどうかはこれからの中国政府の選択如何にかかっているのである。

米国では中国のインターネットのファイヤーウォールを壊し、中国の田舎の村々でも中国や世界の真実を自由に知る機会を提供できるようにする計画が進んでいる。過去の共産党幹部の恥ずかしい行為の数々、例えば、米国ロスアンジェルスの愛人村や法輪功、チベット、ウイグルでの弾圧、臓器売買などの真実を知ったら、それに憤る中国の民衆がどのような行動に出るかは想像に難くない。

なかなか政権内部の正確な情報入手が困難なので、テレビに映る習主席の表情観察から判断すると頭髪が以前に比べ白髪交じりとなり、心労からくる疲れた表情や声に変化しており、政権内部で重大な変化が起こっている可能性が高い。つまり追い詰められた政治状況となり、政権幹部へ異例の悪口禁止の通達まで発出しているのは、外国の諜報機関に内部分裂の兆しを察知されないように神経質になっているからではないかと推察される。

その意味で、既に政権内部は危険な戦時体制になっている可能性が高い。偶発的な一部の武力衝突から発展した戦争の可能性も高くなっており、それがインドでの武力衝突にもつながったとみている。米軍の空母打撃群の艦隊が、挑発的に南沙諸島を航行している。CIAなどの進んだ諜報機能をもっている米国は、すでに中国の政権の内部情報から、いつでも武力衝突に備える体制をとっているとみている。中国も2隻の空母を出航させ、いつでも応戦する構えだが、結果は見えており、中国政府は米国へ戦いを仕掛けるほど、まだ理性を失ってはいないとみている。

さらに中国政府を悩ましているのは、連続して発生し続けている天変地異のような自然の猛威であり、情報隠ぺいのためどうなっているかまったく読めないが、それが中国の民衆を苦しめている可能性が高い。三峡ダム決壊も心配される異常な豪雨災害、深刻なサバクトビバッタの穀倉地帯の蝗害(こうがい)、毎年発生する豚熱(CSF)の流行や致死率の高いアフリカ豚熱(ASF)の被害など自然災害から内陸部の食糧危機の深刻さも懸念されている。

農業大国のオーストラリアは中国にとって重要なパートナーであるが、同国首相の言動に腹を立て、中国が輸出規制をするほど余裕があるような状態ではない。米国からの穀物や豚肉の輸入も今や中国の食糧対策の中で、死活的な問題になっている。中国が存在しなくても、世界は困らないが、世界の国々の資源や製品、技術ノウハウがなければ、中国はやっていけない。そのあたりを中国は十分に再認識する必要がある。

米国との金融戦争で中共は対外債務を踏み倒す

     

中国が急速に2兆ドル(215兆円)以上まで積み上げた対外債務は、コロナ対策でさらに膨らんでいるとみている。 一方、共産主義覇権を目指すため、過去6年間に新興国へ貸し出された3千億ドル(30兆円程度)の資金は回収不能となる可能性が高く、中国政府は対外債務の返済において債務不履行だけは避けるようにしてきたのであろう。

香港を含みGDP比でもっとも多く中国へ貸し付けている国は英国である。英国からはGDP300兆円の23%、約70兆円(中国25兆円、香港45兆円)の資金が投入されている。香港ドルの価値を支えているのは、米国より英国の資金なのだ。英国首相も米国同様に相当に怒っているが、これだけの資金を投資しているなら、米国と歩調を合わせ、香港に金融制裁できない裏事情があるのも納得できる。資金は国境なく世界をめぐっているので、香港市場の突然のクラッシュは、ロンドンのシティへも多大な影響を与え、世界的な金融危機をまねかないとも限らない。

次に中国へ貸し付けや投資をしている国が台湾である。台湾GDP63兆円の16%、約10兆円(中国8兆円、香港2兆円)の資金を投入している。中国が平和的に台湾のような民主化路線を歩むと一番恩恵をこうむるのが中国の一般民衆であり、香港や台湾などの華僑の人たちである。すでに台湾は東南アジアの華僑ネットワークを含む中華圏の中核国家として理想的な民主主義のモデルになっているのだ。民度、モラルが高く、今後、中国本土で一番必要となる道徳教育、倫理教育を普及するため、台湾で使われている教科書や書籍がそのまま活用できる。

中国共産党が一番脅威に感じるのは、まさにその模範的な民主国家の存在そのものである。同じ北京語なので、共産主義革命を突き進む中国の現政権幹部の中に、台湾事情を熟知して、敵視せず、平和的に一緒に繁栄できれば、米国や日本とも友好的な関係を築けると考える政治家がいても不思議ではない。将来は台湾が中華連邦の盟主として、分裂独立する中国の自治国家とのつながりを深めると予測している。次にGDP比3%前後の豪州やフランス、日本、韓国がその後に続き、ドイツ、カナダ、米国はGDP比1%強と意外と少ない。

コロナの感染爆発前の昨年の統計だが、香港の一人当たりのGDPは4.8万ドルで日本の3.9万ドルを超え、シンガポールの6.5万ドルの次に位置している。すなわち中華圏の2大都市国家である香港とシンガポールは、高等教育の人口比率が高く、優秀な人材も多く、日本以上の経済力を誇っているのだ。なお、米国6.3万ドル、ドイツ4.8万ドル、英国とフランスが4.3万ドルなので、すでに日本はG7の中でイタリア並みの経済力となり、下位に位置しており、3.3万ドルの韓国が日本に肉薄している。

今回の中共による国安法は、健全な経済活動を営む先進都市香港を実質的に支配するので、米国や英国が厳しい外交姿勢でのぞむのも合点がいく。中国の債務が焦げ付けば、日本は10兆円程度の中国がらみの債券が不良債権化する。今の中国共産党一党独裁体制が続いても、その債務額は膨らむ一方である。法案施行後の金融戦争が本格すれば損切、ロスカットが一番と中国に見切りをつけ、撤退する日系企業が急増するとみている。

米国による中国への金融制裁が本格化したらどうなるか。まず、中国は全く対抗する手段がなくなり、資金繰りがうまくいかず、対外債務を返済できない状態になる。するとある時点で開き直って、デフォルト宣言をおこない、ひたすら対外債務200兆円を超える巨額資金の踏み倒しを実行するとみている。

その時、中国の債務不履行に対して、債権国の制裁処置がとられ、ある面では壮絶な金融戦争の様相になると考えている。例えば、米欧日英のドル・ユーロ・円・ポンドの資金調達を完全に遮断するDEEP包囲網がしかれ、中国との輸出入の貿易取引が全くできなくなり、中国へ進出している企業の資金調達も不可となり、中国や香港の大方の事業活動も停止せざるを得ない状況も覚悟する必要があるだろう。

そうなれば、いよいよ中国の国内は大混乱となり、そうした国内の目を海外へそらすため様々なところへ同時多発的に軍事衝突を仕掛けることも考えられる。その時に金融戦争から軍事戦争へフェーズが移るかも知れないが、中国の民衆や中国軍には賢い人が多いので、軍事戦争まで発展せず、中国共産党の中から米国とうまく交渉する次世代を担う優秀な政治家が登場するとみている。

                          
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