お問合わせ
06-4708-8655

中国が共産主義を追求すれば財政破綻のリスクは高まる

2023年12月3日

社会資本研究所

南 洋史郎

不動産バブル崩壊による中国経済の低迷と習近平独裁による共産主義革命の進展

連日、ネット中心に中国経済のバブル崩壊のニュースがさかんに喧伝(けんでん)されている。 特に大手不動産の巨額債務の焦げ付き、実質破綻した話を聞くとそのスケールの大きさに圧倒される。 現在、習近平政権のもとで不動産会社を債務ごと国有化、売れ残った膨大(ぼうだい)なマンションを一般民衆へ格安で販売、 あるいは貧困層へ無償提供する計画が進行中である。また、学校教育では民間の介入を完全排除、幼少期から毛沢東や習近平の共産思想を教育して、 共産主義国家としての愛国心を高める方針らしい。半世紀以上も前の毛沢東の大躍進政策の時代に数千万人が餓死する悲劇が起こったが、 当時、私有財産を没収、集団農場で共同所有を推進、協同組合の合作社から人民公社にまで組織を大きくしたが大失敗している。 ところが昨年中国の国務院が社区建設と称して都市部に人民公社のような生協を立ち上げる案を公表した。 中国で今何が起こっているのか、秘密主義が貫かれ、情報が少なく、統計数字も信用できないため、中国経済の変化を予測するための実態把握は難しい。

明確に言えることは「共同富裕」という中国共産党が経済を統制する全体主義の考え方で民間企業へ経営介入する社会実験が始まったということであろう。 それは習近平の強力な独裁体制のもとで進められる新しい共産主義的な経済システムとなる。 中国の国内で石油や食糧など全ての資源を調達でき、あらゆる社会経済の活動が国内市場だけで完結し、 大方の民衆が国の決めたルールに従って真面目に働き、正しく資金循環ができる完璧な鎖国経済なら実現性が高いかも知れない。 しかし、今の中国のように外国とのモノやサービスの自由な貿易や金融を含む幅広い国際取引で経済が成り立っている現状では、 どんなに数字をごまかし大国を装っても、自国が保有するドル資金が枯渇した時点で債務不履行の破綻を迎える可能性が極めて高い。

中国の昨年の経常黒字額60兆円はトップの業績であり、米国債の保有額120兆円も巨額で、 ドル資金の枯渇による破綻の心配は一切無いように思えるが、果たしてそうであろうか。 従来、中国が保有できるドルを稼いできたのが、中国へ進出した日米欧の外資系企業や海外へ進出した中国の多国籍企業である。 中国の輸出額において、外資系の中国企業の輸出の割合は3割強と言われている。 さらに中国の不動産会社などは、人民元のオフショア債券市場で外資系の金融機関から積極的にドル資金を調達してきた。 その輸出や貸付でドル資金を供給してきた外資系の事業会社や金融機関が、どんどん中国市場から手を引こうとしている。

そこで混沌とした中国の未来を予測するため、犯罪捜査でも使われているプロファイリング(Profiling)のマトリックス(Matrix) 分析手法を使って国際金融の視点から分析、2024年の中国の経済動向を予想してみた。 その結果「中国が共産主義を追求すれば財政破綻のリスクは高まる」という結論となった。 以下にその分析した内容の一部を解説してみたい。

経常黒字がトップの中国でも基軸通貨でないためロシアと同様に信用力は低い

図表1に2022年の主要国別の経常収支を比較してみた。経常収支は、貿易収支、サービス収支、所得収支、経常移転収支からなり、 貯蓄投資バランスの考え方から、経常収支の累計は、その国の貯蓄から投資と財政赤字の累計を差し引いたものとなる。 基軸通貨は本来米ドルだけであるが、金融市場では、覇権国の米国の地位の低下とともにEUのユーロ、 日本の円を加えた3通貨を基軸通貨として考える方向に変化している。 つまり、米ドルはユーロと円のバックアップにより基軸通貨の信用力と流通力を維持しており、 ユーロや円も含めると世界の貿易取引の9割以上が3つの基軸通貨を介した金融取引となっている。 日本の経常黒字の累計は420兆円でトップだが、昨年の単年度の経常黒字は60兆円の中国がトップであり、 ロシア35兆円、ドイツ26兆円、台湾15兆円と続き、日本はドイツや台湾に抜かれて14兆円となった。 選定した国々の公表数字がベースだが、中国やロシアの貿易収支や所得収支には不明な点が多く、統計の信頼性にはかなりの疑問をもっている。 一方、経常赤字は、米国の▲(マイナス)142兆円を筆頭に英国が▲18兆円、インド▲12兆円、フランス▲9兆円となった。 政府主導の巨額投資などがあると経常赤字が大きくなり、一概に黒字と赤字の良し悪しは数字だけでは評価できない。 なお、世界経済をけん引する役目の米国は、基軸通貨ドルの流通を念頭に入れて、海外から様々な財貨サービスを積極的に輸入する傾向が強く、 貿易赤字、経常赤字が増える傾向となっている

自国通貨がハードカーレンシー(Hard Currency)の基軸通貨や国際決済通貨になるか、 あるいは、ソフトカーレンシー(Soft Currency)の現地通貨に分類されるかで、それぞれの国の金融力や経済力には大きな違いがでてくる。 一般に現地通貨の国は、流通力や信用力が低く、債務が大きすぎると返済ができず、デフォルト、債務不履行となる可能性が高まる。 逆に基軸通貨のドルを自由に発行できる米国はどんなに債務が大きくてもデフォルトにはならない。 英国やスイス、EU、日本も国際決済通貨を発行する国であり、ユーロと円は実質的には基軸通貨なのでデフォルトにはなりにくい。

ところが自由で開かれた民主主義の社会の中で、資本主義の経済を営む日米欧の国々と異なる価値観をもった中国は、 共産主義を志向する社会システムの中で、資本主義の経済を無理やり推進しようとしており、おのずと様々な矛盾が発生してきた。 特に国家が経済活動に直接関与、指揮する国家資本主義といわれる全体主義的な政治経済体制では、 民間の経済活動であっても、個人や企業の権利を無視した強引な国主導の産業政策が推進されるケースが多い。 習近平が提唱し、国家プロジェクトとして推進した「一帯一路」は、投資額の累計が2400億ドル、36兆円まで積み上がったが、 多くのプロジェクトが回収できず、不良債権になったと言われている。 総じて中国の人民元に対する信頼度は低く、公表される統計数字も信用できず、常にデフォルトの財政破綻のリスクも懸念されるため、 人民元が国際決済通貨の信任を得ることはない。現地通貨の中でも危険なデフォルトのリスクが高い通貨グループには分類されている。

台湾有事に中国関係者の日米の財産は全て凍結・没収されて人民元は紙くずとなる

米ドルは、旧英連邦の宗主国の英国の通貨圏にあったカナダ、オーストラリア、ニュージーランドの3か国が加わった独自のドル通貨圏を形成し、 国名にドルをつけた通貨が流通している。英国統治の香港やシンガポール、米国と歴史的な関係が深い台湾も、 香港ドルやシンガポールドル、台湾ドルという通貨名を名乗っている。東南アジア、アセアンを含む台湾を中核とする華僑ネットワークの中華経済圏も ドル通貨圏の中に含まれる。ドル通貨圏となる最大のメリットは、暗黙の了解のもとで、 その時のレート換算によるドル交換が約束されていることであろう。つまり、通貨としての信用力や流通力は、一般の現地通貨よりは高いとみられている。

現在の為替レートを比較するとカナダ、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポールは100円から110円前後で安定的に推移、 米ドルだけが理論値を超える金利差で150円になっているが、米国の金利が低くなれば130円前後には戻ると予想している。 香港ドルや台湾ドルはそれぞれ20円、5円前後で推移しており、中国の影響を考慮した複雑なドル通貨圏を形成している。 中国の人民元は、ドルを介さず他の通貨と直接取引をする流通の機会も増えて、準決済通貨と勘違いされるが、 土地が国家所有のままで、資本(株式)の自由化もされないので、通貨としての信用力はかなり低い。

3年前に習近平政権が香港を強引に実質的な中国統治に組み入れたことで英国や米国との軋轢(あつれき)が高まり、 今でもその時のしこりは残っている。万一でも台湾有事が起こり、軍事的な衝突となれば、中国共産党は米英だけでなく、 中華経済圏の華僑も敵にまわす覚悟が必要となる。台湾有事の場合、戦争を起こした中国共産党と何らかの関係があれば、 米国や日本にある個人や法人の財産は即座に全て凍結、没収され、戦争被害者への救済へ充当されることになるであろう。 ロシアのように国内需要以上の豊富な石油、ガスなどの天然資源や食料の供給ができれば、 海外輸入をあきらめ、生活が不便になっても自給自足の鎖国経済へは移行できる。

ところが、中国の場合、14億人の需要を充足できる石油、石炭や食料の確保が難しく、仮にロシアやイランと閉鎖的な経済圏をつくっても、 日米欧の外資の技術ノウハウ、資金支援がなくなると自国産業だけでは、人民の製品サービスの需要にあう供給確保が難しくなるため、 猛烈なインフレとなる確率は高いとみている。 それゆえ、万一でも台湾有事が発生して、日米欧からSWIFT制裁を受けた場合、 人民元は国内でも価値がなくなり、紙屑のような扱いを受けることも考えられる。 当然ながら、巨額のドル建て債務の返済も難しくなり、債務不履行のデフォルト宣言をせざるを得なくなるであろう。 有事に自給自足できない国がどれほど悲惨な生活になるかは、第二次世界大戦中の日本をみれば察しがつき、その怖さを理解してもらえると思う。

中国がデフォルト回避のために共産主義を転換して土地や資本の自由化ができるか

図表2では、マトリックス分析により土地や株式という資産のストック(Stock)の所有形態と国際収支の資金の流れ、 フロー(Flow)の関係から各国の通貨の強さを分析してみた。 この図より経常収支の黒字や赤字を云々するより「基軸通貨圏の国々の経済的な結束の強さ」、「基軸通貨圏の国々との断絶の怖さ」、 「基軸通貨圏へ仲間入りするためには資本主義への転換が必要」という3点を理解することが大事になることがわかってくる。

1つ目の「基軸通貨圏の国々の経済的な結束の強さ」については、基軸通貨圏にある米国や英国、欧州、日本などは、国際収支の黒字、 赤字に影響されず、基軸通貨を介した経済システムの中で互いの結束が強く、安定した経済運営ができている。
2つ目の「基軸通貨圏の国々との断絶の怖さ」については、経済がしっかりした基軸通貨の国々と 国際金融取引が不可となるスイフト(SWIFT)からの排除を受けると、 仮に中国やロシアが互いに結束して独自の経済圏を構築して経済交流を続けても、健全なる国家経済を維持発展させることは難しい。
3つ目の「基軸通貨圏へ仲間入りするためには資本主義への転換が必要」ということに関して、 土地や資本、株式といった資産、ストックの所有に制限がかかる社会主義の国は経済体制が全く異なるので、 基軸通貨圏と経済交流を続けることは困難である。もし、中国が基軸通貨圏へ仲間入りするためには、 土地や資本の所有が自由な資本主義の経済へ転換しないといけないが、それは相当に難しいであろう。

以上より、中国が土地や資本の国家所有を進め、共産主義体制を強化、推進する限り、基軸通貨圏の国々との貿易取引や金融取引を維持、 発展させることは困難になるという結論になる。 つまり中国がこれから経済成長を続けるためには、共産主義体制を放棄して、土地や資本の取引の自由化を推進する必要があるが、 現在のような習近平の独裁体制が続く限り、難しいと言わざるを得ない。 中国やロシアから公表されている経常収支の数字が正しいかどうかの検証が必要となるが、中国の貿易収支は検証できても、 海外投資の配当還元は検証できず、一帯一路で巨額の不良債権が発生したという情報から判断すると赤字転落の可能性もあると推測している。

調査会社クレジットサイツによれば、中国の不動産開発会社が発行した1750億ドル(26兆円)のドル建て債券のうち、 1245億ドル相当(19兆円)の債券がデフォルト(債務不履行)になったといわれている。 国際決済銀行(BIS)のデータでは、中国の対外債務は2.3兆ドル(347兆円)、 外貨準備は3.3兆ドル(495兆円)でその差額は148兆円となる。 外貨準備のうち米国債の保有額は0.8兆ドル(120兆円)なので、万一でも台湾有事などで米中が衝突して、 中国が米国債のドルの権利を失えば、中国人民銀行(中央銀行)の金融資産の半分が外貨のドルとなっており、 米銀が中国のドル流通を拒否すれば、即座に対外債務の支払いが滞り、返済不能のデフォルトとなって破綻すると分析している。

〔注1〕文中の円貨の数字は、全て1ドル=150円で換算、概数で表示しています。

〔注2〕本記事の著作権は非営利運営の㈳社会資本研究所に帰属します。本記事の引用、転載、転記などは自由にご利用いただいて大丈夫です。 複写は、本データのままであれば、大丈夫ですが、別データなどへ加工しての複写はご遠慮願います。

※上記文章、PDFファイル、入手、ご希望の方はこちらをクリックしてください!
※上記図表1、PDFファイル、入手、ご希望の方はこちらをクリックしてください!
※上記図表2、PDFファイル、入手、ご希望の方はこちらをクリックしてください!

ページトップへ戻る