お問合わせ
06-4708-8655

新自由主義経済による国際展開の進展と富裕層の増加は日本を豊かにしたか

日本企業による世界経済の支配力の増大が膨大な富を日本へもたらしたことを日本人は認識できているのだろうか

日本は、1995年から2015年までを失われた20年と呼び、その期間、経済後退、停滞の影響で、就職氷河期で辛酸をなめた哀れな中高年世代が、自民党政権による犠牲者だと揶揄する政治評論家もいます。ところが、企業、特に力のある大企業は、その期間において、国内市場が駄目なら海外へどんどん進出して、進出した海外の国々の経済発展に大きく貢献してきました。

ホンダやクボタなど日本の名だたる企業の海外売上は日本の数倍になっており、例えば、ホンダの2018年の国内売上は4.5兆円と過去5年間ほとんど伸びず、北米売上8.6兆円、世界全体売上15.4兆円のうち、国内はわずか30%しかありません。結論から言えば、日本はグローバリゼーションの経済的恩恵をもっとも受けた国の一つであり、海外へ積極投資、事業展開した企業は大きく繁栄して、企業はとても豊かになりました。すなわち、自由民主党政権時代に日本は海外での経済プレゼンスを大きくすることに成功してきたのです。 今や日本の富の源泉は海外にあるといっても過言ではない状況となっています。

自由民主党は、中曽根政権以来、米国政府と呼応するように新自由主義経済学(新古典派経済学-シカゴ学派-含む)で小さな政府、グローバリズム、規制緩和、市場経済、国際貿易を推進すれば、経済成長と財政健全化を両立できると考えてきました。さらに付加価値税を導入した欧州の先進国を参考に消費税もこうした一連の新自由主義的な考えに基づき制度設計された経緯があり、所得税や法人税への依存率を下げ、消費税への依存率を上げ、法人セクターの自由なグローバルな活動を強化、財政出動を極力抑制して小さな政府を目指し、民間経済が活性化すれば、税収も大きく伸び財政再建ができると信じてきました。

一方、米国は付加価値税を導入しなかったものの新自由主義経済学の総本山であり、ユダヤ資本中心にウォール街の金融市場創出の覇者として、グローバリズムの推進によって世界中から富と金を米国の国内に呼び込む政策を続けました。貿易収支で米国から巨額の黒字を稼いできた日本の資金をクリントン政権時代に米国の金融市場へ還流させ、米国経済を維持、発展させる原動力として活用してきたのです。

ある意味で、米国による戦後の占領統治は1951年9月のサンフランシスコ平和条約で終わりましたが、その後も現在に至るまで、日米同盟を基軸に社会経済面においては、裏で糸を引く米国統治が続いてきたと形容できます。平和な社会経済面の米国統治は、日本企業に対する米国の豊かな消費者市場と資本市場、金融市場の開放と自由な活動を意味します。戦後、日本は米国の経済統治の恩恵を受け、米国の旺盛な消費需要と外国企業を自由に受け入れる懐の深い米企業との取引を原動力として日本経済の規模を大きくしてきたのです。ある意味で1990年代初頭までの日本経済の繁栄は、米国の経済統治と米国での自由な経済活動のお陰といえます。

その日本経済発展の仕組みを研究し、それを模倣、発展させてきたのが台湾、韓国、中国であり、日本企業も日米間の貿易摩擦を回避するため、それらの国々に日本の優秀な工作機械や電子部品など装置や製品、部材を輸出し、間接的に米国市場の恩恵を受け続けたのです。

ある意味で日本は賢く戦後から現在に至るまで、米国の経済統治を甘受し、憲法9条を利用することで、戦争で憎まれる相手をつくらず、平和な商人として国を繁栄させる仕組みを構築してきたと言えます。そして米国の経済統治を核として、グローバリズムの名のもとで、日本国内のナショナリズム、保守主義を凌駕する形で、自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)など二国間、多国間の密接な相互依存の経済関係の強化を目指してきました。

ところが、世界の商人として活躍してきた日本の活動が広範囲に及ぶにつれ、東南アジアや米国、欧州、中国、台湾における日本企業や日本文化、技術の存在が大きくなり、日本との経済関係がなくなれば、アジア経済や米国経済が成り立たない状態になっており、いつの間にか統治していると思っていた米国が、逆に日本企業に資金や経営面でコントロールされ、日本に経済支配されているような状態になっているのです。米国人流に皮肉を込めて言えば、今や背広を着た紳士の日本人にある意味で米国経済は掌握、統治され、アニメなどの日本文化に米国文化は支配されているのです。

平和の紳士の日本人は、どの国の人とも摩擦が起きないようにひたすら裏方に徹し、おとなしく地味に経済活動や人的交流にいそしんできましたが、いつの間にか様々な国で日本の存在が大きくなり、何かあると互いに依存する度合いをますます高めているのです。

韓国政府、中国政府も日本に敵対的な言動や政治行動を続け危険な状況が続いてきましたが、ある意味で見えない形での日本の経済文化支配にとてもヒステリックな状態になっており、万一でも日本が経済関係を遮断すれば、日本もある程度の被害を受けますが、それ以上に致命的な大きなダメージを受けるのが中国や韓国であることを彼らが一番良く認識しています。ある意味で日本の見えない経済支配は、ユダヤ資本のような搾取型の金融資本主義と異なり、善良な日本人や日本企業の活躍を知ると逆に自分達の国を豊かにする感謝すべき存在として歓迎するのです。

ある中国のビジネスマンが述懐していましたが、最近の日本にいると中国共産党がスパイ活動をして危険だとか、反日分子がけしからんとか、やたら中国を危険視する言論が大きくなっているが、むしろ日本の存在を畏敬の念をもって、もっとも怖がり、恐れているのが、中国共産党であり、だから日本の動向をいつも研究しているとのことです。とにかく、日本人は恐ろしい、いくら中国共産党が、自国民に反日教育をしても、何百万人もの中国人の観光客を通して、おもてなしで日本を好きにさせ、日本に憧れさせ、日本人を尊敬する日本ファンを増やしている。結局、そうした中国人たちは、いまや精日分子となって、中国の共産党体制を崩壊させる原動力になっており、日本では中国共産党がいつか日本を属国、自治区にすると騒いでいるが、もしそんなことでもしたら、米国のようにいつの間にか知らず知らずのうちに日本経済や文化にどっぷり支配される日が来て、中国全体が日本化するとのことです。中国人の話なので、どこまで信じてよいか疑問ですが、米国でも欧州でも日本の経済、文化の支配力に対する警戒心はとても強いので、海外の日本の影響力の大きさを理解できます。

ちなみに日本の海外でのプレゼンスの大きさを知るためには、GNP(国民総生産)という海外の経済活動を含む指標が一番分かりやすいですが、すでにGDP(国内総生産)の指標に切り替わり、正確な数字は把握し難くなっています。GNPでなく、日本が保有する外国の財産でみると対外資本が430兆円(外国が保有する国内資本220兆円)、金融資産(債券)が740兆円(海外からの債務は440兆円)で500兆円強の巨額の資本、金融資産を海外に保持しています。しかもその投資収益は配当などで外国企業より毎年支払われますが、その所得収支の入超額は2012年度で14兆円強にのぼり、貿易赤字が6兆円弱、サービス収支赤字が2.5兆円弱、海外への資金援助が1兆円強あっても5兆円弱にのぼる経常収支の黒字を維持する富裕国家なのです。

西欧的な資本主義の見方で言えば、資本家がオーナー、ご主人様であり、海外企業、主に中国や東南アジア、米国、欧州の資本植民地化した企業から毎年巨額の収益、富を搾取して経済支配をしている国が日本になります。日本的な資本主義の考えからすると、そんな傲慢な意識は全くなく、むしろ海外のお客様に喜ばれる経営を志向したら、結果的に現地で経営をせざるを得なくなり、その現地企業が黒字なので親会社の本社に配当を還元しただけという話になります。ただ、その規模が世界経済を左右するほど大きくなっており、貧乏国からは寄付や援助の際に気前の良い頼りになる国という存在になります。

現在の自民党の政党幹部の多くは、若い頃にこの新自由主義経済学を学び、グローバリズムを推進して、その成功により日本企業の海外における活動が活発化すれば、日本経済が繁栄すると信じて政治をおこなってきました。政治の原点は、民間の市場経済の活性化であり、民間企業こそ経済のエンジン役になるべきで、国際的な経済活動を強化すればその富を国内に吸い上げ日本は繁栄できると信じてきたのです。ある意味で、日本企業の自由な国際的な活動を後押しする政治は正しかったとも言えますが、その一方で肝心の本家本元の日本の国内市場は伸び悩み、国内のインフラ施設、設備や企業、産業は年々疲弊して、日本国民の中に新自由主義経済の恩恵を享受できる少数派の裕福な上流階層や中流階層とその流れから置き去りにされた多数派の中流低階層や貧困階層との間に貧富の差がくっきり区分される社会構造になっているのです。


図表1&2の世界の富裕層の実態で示されるように日本は米国の次に群を抜いて富裕層が多い国であり、その人口は年々増える一方です。
 そしてついに成人一人当たりの富の平均値で米国を抜き上位5位にランクイン、今や世界トップクラスの金持ち国になっています。


図表1:金融投資1百万ドル以上の富裕層の人口推移 


 
図表2:金融資産1百万ドル以上の富裕層の人口推移


 
一方、国内に目を転じると一般の日本人は、深刻なデフレの影響で給与が下がるのは仕方ないとある程度あきらめても、年々給与が減少する厳しい現実から政治に対して大きな不満をいだくようになりました。国内経済の再生を託した民主党政権も3年間頑張りましたが、政権与党になるといつの間にか新自由主義経済の政治を志向するようになり、TPPや消費税増税に賛成、導入を主張するようになったのです。

その背後には、日本の政治を動かしているのが、実は少数の富裕層を中心とした特権階級とその意見を素直に聞く政界、財界、官界のエスタブリッシュメント(the Establishment、以下「政治特権勢力」)であるという現実をよく認識する必要があります。 この政治特権勢力は、一昔前のようなお札が一杯入った紙袋を料亭で交換する恐ろしい闇の世界とつながった怖い勢力ではありません。 むしろ、米国のロビイスト(Lobbyist)のように全てが合法な活動の中で、○○フォーラムや○○セミナーといった形で正々堂々と様々な提言主張をする言論活動などが含まれます。 影響力のある大手企業や有名団体に天下った官庁OBもある意味で現役官僚との交流の中で日本版ロビイストとして活躍していると言えるでしょう。経団連や商工会議所、同友会、農協団体、銀行協会なども立派な日本版ロビイストと形容できます。 シンクタンク系専門家や一般に活躍する評論家には、そうした勢力と無縁で庶民の味方だと主張されている方もおられますが、一回当り数十万円以上の講演会や自著本大量買い取りの申し入れなどを受け入れた時点で、暗にその依頼者に配慮した言論活動が期待されるので、結果的にロビー活動をしていることになります。

そして、政治特権勢力の主流派は、富裕層の意見を代弁することが多く、今までうまくいった新自由主義経済の堅守は当然の話で、国際市場統合の様相をもっているTPPは願ったりかなったりの商売機会なのです。さらに自分たちが多額の所得税や法人税を納めているのに生活保護で遊んでいる人がおり、国は1000兆円も財政赤字でこれから一体全体どうする気なのかと詰め寄ります。また、自分たちが観光や商談で訪れる欧州などは消費税が20%なのに日本では消費税がたった5%で国民は得をしている、個人事業者の中に所得税も法人税もほとんど払っていない人もいる、国は財政赤字なのに不公平であるという論法で政治家を責め続けます。また、経済学の原理原則を理解していない経営者が多いので、企業経営の感覚で国の借金は良くない、小さな政府を目指して、財政支出を抑制、リストラして、無駄な支出を削減するように働きかけます。

一見もっともらしい意見を主張されるとほとんどの政治家も経済学の基本を理解していないので、反論しにくく、それなら消費税を増税して、財政支出を切り詰め、富裕層の経営者の皆さんがもっと自由に活動し儲けられるように協力しますと安易な政策転換をするようになります。政治家で貧困階層から立身出世で国政まで登り詰めた人は皆無に近く、多くの出身母体は、富裕層や政治特権勢力からであり、自然と周囲のそうした人たちの偏った意見を参考にして政策に反映するようになります。

こうした新自由主義による国際的な企業活動の拡大と富裕層の増大が、結局、どのような恐ろしい結果をまねいたかは、図表3の日本の民間給与の所得階層別の人口推移をみると明白です。

デフレの影響もありますが、なんと過去10年間で年収が400万円を超えて800万円以下の日本の中所得層が37%から32.8%と4%以上(同階層13%減)減少、中所得層でも年収200万円を超えて400万円以下の低い階層が33.7%から35.8%へ2%以上(同階層6%増)も増加しています。深刻なのは年収200万円以下の低所得層で19.1%から23.4%と4%以上(同階層18%増)と急増しています。一方、年収が800万円を超え、2000万円以下の高所得層は9.9%から7.6%へ2%以上(同階層30%)も大幅に減少しており、人口比率で0.4%の年収2000万円以上の高所得層の人口が変化していないことから、日本も上位1%未満の高所得富裕層と99%の勤労世帯とが大きく所得乖離してきたといえます。つまり、日本の大多数の勤労世帯の労働対価としての所得が年々減らされ続けてきたという厳しい現実を直視する必要があるのです。

図表3:日本の民間給与の所得階層別人口推移



自由民主党の安倍政権がスタートしてから、上記の給与水準が改善されてきました。平均年収も400万円から440万円へ10%近くも上昇、失業率で言えば、民主党政権末期の2011年の4.6%から、2018年の2.2%へ2%以上改善しています。
2013年から2018年まで中流層以上の給与水準が改善されましたが、具体的には、2018年 国税庁「民間給与実態統計調査」によれば、100万円以下の極貧層が、8.6%から8.2%へ▲0.4%減、100万円から200万円の貧困層が14.8%から13.7%へ▲1.1%減、200万円から400万円の下位の中所得層が、35.8%から32.4%へ▲3.4%減と全体で5%程度減っています。

中流層の中位以上は逆に400万円から600万円の層が23.3%から25%へ1.7%増、600万円から800万円の層が9.5%から11%へ1.5%増、800万円から1000万円の層が4.1%から4.7%へ0.6%増、1000万円以上が3.9%から5.0%と1.1%増え、全体では5%程度増えています。

2013年10月に消費税を5%から8%へ3%も増税した後でも、こうした給与や失業率の大幅な改善が見られたことから、安倍政権が経済のかじ取りに自信を持つのは当然のことで、何度か10%増税を延期してきましたが、2019年10月には、再び国民の反対を押し切って、ついに8%から10%への増税に踏み切りました。

以上の分析から、日本経済はグローバリゼーションのお陰で、従来は、活発な海外の経済活動により潤沢な配当収入などを得ることができました。 しかし、2020年以降は、中国のコロナ騒ぎによる経済悪化や韓国の通貨危機への懸念、米国や欧州での景気減速など不安な要素が高まっており、海外依存の経済体制が逆に足かせになる日も来るのではないかと懸念されています。

以 上

ページトップへ戻る