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ケインズ経済に基づく財政政策は国内のデフレ不況や貧富の格差を解消できるか

日本国内は、富裕層が増加する一方で、デフレ不況の影響もあり、民間所得が下降傾向にある中、貧富の格差が拡大していますが、図表に示されるように過去30年の主要先進国の貧富の格差の推移をみるとどの国でもその差が拡大している傾向となっています。
特に米国での貧富の差の拡大は深刻で、国内の騒乱や動乱が起こりやすい危険水域である0.4の数字に年々近づいています。日本も欧州の大国、ドイツやフランスと比べると格差が大きく、米国を追随する形で貧富の差が拡大しています。

図表:過去30年間の主要先進国における貧富の格差の推移



ジニ係数の計算は、OECDと厚労省で異なったり、計算方式が国によって若干違ったりするので、正確な比較は難しいですが、日本のジニ係数は2016年にさらにアップして格差はさらに拡大しています。

主要先進国では、新自由主義経済を信奉し政治の舵取りをしてきたため、ジニ係数が増え、貧富の差がある程度拡大するのは覚悟してきました。ところが、新自由主義経済の発達で国境を越えて自由に移動する投機マネーの金融市場の存在が、実体経済に必要な投資資金まで影響を及ぼすようになったのです。様々な憶測の中で将来に対する不安から、中国や南米など新興国から投機マネーが瞬時に移動、それによって資金が突然枯渇し、国債などの債券市場や株式市場が大暴落、当事国で有効な金融政策がとれずに企業や政府関係機関が次々と連鎖破綻するという「恐慌」のメガリスクが年々大きくなっているのです。

グローバリズムの進展で、一旦、経済的影響力の強い国、例えば中国で金融市場の大暴落があると、その影響は一国に留まらず、瞬時に連鎖的にロンドン、ニューヨーク、東京など世界の金融市場を席巻、リーマンショックのような大恐慌を引き起こすことになります。

そこでグローバルな金融を展開している欧米系の投資銀行などは、メガリスクが顕在化する前に新興国からほとんどの運用資金を引き上げるリスクヘッジ策を講じ、ハイリスクな金融市場暴落の影響を封殺するため、新興国の債券や証券の取り扱いを抑制するなど様々な防衛策を講じています。ただ、一旦、恐慌のメガリスクが起こるとドミノ効果でそうした防衛策でも欧米の金融市場を守りきれず、有効な対抗策が見出せないのが実情です。

こうした新自由主義経済のグローバリズムの弊害、危険性が周知されるようになると、欧米の先進国では、再びケインズ経済学(ニューケインズ経済学などケインズの経済理論を発展させた諸学説を含む)の再評価、有効性が話題となり、デフレ不況における有効需要創出のための積極的な財政出動による公共投資拡大や大きな政府によるセーフティネットのための社会保障強化を支持、その推進を主張するようになってきています。

ケインズ経済学は、国民所得を増やし失業をなくすため、政府は率先して投資や消費の需要(有効需要)を増やす政策をとるべきであるというスタンスをとります。第二次大戦から1960年代まで主要先進国の経済政策はこのケインズ経済学が主流でした。日本も1954年から1973年の20年弱の高度経済成長期において、大蔵省の所得倍増計画や通産省主導の工場立地法による自治体の工業団地造成など大きな政府、公共投資の促進のケインズ経済政策を実践、日本の国力を高め、経済規模を増大してきたのです。

ところが1973年から始まったオイル・ショックによる深刻なスタグフレーション(景気低迷におけるインフレの進行)や公債発行による財政赤字の拡大が深刻化するとマネタリズムが台頭、欧米先進国は、1980年代になって新自由主義経済学に基づく経済政策にシフトするようになりました。その後、リーマンショックを経験して2010年頃まで30年以上にわたり、新自由主義経済学による経済政策が主流となってきました。

この30年間において、大きな政府が経済再生のエンジンとしてけん引役となり、積極的な財政出動、公共投資を推進することで経済が成長し、所得税や法人税が増え、財政も健全化できると主張するケインズ経済学の学者や専門家は政権から疎まれる存在として片隅に追いやられてきたのです。

日本は2000年代初頭の小泉政権から2012年の民主党政権まで10年以上にわたり、麻生政権を除いて、公共投資や防衛予算の削減による小さな政府を志向する新自由主義的な政策を推進してきました。この新自由主義経済の結果、富裕層が増加し、貧富の差が大きくなり、デフレ不況が深刻化、国内市場が停滞すると同時に日本企業が海外で事業展開を強化することになり、勤労者の給与が大きく減少、所得税や法人税が落ち込みました。

さらに公共投資など財政支出を大幅に削ったため、地方を中心として日本経済そのものが停滞し、失業対策や団塊世代への年金支給など社会保障費が膨らむことで、財政赤字が幾何級数的に積み上がるという新自由主義による経済政策の弊害が顕著となってきました。
さらに2008年9月のリーマンショックを発端とする恐慌発生と欧州経済のデフレ不況、2009年9月の民主党政権発足からの政治混乱、2010年9月の尖閣諸島の中国漁船衝突事件、2011年3月11日の東日本大震災、2012年8月の竹島での韓国大統領による挑発行為、9月の尖閣諸島の国有化にともなう中国の反日暴動など様々な国難や中韓摩擦を経験することで新自由主義、グローバリズムへ嫌悪感を抱く国民が増えてきたのです。読売テレビ系番組の「そこまで言って委員会」や保守系ネット番組・チャンネル桜の「闘論!倒論!討論!」などメディアの影響力もあり、国民世論は愛国心、保守色を強めてきました。その日本の愛国心、保守化の流れに沿って、美しい日本を提唱、保守派層の心をつかんだ安倍政権が強烈な支持を受け、その人気に便乗して自由民主党が衆参で圧倒的多数の議席を獲得したのです。

日本で急増しているナショナリズム、愛国心を持つ保守層が熱く支持する経済政策は、新自由主義経済ではなく、ケインズ経済学の経済政策そのものであり、故宍戸駿太郎先生(筑波大学名誉教授)による計量経済学(ケインズ=レオンチェフ型モデル)や藤井聡先生(京大教授)のレジリエンス国土強靭化論などの積極財政による公共投資の促進を期待しているのです。当研究所もデフレ不況を脱却し、経済を拡大して日本国民を豊かにできるのは、日本の社会資本、国富を高めるケインズ経済学しかないというスタンスです。

ケインズ経済学に基づく投資と消費の有効需要を刺激する積極財政を阻害する政策は極力避けるべきであり、消費を抑制する消費税そのものは撤廃、廃止すべきなのです。
投資需要を高めるためには、法人税を下げるより大幅な投資減税を優先すれば良いのです。 さらに巨額の財政赤字を解消するには、貯蓄投資バランス理論で日本の富裕層を中心に国民が保有している1500兆円を超える莫大な金融資産を担保に国債を証券化して積極財政を推進することで解決できます。

主流となった日本の保守層は、安倍首相、自由民主党にケインズ経済学に基づき消費税を据え置き、積極的な財政政策を期待していました。日本銀行の黒田総裁による異例の大胆な金融緩和によるアベノミクスのスタートでケインズ経済政策が次々と実施されることを期待したのです。ところが安倍首相が消費税8%、10%を決断してケインズと逆行する消費需要抑制を強める政策に失望感が広がりました。
これを失策と決め付けるのではなく、国民自身が消費税の増税不況を回避する改善策を事前に講じ、それを政府へ逆提案、政策に反映できるようにする国民行動が必要になっています。

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