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提言3=社会資本市場の創設

国家証券機構の創設と並行して重要な課題になるのが、公共セクターの公的なサービス分野で雇用を大きく創出して、国主導で賃金水準を引き上げる仕組みを導入することです。ただ、公共サービスの一部を民間企業へ委託すると、入札で選定された勝ち組と敗退した負け組で明暗が分かれ、今まで公共部門で働いていた職員が仕事を失うなど弊害も大きく、逆に格差を助長することになります。

また、福祉・介護といった公共サービス分野は、国の代わりに企業や個人が事業サービスを担ってきましたが、ソーシャルビジネスとして資金収支や損益面の採算がとれていないといけません。そのために社会事業の推進に必要な資金を金融機関の借り入れだけでなく、資本市場からも調達できる新たな仕組みを導入する必要があります。

公益サービスを推進する事業会社や公益法人(社会福祉法人、財団法人、社団法人、NPO)、公的組織(独立行政法人など)が参加できる新しい社会資本を取引する市場を創設できれば、なんでもかんでも国の税金に頼るシステムはなくなります。公的サービス分野の事業会計の透明性や信頼性も高めることが可能になります。

この新しい公的な資金調達市場が「社会資本市場(ソーシャルキャピタルマーケット)」です。中央政府や地方政府、地方自治体の政府証券や自治証券を扱うまで規模を拡大した場合は、国や地方の公共セクターの資金調達まで一手に引き受けることができるようになります。

税金や公債、国債、あるいは国家証券機構による永久国債や永久地方債以外で公共セクターの返済義務や金利支払い義務が要らない資本勘定で資金調達ができる仕組み、それが社会資本市場となります。その市場の運営は、国や自治体、公共機関の資本財政、資本勘定を充実させる国家証券機構が担うことになります。

永久国債や永久地方債の最大の欠点はインフレで市場金利が高くなると変動金利が大きく跳ね上がり、固定金利で発行する場合は、債券市場の債券価値が下落することです。資本での調達であれば、配当できる時に支払えば良いので、金利支払い負担や債券安の問題から解放されます。 ただ、公益的な資本で調達するとなると法人セクターの株式会社の発想で、資本を出資した特定の組織や法人、個人が所有権を主張する問題が危惧されます。
公共セクターは万人のための公共奉仕(パブリック サービス)が原則のため、特定の組織、個人、団体の所有は許されないのです。

そこで社会資本市場といっても、経営的な所有権は一切なく、出資権と呼ばれる公益経営の経営者や役員幹部に意見が言える権利を出資比率に応じて付与するか、出資比率に関係なく出資者全員が平等に出資者総会で経営を良くするための意見や提言、議論ができる経営参加の権利を与えるレベルで抑制する必要があります。国や都道府県、市町村の自治体は、選挙で選ばれた首相や首長、議員が行政をつかさどるので、原則出資だけとなります。

こうして公益経営に企業や個人、団体などが直接出資、参加できる社会資本市場ができれば、公共セクター全体の社会資本化を進め、出資者が公益経営を監視して、より効率的な優れた経営を志向する社会経済制度を構築できます。この新しい社会経済制度が「社会資本主義(ソーシャル・キャピタリズム)」と呼ばれるものです。

社会資本市場を中心とする新しい社会経済制度を活用できれば、公的市場を使って社会福祉などへ投入する税金を大幅に軽減できます。日本の一番大きな問題が「過剰貯蓄」にあること、そして増税などで国民から貯蓄のお金の権利(所有権)を奪わず、国家証券機構を通じて永久国債や永久地方債、社会資本として資金を移転、活用することで財政状況を大きく改善できるのです。

ただ、いくら国や自治体が資金をうまく集めることができても、その後の投資、運用で非効率な公益経営を続ければ、再び国や地方の借金は膨らみ財政状況が悪化します。 そこで社会資本市場に参加した出資者が経営に関与して、公共セクターにおける擬似的な資本主義化を推進すれば、民間企業のように効率的でサービス精神あふれる公益経営を実現できます。 具体的に社会資本市場を創出する場合の制度設計では、次の点に注意する必要があります。

(1)証券元本保証・配当無保証

証券市場である限り、証券会社を通じて売り買いが行われます。しかし、その証券は欲がうずまく一般の証券市場とは異なります。社会資本といわれる公益資産になる証券であり、もし株主に法的な相続人が誰もいない場合は、全て国へ返納されます。
また、元本は上限を決めて保証されますが、証券の人気が出て証券価値が倍になってキャピタルゲインを得た場合は、通常より多くの税金がかけられます。購入時に免税になった金額もしっかり控除され、差し引かれます。配当も一切保証されません。でも1%以下の貯金よりはましな程度の配当を検討する公的な参加機関は多いと推察できます。

ただし、配当にも税金はかけられます。証券の保有者の株主総会にあたる出資者総会は開かれますが、配当が云々されることはなく、いかに世の中に役立つことに資金が使われ、今後どのように広く国民のために公的なサービスを充実できるかが議論の中心になります。
また、上場している公的なサービス機関が存続できず上場が廃止になっても、国家証券機構が出資証券の元本を払い戻します。まさに政府お墨付きの元本保証の信頼できる特殊な資本市場、それが社会資本市場です。

(2)相続税の免税(一部免除含む)

高齢者があの世に行く前に少しは世の中のためにお金を使い、さらに残された遺族にも何か誇れる財産を残したいということで購入する方が増えると推察できます。そうした思いの方のために購入金額に上限をつけ相続税を無税にする制度を導入します

相続した方が売るときは、当時免除を受けた相続税が差し引かれるので、世の中が増えるお金の世界で健全なインフレになれば得する勘定になります。まさに名作クリスマスキャロルで小金を溜めたスクルージが未来の精霊に教えられ、改心してお金を使い始める姿と同じです。 スクルージ・ファンドと命名しても良いかも知れません。

(3)市場参加資格の厳選

反社会勢力の人たちが、何か邪(よこしま)な別目的、例えばマネーロンダリングのような反社会的目的で出資することを防ぐため、法人や個人、団体が証券会社経由で出資証券を購入する場合は、身上調査や誓約書など出資者、投資家としての保有適格条件に合致しているか厳正なる審査をします。

すでに国が元本を保証して出資者、投資家の保護を約束しており、そうした厳しい審査は、逆に市場の信頼性や権威を高めることにつながります。なお、公的市場の証券取り扱いを希望する証券会社についても、源泉なる審査が必要になることは言うまでもありません。

(4)公的サービスを通じた投資先との交流促進

老人介護を受けたい高齢者が介護サービスの施設に出資する場合や障害者の子をもつ親がその子を預ける施設に出資する場合など特定の公的サービス機関への出資を通じて交流を促進することが考えられます。むしろ、そうした受益者の立場で出資するケースには、手続きを簡素化し、証券購入に対して補助金、助成金を付与することなどが考えられます。

(5)社会貢献の名誉と社会的な栄誉

公的市場の証券を保有していることが社会的な貢献をしていることで人々から一目置かれる存在になる可能性は高いですが、一方で高額納税者の金持ちにどんどん参加を促す仕組みづくりも必要です。多額の資金を出資して頂いた方へ表彰状を授与し、勲章の対象にすることも大事な配慮になります。

政府系の公的機関だけでなく、公益サービスを推進する株式会社やNPO、社会福祉法人、財団法人、社団法人など公的な機関が、この公的な資本市場を通じて円滑に資金調達ができるようになれば、資金繰りに困らず経営が安定するだけでなく、金持ちや高齢者に偏在している貯蓄資金が公的事業に投入されるので、その分本来、社会保障制度の中で政府の補助金、助成金の名目で救済目的に使われてきた税金も軽減できます。新しい公的なサービス分野へ資金還元の仕組みをつくれば、過剰貯蓄の資金の一部を政府へ戻すことも可能となります。

例えば、個人の相続税対策の資金を社会資本市場に公開している公共機関に出資してもらうケースを考えて見ましょう。

相続税の基礎控除額は、5000万円に法定相続人の数に1000万円を掛けた額まで適用されます。2015年から6割の3000万円に法定相続人の数に600万円を掛けた額へ減額になりました。法定相続人が2名の場合、7000万円から4200万円へ減額となります。生前贈与は65歳以上であれば、2500万円まで無税で相続時精算課税となります。また、3億円を超える場合の相続税は50%になります。

社会資本への出資2500万円まで、基礎控除額に加算して控除できると仮定します。 社会資本市場で公開している公共機関の出資証券を法定相続人へ2500万円まで無税で引き渡すことができるので、配当は約束されていないが、出資証券の全額が保証されるので、相続遺産として人気がでてきます。

社会資本への出資について、仮に3億円を超えて10億円まで相続税を10%へ減額できるメリットを付与すると相続時に3億円を越える部分は40%の相続税を支払わないで済み、法定相続人は資金的な負担を大きく軽減できます。将来、出資証券を売却した時に支払わなくて済んだ40%の相続税を支払う必要がありますが、仮に相続時から10年毎に5%ずつ相続税を免除できれば、80年後には売却しても無税になります。富裕層が相続人に資金的な負担を軽減できる安全な遺産を遺したい場合、社会資本市場で公開している公共機関の出資証券は節税面で賢明な選択肢の一つになります。

このように社会資本市場で個人が出資証券を購入する場合のメリットとして相続税の免除を盛り込めば、無配当でも長期にわたって出資された状態で偏在している富裕層や高齢者の資金を有効活用できます。また、法人が社会資本市場で出資証券を購入する場合に仮に1000億円まで法人税を5%減免できるとすれば、毎年、数兆円以上の資金が無配当でも市場に流れ込んできます。 わずかばかりの節税のメリットをアピールするだけで、毎年、個人や法人から巨額の資金が出資証券へ流れ込み、公益資本市場で取引されるようになります。

一方、このまま政府が何も有効な手を打たないと消費税10%大不況で貧困層がさらに増え、生活ギリギリのサバイバル層も増えます。 セーフティネットでも救済されないノンサポート層を中心として、長期に無職でその日暮らしで過ごす人たちが増えます。社会資本市場で新たな資金調達ができるようになれば、社会制度をうまく活用した最低限の仕事や給与が得られる福祉的な事業を創出することも可能になってきます。
セーフティネット(社会生活救済保障制度)の中で福祉・年金の3大対象は障害者、高齢者、生活困窮者ですが、さらに医療の分野になると国民皆保険や老人介護保険が該当します。



従来は、こうしたセーフティネットを充実しようとすれば国の予算がふくらみ、予算が赤字なら税金を増やす必要がありました。福祉といえば、国民の誰もが税金を投入すべき分野の筆頭にあげます。ところが社会資本市場で公開して資金を集め、創意工夫をして知恵を絞って公益経営をおこなえば、税金を多く投入しなくても、効果的に本来の福祉目的を達成できます。セーフティネット分野で、なんでもかんでも国が面倒を見るシステムから、社会資本市場を通じて社会的な貢献意識の強い企業や個人に面倒を見てもらう制度を導入すれば良いのです。福祉分野で企業や個人からの出資資金で公益経営を維持、発展するシステムを構築できれば、大幅な税金の軽減も目指すことができます。

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